1. トップ
  2. 教員が語る専門領域の魅力
  3. 教員が語る専門領域の魅力 vol.10 今井 裕之 教授

教員が語る専門領域の魅力 vol.10

今井 裕之 教授

日常のコミュニケーションと英語授業のコミュニケーションは遠くて近い
今井 裕之 教授
Profile
「専門分野は英語教育学。教室でのコミュニケーションを通した外国語学習を研究している。また、その成果を評価するスピーキングテストの開発も行っている。」

 平成25年度から実施された高等学校学習指導要領の外国語科解説編には「授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とすること」「普段の授業で英語を使用することにより、教室自体が自然な言語の使用場面となるよう環境づくりをすること」が明記され強く求められています。授業で英語を使う機会を増やし習得効率を高めるには、授業自体を英語で行うべきとの判断は理にかなったものだとは思います。ただ一方で、教室でのコミュニケーションが「自然な言語使用場面」での「実際のコミュニケーション」なのかは疑問で、むしろ「特殊な言語使用場面」と言ったほうが適切ではないでしょうか。授業者として教壇に立ってみて、英語授業がいかに「不思議な言語使用場面」であるかを実感したのが、私の英語授業研究のはじまりだったように思います。

 私たちの日常生活では、レストランでの注文のように定式と目的に沿ったやりとりをする一方で、電車での友だちとの会話のような、定式や目的がない偶発的なやりとりもします。授業は偶発的なこともありますが、目的、定式が強いコミュニケーションです。教師や生徒は、英語授業のもつ目的や定式に従いながらも、「自然な場」での「実際の」コミュニケーションを実践せねばならず、二重に縛られたコミュニケーションが求められます。教科書の登場人物たちの発話は不自然だと批判されることが時々ありますが、彼らは二重の縛りに苦しみながらも会話をつなごうとしているのです。それは教師や生徒たちも同じです。

 そんな英語授業のコミュニケーションを研究し続けわかったことのひとつは、外国語学習は、「英語の自己(self)」をつくることであり、英語を話す「新しい自分」、現在はまだ成っていないけれど、そう成りたい自分の姿を背伸びして演じることだということです。また、英語の自己を演じているクラスメートを、肯定的に受け止めることも授業参加者の演じるべきもうひとつの大切な役割です。このような研究をしていますので、自分も授業の参加者として、学生の背伸びを受け止めるとともに、新しい教師像を背伸びしながら演じています。

学生のみなさんへのメッセージ

 授業をよりよい時間と場所に変えるのは、英語指導者だけの仕事ではありません。指導者と学習者とテクストが出会う場に、学習者の皆さんがどのように参加するかが、実は授業のあり方を決める重要な要素だと思います。どんな役割を帯びて授業に参加し、どんな自分を演じるのか次第であなたの教室での生活の質(Quality of classroom life)が、そして英語学習の質がどんどん変わりますよ。