授業のサポート
教員インタビュー
学生自身がつくり上げる、責任ある学びの場
外国語学部
植木 美千子教授
英語教育学/英語教授法/学習者論
植木美千子 (うえき みちこ)
関西大学大学院外国語教育学研究科博士前期課程・後期課程修了(博士:外国語教育学)。日本学術振興会特別研究員(DC2)、お茶の水女子大学外国語教育センター常勤講師を経て、本学に助教として着任。2020年度に准教授、2026年より現職。
学部生時代には西オーストラリア大学に留学した。専門は、第二言語(英語)習得論における学習者情意。日本人英語学習者の動機づけや不安がどのように習得過程や習得度に影響を及ぼすのかについて研究している。
vol.6
回答いただく科目について
言語教育学・英語(50人程度)
Q1 先生が担当されている授業では、どのようなことを大切にされていますか。
植木:
授業で大切にしている考え方は、英語の授業か専門的な内容を扱う授業かによって異なる部分もありますが、共通しているのは、学生に考えさせ、学んだことを実際に使わせることです。とてもシンプルですが、どの科目にも通じる大切な点だと思っています。たとえば講義形式の授業でも、知識をただ覚えるだけで終わらせるのではなく、最初に「最後に解決すべき課題」を示します。身近なケースを提示し、そのケースを主観だけでなく、これまでの研究で分かっていることをもとに説明し、よりよく解決するために必要な材料として知識を学んでもらいます。最後には、「今学んだことを使って、このケースをどう改善できると思うか」と問いかけます。知識を学ぶことと、それを使って考えることの両方に意味を感じてもらえるようにすることを、授業づくりでは大切にしています。
山田(インタビュアー):
つまり、知識やスキルを身につけること自体をゴールにするのではなく、「何のために学ぶのか」「それをどう使うのか」まで考えさせるということですね。
植木:
特に講義では、その点を強く意識しています。「将来必要になるから今学びなさい」と伝えても、必要性が身近に感じられなければ、なかなか実感しにくいと思います。だから、授業の中でまず考えるべき課題を示して、「これを考えるためには、この知識が必要だ」と感じられるようにしたいと思っています。外国語学習についても同じで、「自分にとって外国語が話せるとはどういうことなのか」だけでなく、「外国語を使う自分をどのように捉えているのか」も考えてほしいと思っています。将来どのような場面で英語を使いたいのか、その時どのような自分でありたいのかを考えることで、自分に必要な英語や目標も見えてきます。そして今はAIが支援してくれる時代だからこそ、外国語を使えることは、自分にとってどんな意味を持つのかを考えることが、これまで以上に大切だと思っています。
Q2 授業全体(コース,学習環境等)をどのようにデザインしておられますか?
植木:
授業は基本的に1回完結型で設計しています。毎回、「まず知識を学ぶ」「その知識を使って考える」「最後に実際の課題に応用する」という流れです。扱う内容は変わっても授業の型は同じなので、学生も「今日は何をして、最後に何を目指すのか」を見通しやすくなります。
また、ある回でうまくいかなかったとしても、それで終わりではありません。何がうまくいかなかったのかを振り返り、次の回でまた挑戦できます。毎回同じ流れで新たに取り組む機会があることも、1回完結型のよさだと思っています。こうした「次がある」仕組みは、安心して学びに参加できる環境にもつながります。90分の授業では、説明や途中の簡単な活動に50分ほど使い、残りは学生が自分でが課題に取り組んだりする時間にしています。すべてを説明してしまうのではなく、学生自身が考える余白を残すことも意識しています。
山田:
個人ワーク、ペアワーク、グループワークは、どのように使い分けていますか。
植木:
課題の内容や分量で判断しています。扱う知識が多かったり、複数の視点から考える必要があったりする場合は、ペアやグループで取り組んでもらうことがあります。一方で、授業で学んだことを自分なりに使って考えられる課題は、個人で取り組んでもらうことが多いです。
Q3 実践する上で、グループワーク、フィードバックなど、工夫していることはありますか。
植木:
