授業のサポート
教員インタビュー
安心して間違えられる教室が、自分で学び続ける力を育てる
ビジネスデータサイエンス学部
丸野 由希准教授
機械学習、生体信号処理
丸野由希(まるの ゆうき)
京都女子大学現代社会学部卒業後、企業の研究開発部門でITエンジニアとして勤務。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了。博士(工学)。
文系学部出身でありながらプログラミングを学び、エンジニアとして仕事をした経験が、現在の授業実践の土台となっている。
vol.7
回答いただく科目について
プログラミング基礎(1クラス 100名程度)
Q1 先生が担当されている授業では、どのようなことを大切にされていますか。
丸野:
第一に、学生に楽しんでもらうことを大切にしています。ここでいう「楽しい」は、単にその場で盛り上がることではありません。知的好奇心をくすぐられ、「やってみたい」と思い、実際に試すことで達成感を得て、さらに学び続けたくなるような楽しさです。プログラミングを苦行のように感じてほしくないので、教員自身がその面白さを感じていることを、学生に向かって語りかけるようにしています。
山田(インタビュアー):
楽しさを、学びに入り込むための入口として捉えておられるのですね。
丸野:
はい。勉強でもスポーツでも、自分が楽しい、やりがいがあると感じられなければ継続は難しいと思います。授業でも、毎回楽しみに参加できたり、「今日はここまでやってみよう」と自分で工夫できたりすると、学びに入り込めます。その状態をつくることを意識しています。
Q2 授業全体(コース,学習環境等)をどのようにデザインしておられますか。
丸野:
「プログラミング基礎」は2年次配当の選択必修科目ですが、1期生約400名のほぼ全員が履修しています。4クラスに分かれており、私は2クラスを直接担当しながら、主担当として全クラスの教材やフィードバック資料も作成しています。クラスによって学びに差が出ないよう、直接担当していないクラスの振り返りにも目を通し、必要に応じて授業内容を調整しています。
また、知識のインプットは予習に回し、対面の時間は実践演習とグループワークに充てています。毎回、冒頭10分は確認テスト、その後5〜10分で要点を説明し、60分程度を演習に充て、最後に振り返りシートを書いてもらいます。教員とTAは講義者というより、巡回しながら学び合いを支える役割です。さらに、4クラスが別々の授業にならないよう、全クラスの振り返りを一元的に確認し、質問への回答や補足資料を共通化しています。大人数であっても、どのクラスの学生にも同じ学びの機会が届くようにすることを重視しています。
こうした授業運営を支える基盤として、教材づくりにも力を入れています。この授業では、まずメインとなる教科書を執筆するところから始めました(右写真)。
学生には、一冊の中で自分で調べながら学ぶ経験をしてほしいと考え、共著で執筆した教科書のうち、私が担当した章を中心に活用しています。1クラス100名規模の授業では、一人ひとりに手厚く説明することには限界があります。
だからこそ、学生が授業外でも自ら学びを進められるよう、いつでも立ち戻れる「学びの拠点」を用意しておくことが大切だと考えています。
Q3 実践する上で、グループワーク、フィードバックなど、工夫していることはありますか。
丸野:
グループは学生に任せています。ただし4〜5人という人数だけ指定し、2人だけや6人以上は避けてもらいます。習熟度が同じ学生同士で集まるとは限りませんが、それがよい点でもあります。ある単元では教える側だった学生が、別の単元では教えてもらう側になる。上級者も、人に説明しようとすると自分の理解を言語化する必要があり、そこで学び直しが起こります。
自発的な教え合いを生むために、実践演習はあえて少し難しめにしています。一人で楽に解ける課題では、人に頼る必要がありません。少し難しいからこそ、「このエラーが出たんだけど」と隣に聞くきっかけが生まれます。学生には、エラーは悪いものではなく、成長のチャンスだと伝えています。あわせて、課題を「全部終わらせること」を目的にしないよう伝え、できたところまでを丁寧に提出すればよいことも明確にしています。速さではなく、考え方を共有し、他者のコードから学ぶことに価値を置いています。
