大学卒業後に就職をした企業では、さまざまな文化背景の社員が一緒に働いており、多国籍・多文化における人材育成に関心を持ちました。大学院に戻り、国際政治学を専攻しながら、その中でもコミュニケーションの分野に関心を持ちました。共通語の英語や日本語を話しているのに違和感があるのはなぜなのか、という疑問の答えを見つけるヒントがこの分野にあったのです。その後、ニューメキシコで異文化間コミュニケーションの分野の創始者と言われている先生の授業を受けたことは大きな財産になりました。その先生からは頭で考えるだけでなく、自分の五感を使って学ぶことを教わりました。言葉ができても誤解が生じる理由を、文化やコミュニケーションの観点から一般の人にもわかりやすく紹介してきた先生の教えは重みがありました。
現在、継続している研究の一つに文化背景の違う人々にどのように公衆衛生を広めていくのか、というのがあります。具体的には、ニューメキシコにおける文化背景の違う、主にネィティブ・アメリカンの人々が住む地域の生活や伝統に合った生活改善方法を一緒に考えてプログラムを作っていくことです。そこでも価値観の違いからなかなかうまくいかないこともあります。なかでも時間の感覚の違いには頭ではわかっていても苛立つこともありました。日本の時間感覚に慣れている私にとっては、ミーティング開始時間が1時間以上も遅れていても慌てる様子もない相手を目の前にすると、改めて価値観の違う人々と仕事をしていく難しさを認識します。時々、「これが授業で学んだことだ」と頭では理解していても、感情レベルでは全く受け止められていない自分に気が付くこともしばしばです。
それでも、文化の違いからくるコミュニケーションの取り方を知っているのと知らないのでは相手との向き合い方が違ってきます。私自身も毎回が学びの連続です。有名な社会心理学者が、異文化間コミュニケーションの研究は、他の文化への旅から始まり、自分の文化への旅として終わる、というようなことばを残しています。まさに私も他の文化への「なぜ」「もっと知りたい」から始まり、今もさまざまな違いを経験しながら、同時に「私自身の文化の価値観は?私はどういう判断基準をしているのか?」と自問を続けています。異文化間コミュニケーションの分野は、言葉への興味や知らない場所への興味から始まり、さまざまな経験をしながら自分自身の文化について深く知るきっかけになります。それにより相手を理解することができ、結果的には良いコミュニケーションにつながっていくと思います。
“We need to know and appreciate others in order to know who we are.” (Edward T. Hall)