いくつかありますが、特に大切にしているのは、フィードバックと公平性です。学生がなぜこの評価になったのかをできるだけ理解できるように、課題や小テストの評価は継続的に可視化しています。過去に受講生から、授業では提出したもの全てにフィードバックが返ってくることが印象に残ったと言われたことがあります。私たち(外国語教育)の分野では、フィードバックが学習にとって効果的であることを示す研究は多くあります。限られた授業時間の中で丁寧に行うことが難しい場合もありまが、研究で学習に有効だと分かっていることは、できるだけ自分の授業にも取り入れたいと思っています。
山田:
グループワークでの「公平性」については、どのように工夫されていますか。
植木:
グループで活動する時には、一部の人に負担が偏ることがあります。そこで、活動後に自分自身と他のメンバーの貢献を振り返る相互評価を取り入れ、自分の役割を意識して取り組めるようにしています。うまくいっているチームでは、全員がそれぞれの形で貢献しています。コースの最後には、その経験をもとに「よいグループワークとは何か」を振り返り、自分がどのような関わり方を大切にしたのかを考えてもらいます。こうした経験も、社会に出て他者と協働するうえで大切な学びになると思っています。
Q4 教室全体のマネジメントと個別対応のバランスについて、どのように考え、実践されていますか。
植木:
私の授業では、最大でも50人程度のクラスですが、毎回ペアやグループを変えながら活動しています。まず共通点を見つけるワークを行い、話し合いやすい雰囲気をつくった上で学習に入ります。グループワークで大切にしているのは、自分の意見を言うことだけではありません。相手の意見を引き出すことも、立派な参加の仕方だと伝えています。そうやって、学生の中で「参加する」ということの捉え方自体を少し広げたいと思っています。こうした多様な関わり方を認めながら、教室全体に安心して参加できる空間をつくることを重視しています。特定の相手だから話せるのではなく、さまざまな人と関わる中で、「苦手だと思っていた相手ともできた」という経験を積むことが大切です。そうした経験があれば、別の環境でも自分なりに関われるかもしれないと思えるようになるかもしれません。
山田:
個別に介入して解決するというよりも、教室全体の空気を整え、学生自身が考えながら場を作っていくということですね。
植木:
そうですね。実際、中間時点で授業の進め方について学生に話し合ってもらうこともありました。小テストの形式、授業時間の配分、タスクの重さなどを学生と確認し、後半の授業スタイルに反映することがあります。学生と一緒に授業を作っていく感覚です。
Q5 こうした実践によって、学生の反応や学習成果にはどのような変化がありますか。
植木:
授業では、学生自身から得られたデータを分析し、その結果を学生に返すということもしています。例えば、「皆さんのデータを分析すると、こういう傾向が見られました」と示し、それが本当に自分にも当てはまるのかを、自分の経験と照らし合わせながら考えてもらいます。自分たち自身に関わるデータなので関心も高く、授業後に「自分の考察を見てくれましたか」と声をかけてくる学生もいます。研究結果を一方的に教えるのではなく、学生自身もその結果を考え、意味づける側に入る。そうすることで、研究そのものを学びながら、一緒に学びをつくっていけると感じています。
Q6 実践上、難しいと感じていることや、これからチャレンジしてみたいことはありますか。
植木:
今後のチャレンジとしては、教育を研究対象とするだけでなく、研究を教育へ還元し、学生自身もそのプロセスに参画できるような新しい学びの形を広げていきたいと考えています。
一方で、授業で難しいと感じることは、毎年同じではありません。その年の学生やクラスの雰囲気によって変わります。なかなか意見交換が生まれないクラスでは、学生の様子を見ながら、活動の内容や順番、組み合わせなどを調整します。決まった方法をそのまま当てはめるのではなく、その時のクラスにとって何が必要なのかを考えながら、授業をつくっていくことが大切だと思っています。
山田:
本日は、授業設計、フィードバック、公平性、レスポンシビリティ、対等性、研究と教育の接続など、多くの示唆をいただきました。面白くて1時間があっという間でした。ありがとうございました。
取材記録
インタビュアー:教育推進部 教授 山田剛史
記事編集:教育開発支援室 笠谷柊
(取材日:2026年7月15日、Web公開日:2026年10月20日)