1. トップ
  2. 教員が語る専門領域の魅力
  3. 教員が語る専門領域の魅力 vol.6 内田 慶市 教授

教員が語る専門領域の魅力 vol.6

内田 慶市 教授

すべてを疑え

内田 慶市 教授

Profile

1951年福井生まれ、1978年大阪市立大学大学院修了。 1978年福井大学教育学部講師、1980年同助教授、1990年関西大学文学部助教授、1992年同教授、2009年同外国語学部教授。博士(文学)。

 私の専門は中国言語学ですが、この10年余りは特に16世紀以降の「西学東漸」における東西の言語文化接触を主なテーマとして研究をしています。また、併せて文科省のグローバルCOEにも採択された「文化交渉学」という新しい学問体系の確立に向けても研鑽を続けています。
 ところで言語文化接触、あるいは文化交渉において、その媒体となるのは、「人・もの・ことば」ですが、中でも「ことば」は最も重要なものです。新しい事物が入ってくれば必ず新しい「ことば」が必要になります。ここに「翻訳」という問題が出てくるわけですが、「翻訳」とは実は単に「ことば」だけの問題ではありません。「ことば」の背景には「文化」があります。その民族のことばには、その民族の文化が反映されているわけです。
 外国語学部では「ことば」の習得が求められますが、ことばを習得するということは、発音・語彙・語法が完璧でも実はまだ半分でしかありません。残りの半分がつまり「文化の翻訳」あるいは「異文化理解」ということなのです。
 語法には適っていても、そうは言わないということが沢山あります。「こちらにはあって、あちらにはない」ということも屡々です。たとえば、以下の例を見ていただければすぐに分かると思います。

白線の内側でお待ち下さい。(日本語)
請在白線外辺等候(白線の外側でお待ち下さい)。(中国語)

無線LANによるインターネット接続サービスのご利用は新大阪までとなっております。(新幹線N700系「のぞみ」の車内放送)
Wireless internet connection service will not be available after leaving Shin-Osaka.(同上の電子掲示板の英語テロップ)

昨晩は何時まで起きていましたか?(日本語)
昨天晩上幾点睡覚?(昨晩は何時に寝ましたか)(中国語)

 「自分たちの言語にあるから相手の言語にもあるはずだ」と考えるのは「思い上がり」です。このことはことばだけでなく、全てに当てはまることです。自分の基準だけで判断してはいけないのです。自分だけが、あるいは力こそが正義だと考えることが悲劇の始まりです。かつてのベトナムやイラク、アフガンにおけるアメリカの姿がまさにそれだと思います。16世紀以降の東アジアにやってきた宣教師達はそのような立場を取りませんでした。相手のことばを、そして文化を尊重したのです。それはまさに金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」に通ずる考え方です。そこから始めようではありませんか。

学生のみなさんへのメッセージ

 私は、青春とは今ある幸せを疑いながら生きることだと思っています。ですから、それは実際の年齢とは異なります。疑うことをやめれば青春は終わります。先ずは教師の言葉から疑ってかかることです。そして自らの頭で考えることです。「すべてを疑い、権威に盲従せず、通説を鵜呑みにしないこと」この言葉を私から皆さんに送ります。