授業のサポート

教員インタビュー

人の話をただ聞くだけはしんどい。学生にやりがいを感じてもらいたかった。

社会学部

与謝野 有紀教授

研究分野

社会学(含社会福祉関係)、計量社会学、数理社会学、社会階層論、社会調査法

プロフィール

与謝野 有紀(よさの ありのり)

関西大学 社会学部 教授。1985年北海道大学 文学部行動科学科卒業、1988年北海道大学修士課程文学研究科修了。修士(文学)。

昔から、人前で話すのも苦手ですし、人見知りで初対面の人と話すのも苦手です。本当のことなのですが、今やだれも信じてくれません。ときどきそう告白すると「あぁ...。それで〇〇ですけど...」とほぼ何も言わなかったことにされます。それも素敵な人生の一部なはず...と今は思えるようになりました。

 

 

 

【インタビューの経緯】

20217月に実施した「2021年度遠隔授業に関する教員アンケート」内の自由記述欄において、遠隔における授業実践の工夫や新たな取り組みについて回答いただいた教員5名にインタビューを実施しました。

未だコロナ禍で授業の実施方法について模索が続く中、回答いただいた先生方の授業に対する取り組みをGood Practiceとして広く公開することで、授業運営に悩んでいる・困っている先生方に少しでも役立てていただきたいという思いで、今回のインタビューを企画しました。

また、このページをFD活動の一環として利用いただけると幸いです。

授業形態:講義

#関大LMSの活用

#各種ツールの活用_Dropbox

#各種ツールの活用_その他

#アンケートや課題実施による理解度の把握

#フィードバックの実施

回答いただく科目について

・「社会階層論」(履修者数420名)
・「社会変動論」(履修者数494名)

Q.コロナ禍において、どのような方法・形態・ツールで授業を実施しましたか?

 2020年度は学術研究員で担当授業が無かったため、2021年度初めてオンデマンド授業を実施しました。毎年400名程度の履修者がおり、コロナ禍以前は大教室にて対面で行っていた授業です。オンデマンド授業となってからは、講義動画3本+参加評価課題+達成評価課題+参加評価アンケートで授業を構成しています。このユニットを実行するためには、学生は順番通りに動画を見て課題に取り組まなければならない仕組みとなっています。年度初めの授業では、講義動画2本(各35分~40分程度)で行っていましたが、学生のアンケート結果を見ると、動画を3回に分けた方がわかりやすいとの意見があったため、4回目の授業以降は動画3本で対応することにしました。講義動画が3本となってからは、各動画20分~25分程度の合計70分程度を目標に作成しています。1本の動画が25分を超える場合は、残り2本の動画を短くする形で負担を軽くできるように工夫しました。動画の視聴からアンケート回答終了まで、1講義90分~100分程度を想定して授業を構成しています。ちなみに、動画はDropboxに格納し、期間が限定されたリンクを学生に共有する方法をとっています。

Q.オンデマンド授業での課題の実施方法について教えてください。

 参加評価課題と達成評価課題ともに関大LMS上で実施しています。参加評価課題については、計算問題や自由記述をして最後に回答の数値などが表示されるパターンと、選択式で回答させるパターンがあり、最後には解説も入れるようにしています。一方で、その授業でどれだけ理解したか確認するものである達成評価課題では、正答はLMS上では表示されない仕様としており、翌週の講義冒頭部分で解説を行うようにしています。毎回平均7点とし、全15回の授業で合計105点満点となります。第5回、第10回、第15回の授業は達成評価課題を授業の中心とするため、その分少し配点を高くしています。参加評価課題は自己理解を促すもので2~3点、7点のうち残りは達成評価課題の点数配分となります。すべての授業に出席し、参加評価課題に取り組めば最低でも50点程度はとることができる仕組みとなっています。
 課題の採点については、関大LMSでの課題実行履歴をダウンロードしてExcelで統合し、プログラミングで自動採点をしています。作業に慣れれば、ダウンロードからデータ整理まで30分程度で可能です(結果の確認作業は除く)。第15回の授業は達成評価課題のみを実施しており、秋学期の社会変動論では30問程度を出題しました。学期途中の課題については後の授業で必ずフィードバックを行ない、最終の第15回の授業については、次の授業が無いので前もっての解説を丁寧に行うよう心がけました。

Q.学生からの評価はどうでしたか?