また、学生のレベル差に対応するため、必須問題に加えて発展問題やボーナス問題を用意し、ヒントも段階的に示しています。どのレベルを選んでも成績評価に差をつけないことを事前に伝え、自分に合った難度で安心して挑戦できるようにしています。確認テストにも再試の機会を設け、一度つまずいても取り返せる設計にしています。
山田:
フィードバックについてはいかがですか。
丸野:
毎回の振り返りシートは、学生自身が学びを言語化するためのものです。同時に、私が学生の状況を知り、次の授業改善に生かす材料にもなります。全4クラス分を読み、個人が特定されない形で集計したり、表現を整えた代表的な記述を「受講生の声」として返したりしています。他者の気づきから学べることも、この授業の大切な要素です。
Q4 教室全体のマネジメントと個別対応のバランスについて、どのように考え、実践されていますか。
丸野:
大人数であっても、「大勢対教員」ではなく、「一人対一人」の集まりだと思っています。学生に「どうせ見られていない」と感じさせたくありません。声かけが毎回同じ人に偏らないよう、クラス全体を見ながら、視線や様子から必要なタイミングを捉えて話しかけています。
個別対応の入口は、学生からの援助要請です。振り返りシートには質問欄を設け、授業全体に関わる質問はフィードバック資料で扱い、個別の相談にはLMS等で返信します。授業中に聞きにくければFormsでヘルプを出してよいと伝えています。社会に出ても、自分からSOSを発信できることは大切です。この授業で質問し、助けを求める経験を積んでほしいと思っています。
もちろん、学生を甘やかすことはしません。予習が大変だからといって単純に負荷を下げるのではなく、必要な負荷は維持します。ただし、こちらもきちんと準備し、一人ひとりに向き合う。信頼関係があるからこそ、厳しくても学びの質が高い授業になるのだと思います。
Q5 こうした実践によって、学生の反応や学習成果にはどのような変化がありますか。
丸野:
シラバスに示した到達目標については、どの学生もさまざまな形でクリアできるところまで来ていると感じています。予習もあり、授業中もずっとワークをするので、学生にとってはしんどい授業だったと思います。それでも途中で離脱する学生は想定より少なく、最終回には自分の成長を自分の言葉で書けるようになっていました。
最終回の振り返りでは、「自分で」という言葉が多く見られました。「分からないことを分からないまま放置しなくなった」「まず処理の手順を整理してから取り組む習慣がついた」といった記述もありました。プログラミングの技術を超えて、「自分で調べて、試して、振り返る」という学び方が身についたことが大きな成果だと感じています。
また、学生が自分の弱点や取り組み状況を把握できるよう、ゲーム的な復習教材やボーナス課題も活用しました。成果が見えることで、学生自身が「もう少しやってみよう」と前向きに学び直すきっかけになっています。
山田:
数値に表れる到達目標だけでなく、学びの姿勢にも変化があるということですね。
丸野:
そう思います。授業中に私が「ありがとうございます」とよく言うのですが、学生も振り返りの中で自然に感謝を言葉にしてくれることがあります。教員の接し方は、学生の姿勢として返ってくるのだと感じています。
Q6 実践上、難しいと感じていることや、これからチャレンジしてみたいことはありますか。
丸野:
完璧な授業だと思ったことは一度もありません。だからこそ、常に改善の余地があると考えています。反転授業では予習への取り組みに差が出る難しさがありますが、頭ごなしに求めるのではなく、学生自身が予習の大切さに気づくのを忍耐強く待つことも大切だと感じています。
今後は、この授業で芽生えた「自分でも何かを作ってみたい」という意欲を次の段階につなげたいと考えています。3年生の演習では、生成AIを活用しながらソフトウェア制作やデータ分析に挑戦できる場をつくり、基礎で身につけた「自分で学ぶ力」を「自分で作る力」へ発展させたいです。
また、私自身も学び続けたいと考えています。さまざまな教育方法や他の先生方の実践から学び、それを授業に生かしながら、学生に還元し続けていきたいと思っています。
山田:
本日は、授業設計、グループワーク、心理的安全性、個別支援、生成AIの活用、そして先生ご自身の教育観まで、多くの示唆をいただきました。ありがとうございました。
取材記録
インタビュアー:教育推進部 教授 山田剛史
記事編集:教育開発支援室 笠谷柊
(取材日:2026年7月21日、Web公開日:2026年10月20日)