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教員が語る専門領域の魅力 vol.17

高橋 絹子 教授

ヒトだけが可能にするコミュニケーション、「通訳」について考える

高橋 絹子 教授

Profile

大学卒業後の2年間は、ドイツ系銀行の東京支店に勤務していました。その後、大学院に行くまでの約20年は英語の通訳者として仕事をしていました。思いがけず、通訳の研究をすることになり今に至ります。

通訳ガイドから通訳者へ

 高校生のころから日本語を外国語に換えることにとても興味がありました。また中学から茶道を習っていたので、日本文化を外国語で表現することにも関心がありました。これが私と通訳案内士(通訳ガイド)との出会いです。次第に、政治や経済なども含めたもっと様々な分野のことを外国語で表現してみたいと感じ始め、「通訳者」という職業にたどりつきました。通訳はある意味での情報産業で、語学力だけでなく、自分でも通訳するテーマについて語ることができるくらいその分野に精通していなければいけません。ただ単に語学力だけではなく、背景知識や社会に関する知識や常識もないと、母語にも外国語にも通訳をすることはできないのです。

音声学との出会い、そして通訳と音声学

 しかしそのためには、やはり外国語がしっかり聞き取れることが大前提です。私は、英語は日本でしか勉強をしたことがなく(EFL学習者)英語の聞き取りには、とても苦労しました。読めば理解できるのに聞き取れない苦労がありました。でもこれでは通訳者はつとまりません。その後大学院に進み英語の音声の特質や規則を音声学を通して学び、実際の音声と頭の中に入っていた音声の違いを初めて知りました。また音声学を学んだことで、自分が聞こえないと思っていた音声は、実はほとんど発音されていない音であったこともわかりました。通訳者には俗に「よい耳が必要」と言われますが、では一体、よい耳とは何なのか、それ以来、これをずっと探求しています。

変わりつつある現場の通訳者。通訳者とは何?

 本来、自ら英語で意思疎通ができない人たちの依頼を受けて、コミュニケーションを成立させるのが通訳者のはずです。しかし最近、ビジネスの通訳現場では、英語が堪能なビジネス関係者からも通訳の依頼があることもよくあります。これは一体どういうことなのでしょうか?通訳者という存在は一体何なのでしょうか?ビジネスの通訳現場では、状況に応じて通訳者を使ったり使わなかったりという「通訳者の使い分け」が行われます。依頼を受けてもほとんど通訳の必要がない場面もあります。従来通訳者を使うメリットと考えられていたことが次第に変化してきているためで、現段階ではまだAIなどの機械は、ヒトの複雑な要求に完全に応えることはできないでしょう。

学生のみなさんへのメッセージ

 「通訳」とは実践して初めて「通訳」ですが、様々な角度から検証したり、考察したりしてみることもとても楽しいことです。「実践」に行き詰ったら、一歩立ち止まって、異なる視点で通訳を見てみることもよい方法です。活路が見出されるかもしれません。「耐えられないような試練に遭わせられることはない」(コリントの信徒への手紙一10-13)そうですから。