 参加評価アンケート結果を見ると、「計算問題より用語に関する問題の方が難しかった」、「スムーズに理解することができて良かった」、「とても勉強しやすい環境だった」などの回答がありました。その中で今回ショックだったのが、アンケートで「ノートの取り方が分かった」という感想が多くあり、授業中にノートをとるという経験がない学生が多いことに気づいたことです。授業でもノートの取り方については丁寧に示唆を行ないましたが、この部分の学生の経験不足についてショックを感じました。

Q.400人を超える大人数でのオンデマンド授業実施は大変ではなかったですか?

 オンデマンド授業でも、教室で学生に問いかけるイメージで自然に話すことを心がけました。学生自身が語り掛けられていると感じるように意識して動画を作成するようにしています。その甲斐あって、「対面ではないけど対面と同じような印象を持てた」という学生のポジティブな意見も多かったです。なるべく対面授業と同じイメージを作るために、計算問題を解く間も時間を止めるのではなく、雑談を交えながら時間を作りました。特に、春学期の社会階層論は計算演習が多いので、学生の集中力を途切れさせないために雑談を交えるよう工夫しました。「対面で授業を受けたい」とは言いながらも、オンデマンド授業の利点を生かすことができた学生が多かった印象を受けています。また、授業の冒頭は前回授業の振り返りを行ないます。この振り返りも含め、授業時間中は原則として常に説明する顔も映すようにしています。

Q.授業を実施する上で苦労した点や工夫したことを教えてください。

 動画編集の経験が今までなかったので、最初は本当に苦労しました。動画にはアニメーションを挿入したり、手書き作業を入れるよう工夫し、ライブ感を大事にしました。例えば、対面授業でも言い間違いはありますよね。作成したパワーポイントに間違いがあったら、スライドを作り直すのではなくその場で書き直して訂正します。動画の作成は大変ですが、一度作ってしまうと特段問題はありませんでした。1回の授業で使用する3本の動画を作るために、最初は丸4日かかっていましたが、徐々に慣れてきてパターン化されたので、秋学期には半日程度でできるようになりました(既にパワーポイントがある場合)。課題作りもとても大変でしたが、この経験は今後も財産として活かしていこうと思っています。コロナ禍になるまで関大LMSを使ったことがなかったため、最初はミスも多くありましたが、学生が退屈だと思うのがいやだったので頑張りました。人の話をただ聞くだけの授業はやはりしんどいので、学生にやりがいを感じてもらいと思っていました。

Q.学生の学習効果についてはどう感じていますか?

 対面授業と比べても学習効果としては下がっていないように感じています。授業は学生を落とすためにやっているのではなく、学生ひとりひとりが理解できることが大事ですからね。参加評価課題を提出していないなど、明らかに授業へ出席していない学生を除けば、対面との間で成績評価にも大きな差は無いように感じます。学習意欲面で言うと、毎回の詳細は分かりませんが、計算問題を解けた!という達成感が意欲に繋がっているのではないかと思っています。対面授業は休んでしまうとその授業はもう受けられませんが、オンデマンド授業は1週間公開していたので学生にとっては利点が多かったのではないかと思います。今回のオンデマンド授業は、複数回見直すことができたという点においても、短い動画にしたことが効果的であったのではないかと思っています。

Q.オンデマンド授業について先生にとってもメリットはありましたか?

 最初はやはりとても大変でしたが、だんだん慣れてシステマティックになった実感があります。特に秋学期については、夏休みの間にパワーポイントのスライドを作り溜めておいて、授業の進行に従って動画を作成していきました。授業の振り返りについては先に作ることができないので、後で作って動画を組み合わせることで効率化を図りました。毎回の授業でフィードバックできることは、学生と教員双方にとって良かったと感じています。対面授業では黒板を利用していましたが、今回パワーポイントを利用することで正確性がより増したように思います。大教室での板書は後ろの席の学生にも見えるように大きな字で書いたりする工夫が必要でしたが、オンデマンド授業となり学生も見やすくなったと思います。また、動画を作成するうえで、伝え方の丁寧さは以前より意識するようになりました。

Q.次年度以降も続けていきたい事、挑戦したいことについて教えてください。

 自分自身も今の形式がだいぶ良いと思っていますし、学生からのコメントもポジティブなものが大半を占めていたので、今まで作った動画は活かしていきたいと思っています。また、丁寧なフィードバックをきちんとしていくことは今後も意識していきたいです。

取材記録

インタビュアー:教育推進部 教授 山田剛史
記事編集:教育開発支援室 上田果歩
(取材日:2022年3月31日)

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