授業のサポート
教員インタビュー
学生は「可能性の塊」 挑戦が育つ学びの場をつくる
商学部
横山 恵子教授
組織間協働、ソーシャル・アントレプレナーシップ
横山恵子(よこやま けいこ)
北海道大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。2013年4月より関西大学商学部に着任。ベンチャー論および中小企業論を担当している。
好きなことに打ち込める仕事環境に感謝して、研究や教育の現場でわくわくしようとする気持ちを大切に精進したいと思う日々である。
vol.8
回答いただく科目について
中小企業論(500人程度)
専門演習・卒業研究(ゼミ形式)
Q1 先生が担当されている授業では、どのようなことを大切にされていますか。
横山:
AI時代になり、知識を整理して伝えることはもちろん大切ですが、その重要性は相対的に変化していると感じています。だからこそ私は、学生を学びへと動機づけ、一人ひとりの可能性を広げられる教員でありたいと考えています。大学は学生の可能性を広げる場です。学生を「可能性の塊」と捉え、これからの社会を担う若者へのリスペクトをもって向き合うことを大切にしています。
山田(インタビュアー):
先生がおっしゃる「学生の可能性」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
横山:
特に大切なのは、健全な自己肯定感を持ってもらうことです。そのためには、大学時代にさまざまな経験を重ね、自分の頭で考え、学び続けるための「頭の使い方」を身につけてほしいと思っています。ゼミでは、理論を先に教えてそのとおりに行動させるのではなく、まず実践を経験し、その後で理論を使って振り返ります。失敗も含めた経験から、「理論的にはこう説明できる」「理論にはないけれど面白いことができた」と気づく。経験と理論を往還する学びを大切にしています。
Q2 授業全体(コース、学習環境等)をどのようにデザインしておられますか。
横山:
中小企業論では、まず経営者の立場になって意思決定する問いを提示します。経営学では、状況が変われば望ましい判断も変わるため、唯一の正解があるとは限りません。定番的な理論を示しながらも、「実際にはどうだろう」「自分ならどうするだろう」と考えてもらいます。また、経営者や価値を創造した人々の生の言葉、私自身が実際に会って感じたことを伝え、経営学の背後にある人間の営みや物語を落とさないようにしています。
山田:
90分の授業は、どのような流れで構成されていますか。
横山:
最初の10分ほどでお題を提示して考えてもらい、その後に関連する理論を説明し、5分から15分程度に編集した映像を見せ、最後にメッセージを伝えるのが基本です。最初の問い、理論、映像が一つの流れになるように構成し、具体的な事例と抽象的な理論を行き来できるようにしています。300人から500人規模の大講義では、双方向性を導入すると必要以上に時間が割かれてしまうので、双方向性と情報量の両立が難しくなります。したがって、本当はやってみたいワークショップや深い対話などの双方向性を取り入れることは断念して、短い話し合いを入れたり、外部講師を招いたりしています。関西大学の卒業生に話してもらうこともあり、先輩の活躍は学生にとって身近なロールモデルになります。 大講義の中でも、学生たちのためを思って情熱を込めて語ると、目を輝かせて聞いている学生と視線が合い、心が通ったように感じる瞬間があります。全員の反応を把握することは難しくても、問いや具体的な人物の生き方を通して、学生の中に何かが残る授業にしたいと考えています。
70人程度の授業では、TEDなどの映像を材料に少人数で話し合い、その後に全体で意見を共有します。ただ映像を流して感想を求めるのではなく、問いや理論と映像の内容がつながるように設計します。まず小さなグループ単位で話し合い、考えてもらうことで、「みんなで考えて出した意見だから、恥ずかしくない」と思える段階をつくり、全体でも発言しやすくしています。
Q3 実践する上で、教材づくり、グループワーク、声かけなど、工夫していることはありますか。
横山:
難しいことを難しく語るのではなく、子どもにも伝わるように、わかりやすく説明することが大切だと思っています。また、学問では素朴な疑問こそ重要です。学生が「こんな質問をしてもよいのだ」と思えるよう、私自身があえて素朴な質問や少し稚拙に聞こえる感想を口にすることもあります。学生が疑問を出してくれたときには、「よく言ってくれたね」と受け止めます。重要なのは、難しいことを言うことではなく、自分の頭で考え、感じたことを言語化することです。
山田:
産学連携を行うゼミでは、どのような点を工夫していますか。
横山:
