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教員が語る専門領域の魅力 vol.12

山田 優 准教授

人工知能が翻訳をするためには、人間が翻訳を理解する必要がある

山田 優 准教授

Profile

専門は翻訳通訳学、翻訳通訳教育方法論、翻訳テクノロジー論。特に人間翻訳者の訳出プロセスにおける認知的側面や機械翻訳などのテクノロジーとの相互行為に感心がある。

 私は大学で研究をするようになる前は、翻訳者でした。翻訳は難しく、魅力的で楽しいことでもありますが、複雑な作業でもあります。最近では、翻訳の作業を支援してくれる様々なテクノロジーも存在します。機械翻訳もそのひとつです。しかし、正直、機械翻訳は上手に訳してくれません。なぜ機械は翻訳が苦手なのでしょうか?

 私は大学で翻訳の授業を中心に教えています。学生たちは一生懸命、翻訳を学んでくれます。でも、最初のうちは、とても苦労をします。英語は理解できているようですが、翻訳することはそれとは別問題のようです。

 機械と人間は違いますが、その違いは何でしょう?機械翻訳の仕組みはどうなっているのか、人間の頭の中はどうなっているのか、この謎を解き明かすのは簡単ではありません。そして、この問題を掘り下げていくと、実は私達が「翻訳という作業」、すなわち、人間が言語をどのように理解しているのか、という複雑なメカニズムを十分に理解していないことに気付くのです。これが私の研究の動機です。

 翻訳通訳学は、このように「訳す」メカニズムの解明の手助けをしてくれます。この学問を探求するためには、言語学だけでなく、社会学、歴史学、人類学、脳科学、情報科学のような分野の知見を必要とします。非常に学際的な学問であります。究極的には、訳すアルゴリズムを人工知能に実装できるかもしれませんが、そのためにはまだまだ多くの努力と時間を要します。

 翻訳通訳学のもう1つの魅力は、既存の研究分野に新たな視点を加えられることです。これまでの学問、例えば歴史学に「翻訳」や「通訳」という切り口を加えることで新事実が見えてきたり、外国語学習に翻訳を応用することで違った効用が得られる可能性があるなど、研究トピックの開拓、そして研究分野に新たな地平を開きます。

 いずれにしても、我々人類にとって、言語というものは謎の多い研究対象であるのですが、その謎の解明にも翻訳学が新たな知見を加えられるかもしれないのです。

学生のみなさんへのメッセージ

 グローバル化社会は、とりあえずのところ、英語を中心に展開していますが、英語以外の言語の必要性や関心も、急速に高まっているのです。その背景の1つに「翻訳」のニーズ拡大があります。実は、グローバル化社会が求めている人材は、翻訳や通訳ができるような人材、つまり多言語でコミュニケーションができる人材でもあるのです。