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教員が語る専門領域の魅力 vol.9

柏木 貴久子 教授

複雑に絡み合う文化という織物を、根気よく、しかし歓びを持って解きあかしていこう 柏木 貴久子 教授 Profile「専門は近現代ドイツ文学、ドイツ文化に基礎を置くヨーロッパ民族学。また20世紀絵画に並んで、物質の変容を表現した現代美術に注目している。文学テクストを契機とした学際的な研究を目指す。」(写真:ミュンヘン大学中央校舎)


主催者の一人として参加

外国語学部で伝えたいこと

 「なぜドイツ文学を専攻したのですか」と今でも時おり聞かれます。高校生の時にルキノ・ヴィスコンティの映画に惹かれ、ドイツ文化に造詣の深かったヴィスコンティ監督を通じ、文豪トーマス・マンを読むようになりました。作品を原語で読みたい、というのが専攻志望理由でした。つまり他者の異文化受容を通じて、今度は自らが主導的に、その文化を受容しようと思うに至ったわけです。しかしそれは受動的な行為ではあり得ません。興味の触手を伸ばしていくのは、つまり分析と解釈への一歩を踏み出し、その歩みを続けていくのは、積極性を必要とする、実は勇気と根気のいる行為なのです。そしてその対象が外国語圏に属するのであれば、文字通り言葉の壁が立ちはだかります。なぜなら言葉が担うものは広範かつ多層的なのですから。文化的、精神的財産を記録し、伝え、発展させ、様々な解釈を加え、それぞれの時代の知のパラダイムを形成してゆく力を言葉が担っているのですから。だからこそ永遠に階段を上るような努力が求められるのであり、しかしその一段一段に、知の交換のダイナミズムに触れる歓びも隠れているのです。これは、「なぜドイツ文学なのか」という先の問いによって初心にたち返る私が、改めて感じることでもあります。
 私は外国語学部で地域文化研究(ヨーロッパ)と上級年次生が履修する外国語演習(ドイツ語)を担当しています。授業を通じて文化の多様性と多層性、言葉と格闘することによって広がる地平の広さの一端でも伝えることができたら、こんなに嬉しいことはありません。

「文化研究」としての「文学研究」

 文学テクストは社会や日常生活で起こるあらゆる事象、さまざまなメディアによる表象を内包する複雑な構築物であり、文化という織物を範例的に示す分析対象です。文化の読解性に注目したとき、この織物を解く術を握るのは観察眼と文献学で培われる読解力です。私が研究において行っているのは、テクストの周縁領域を視野に入れることで意味付与の過程と美意識を含めた認識の変遷を抽出する試みです。大きなテーマのひとつは「食」。社会的総合現象としての食物摂取を文化形成の過程という視点から観察します。もうひとつは「都市」。新興メディアの影響や生活形式、芸術潮流の変遷に注目しながら、大都市という空間、その空間性の変容を扱っています。解釈の作業は集団および個人の生を考察すること、数値化できない人間の機微を意識化することだと考えています。

学生のみなさんへのメッセージ

 外国語学部で「セカンドハンド」ではない文化へのアプローチを目指してほしいと思います。言語構造は思考方法をも形成します。さまざまな文化圏に興味を持って、その地の言語にぜひ挑戦してください。