学生には、成功だけでなく失敗も学びの一部だと伝えています。一方、企業、学生チーム、教員の三者で価値をつくるため、教員がどこまで介入するかは常に難しい課題です。入りすぎれば学生の主体性を損ない、放任すれば十分な学びになりません。そのため、毎週の進捗発表と質疑応答を通して、学生自身に状況を整理してもらいます。どうしても方向づけが必要なときも、「皆が取り組んできたことを整理し、可能な方向を示しただけ。納得しなければ選ばなくてもよいが、その理由は話してほしい」と伝えます。学生が自分たちで考え、選んだと実感できることを大切にしています。
また、価値創造では、誰が最初にアイデアを出したかだけが重要なのではありません。共同作業の中で、それぞれが自分の役割を担い、生き生きと関わることに価値があると伝えています。プレゼンテーションでは、学生たちが情報を構造化することをサポートし、相手に伝わる流れになっているかを丁寧に確認しています。
Q4 学生一人ひとりへのアプローチをどのように考え、実践しておられますか。
横山:
人間関係の基本は、相手に関心を持つことだと思います。「最近、何に夢中になっているの」と聞くなど、ゼミの合間の何気ない雑談を大切にしています。グループ活動がうまくいっていないと感じた場合は、いきなり本人を呼び出すのではなく、まず周囲から状況を聞き、その上で本人にも「最近どう」と自然に声をかけます。
プロジェクトのリーダーになった学生の中には、「自分が、他のメンバーにタスクを割り振ってよいのか」「指示してしまってよいのか」と悩む人もいます。そのときは、リーダーやサブリーダーと膝を突き合わせ、一緒に状況を整理します。チームの中で、リーダーは決まっていても、リーダーシップを固定化する必要はなく、むしろ皆が何らかの場面でリーダーシップを発揮できるようなチーム作りが重要です。大講義では、教員側から一人ひとりに働きかけることは難しいのですが、授業後に相談に来た学生にはできる限り丁寧に応えます。また、「まず自分で調べ、それでもわからないことは、大学の教員にどんどん聞いてほしい」と伝えています。
Q5 こうした実践によって、学生の反応や学習成果にはどのような変化がありますか。
横山:
大講義や中規模授業では、一人ひとりの変化を継続的に追うことは難しいのが正直なところです。一方、長期的に関われるゼミでは、学生同士の相互リスペクトが育っていると感じます。単に仲がよいだけでなく、互いの持ち味を認め、刺激し合いながら高め合える関係ができています。そのような仲間との出会いのきっかけをつくれたことは、教員として大きな喜びです。 ゼミで互いを尊重する関係が生まれると、学生は安心するだけでなく、必要な意見を率直に伝えながら、よりよい成果を目指せるようになります。心理的安全性は、居心地のよさだけではなく、挑戦や相互成長を支える基盤だと感じています。
山田:
なぜ、そのような関係が生まれているのだと思われますか。
横山:
私自身が、学生一人ひとりには個性や持ち味、輝くところがあると心から信じ、尊敬しているからだと思います。その姿勢が学生にも伝わり、心理的安全性につながっているのかもしれません。学生から「先生、僕たちをこのゼミに選んでくれてありがとう」「本当にいい仲間に巡り合えました」と言ってもらったことがあります。学生を固定的に捉えず、可能性のある一人の人間として向き合う。その深い関心や愛情が、安心して挑戦できる場の土台になるのだと思います。
Q6 実践上、難しいと感じていることや、これからチャレンジしてみたいことはありますか。
横山:
最も難しいのは、実践と理論のバランスです。産学連携プロジェクトでは、学生の学びだけでなく、協力してくださる企業にとっての価値も考えなければなりません。その結果、実践に比重がかかり、理論的な追究が十分でなくなることがあります。実践を先に置くことには意味がありますが、その経験をどのように理論と結びつけ、深い学びにするかは継続的な課題です。
学生のモチベーションについては、現在のゼミではさほど苦労していません。ただ、大講義では学生一人ひとりの反応を十分に把握できないですし、毎回、もっと学生を惹きつける授業に改善することができるはずと反省することばかりです。今後は、学生の学びを国際的な経験にもつなげたいです。企業との連携に取り組む学生もいれば、国際的な活動に挑戦する学生もいる。学生の中でなんらかのスイッチが入り、自分に合った方向へ進めるように選択肢を増やしたいと思っています。課題はたくさんありますが、それは同時に、これから試せることがたくさんあるという楽しみでもあります。
山田:
学生を可能性のある一人の人間として尊重し、問い、実践、対話、振り返りを通して成長を支える。その姿勢が、心理的安全性を高める授業実践の根幹にあるのだと感じました。本日はありがとうございました。
取材記録
インタビュアー:教育推進部 教授 山田剛史
記事編集:教育開発支援室 笠谷柊
(取材日:2026年9月18日、Web公開日:2026年10月20日)