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教員が語る専門領域の魅力 vol.12

松岡 雄太 准教授

似ている言語から見えるもの マイノリティ側の視点に立ってみる

松岡 雄太 准教授

Profile

日本語と同じアルタイ型言語に分類される朝鮮語・モンゴル語・満洲語といった、東アジアに隣接して分布する言語を対象に、主にその文法(とこれらの言語地域の外国語教育史)を研究しています。

未知なる外国語への挑戦

 高校の頃からヒトが話す「ことば」に関心があり、ことばを研究する言語学が学べる大学(学部)を探して進学しました。言語学をやるには、何か一つ対象言語を選ばなければなりません。英語や日本語でもよかったのですが、大学に入って選んだのは、90年代まだ周囲にやり手の少なかった朝鮮語でした。その後いろいろあって、朝鮮半島の北に隣接する(もっとやり手の少ない)モンゴル語や満洲語(中国に清を建国した満洲族の言語)にまでも手を出すことになりました。言語学は大変裾野が広いのですが、私の専門は主にこれらの言語を対象にした記述言語学、中でも動詞に関わる文法カテゴリの研究です。

地味な喜び

 文法の学習は地味なので、えてして学習者に毛嫌いされますが、実際のところ、その研究もかなり地味です。私の場合、調査は現地(主に韓国と中国)の母語話者への聞き取りです。ある文法形式の意味や用法を調べる際は、その文法形式を含む文と文脈を提示して、その文がその文脈で言えるかどうかを尋ね、言えない(あるいは言える)と言われたら、文の一部をいじったり文脈を変えたりして再度言えるかどうか聞く、といった細かい作業を繰り返します。調べはじめは、暗闇の中を手さぐりで右往左往するような感じですが、疑問点が明らかになっていくにつれ、少しずつ向かうべき方向が定まって、遙か先に小さな光が見えはじめ、いよいよ明らかになった瞬間は、暗いトンネルから抜け出したような喜びを味わえます。

実用性とは何か?

蟠龍湖に水没した長城(河北省寛城満族自治県)

 朝鮮語は今や書店に学習書がたくさん並ぶ、随分なじみある言語になりました。ですが、モンゴル語や満洲語はまだまだマイノリティ言語です。このような少数民族言語の中には話者が高齢化し、マジョリティ言語との二重言語状態をへて、若者はそれを母語として話せなくなり、消滅の危機にあるものもあります。満洲語は過去に書かれた膨大な文献を残し、そうしてほぼ消滅してしまった言語の一つです。マイノリティ言語は「実用性」にも欠きます。ですが、話者が存在する限り(もう存在していなくても)、少なくともその言語の使い手(だった人)にとって実用性はあるはずです。マイノリティ言語ほどその研究者は少なく、辞書や文法書の記述も不完全なものになりがちです。まだよく明らかになっていないことがある限り、研究に終わりはありません。私の担当する学部授業の一つでは、このようなマイノリティ言語を学ぶ意義について考える時間を設けるようにもしています。

学生のみなさんへのメッセージ

 居處恭、執事敬、興人忠。雖之夷狄、不可棄也
 <居処は恭、事を執りて敬、人と与わりて忠なれ。夷狄に之くと雖も、棄つ可からざる也>
 (「論語・子路第十三」井波律子訳)