授業のサポート

教員インタビュー

プログラム作成・学習をエンターテイメントに!

総合情報学部

松下 光範教授

研究分野

知能情報学、ヒューマンコンピュータインタラクション

プロフィール

松下 光範(まつした みつのり)

関西大学 総合情報学部 教授。1993年大阪大学工学部精密工学科卒業、1995年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻制御工学分野博士前期課程修了。博士(工学)。

現在は、知的情報編纂、探索的情報検索の支援、実世界インタラクション、災害情報トリアージ、理学療法教育の支援を主な研究テーマとする。

車はマニュアル車派。

 

 

 

【インタビューの経緯】

20217月に実施した「2021年度遠隔授業に関する教員アンケート」内の自由記述欄において、遠隔における授業実践の工夫や新たな取り組みについて回答いただいた教員5名にインタビューを実施しました。

未だコロナ禍で授業の実施方法について模索が続く中、回答いただいた先生方の授業に対する取り組みをGood Practiceとして広く公開することで、授業運営に悩んでいる・困っている先生方に少しでも役立てていただきたいという思いで、今回のインタビューを企画しました。

また、このページをFD活動の一環として利用いただけると幸いです。

授業形態:演習

#教材作成、課題作成

#関大LMSの活用

#各種ツールの活用_Zoom

#各種ツールの活用_Dropbox

#各種ツールの活用_その他

#アクティブ・ラーニングの実施

#フィードバックの実施

回答いただく科目について

・専門演習(履修者数9名)
・フィジカルコンピューティング実習(履修者数37名)

Q.コロナ禍において、どのような方法・形態・ツールで授業を実施しましたか?

【専門演習について】
 研究テーマに沿ったディスカッションと進捗報告を主とし、ハイブリッド形式で行いました。ハイブリッド形式で授業を実施すると、複数人が同じ部屋でZoomを使用することになるので、ハウリングが起こりやすい状況となります。そのため、マルチチャンネルミキサーを使って会場の声を集約し、ZoomホストのPCから一括で遠隔に配信する方法をとりました。会場の音の流れをZoomホストで一元管理する仕組みです。マイクについては、教員は卓上コンデンサーマイクを使用し、学生へはワイヤレスマイクを渡しました。画面撮影はVlogカメラを使い、ハウリングを防ぐためスピーカーも持ち込みで行うなど、機器類についてはすべて自前で用意しました。マイク構成などについては、映像クリエイターサークルに所属する学生と相談しながら決め、対面と遜色ないオンライン授業を行うための要件を洗い出してから各機材の購入を決めました。コロナ禍においては、なるべく対面授業のときと変わらない環境作りを意識しました。
 授業では、Scrapboxというオンラインの共有ノートツールを併用しています。例えば、誰かが発表している時の先生のコメントも随時書き込むことができるので、遠隔にいる学生もこのオンライン議事録を書くことによって参加している感が高まったのではないかと思います。Scrapboxは無料で使え、自由度が高いので管理もしやすく、参加者が各々の写真を登録しておくと発言を書き込むときのアイコンとして利用できます。授業中に聞き間違えがあったとしても誰かが修正できるデジタルの共同場を作っておくと、Zoomでも対面でもオンデマンドでも一緒に学んでいる感じをつくることができます。

【フィジカルコンピューティング実習について】
 密を避けるためにクラスを二つに分けて隔週交代で授業を実施することにしました。必然的に授業回数が足りなくなるので、土曜日に補講を行なうなどして調整しました。授業は前半がプログラミングパート、後半が電子工作パートで、各々の最後の回が成果報告会です。プログラミングパートの報告会はDropbox Paperを使ってオンラインで行いました。それぞれの学生にプログラム動画の撮影、Dropbox Paperへの掲載をお願いし、報告会当日は、受講生には自宅から接続してもらい、教員とTAが教室から掲載されたプログラム動画をYoutube Liveで配信しながら講評する形式を取りました。限られた時間内で作品を見ることになるため、授業後に行う関大LMSでの優秀作品への投票をその日の課題とし、出席確認代わりとしました。総合情報学部の学生は、卒業後IT関係の企業に就職することも多いため、ポートフォリオを作る練習にもなります。コロナ禍以前は、教室でパソコンを教壇に繋いで投影する方法をとっていましたが、その場合記録が残らないため、今の方法が記録に残る点においてよかったと思います。電子工作については自宅学習を活用できないため、電子工作パートの成果報告会では密状態を避けるために受講生を二つの教室に分け、Vlogカメラでもう一方の教室に配信しながら進行しました。

Q.授業を実施する上で苦労した点や工夫したことを教えてください。

 機器の選定や、質疑を円滑にすることを念頭においた授業設計に苦労しました。学生同士がディスカッションできないと意味がないですし、「遠隔参加のときに現地の雰囲気が分からないといやだ」、「現地と遠隔もディスカッションしたい」という意見が学生からもありました。そうすると音環境の整備が最も大切となりますが、この点においてとても苦労しました。音響設備は常設できないため、紙袋1つで持ち運べるくらいのコンパクトな設計にし、なるべく安いもので環境を整えるようにしました。
 フィジカルコンピューティング実習は「プログラム作成・学習をエンターテイメントに」を前提とし、制約なくモノづくりを楽しむ授業ですが、プログラミングに苦手意識を持つ学生は少なくありません。自分自身が楽しめる作品を作ることが大前提ですが、オンラインでのプレゼンも楽しめるように、Youtube Liveで配信し、それをZoomでフィードバックしました。学生には配信を見ながらリアクションボタンで参加してもらい、番組を見ている感覚で作品発表会に参加できるという形で授業をエンターテイメント化しました。学生にとってはプレゼンや動画撮影を含め負荷が多くなったのは事実ですが、それを「楽しい」という気持ちに変えないと不満が溜まるので、その部分を意識して授業設計を行ないました。

Q.実際に授業を実践していかがでしたか?

 専門演習については、今回の取組で概ね完成形だと思っています。唯一、インフォーマルコミュニケーションという点においてデメリットを感じています。SpacialChat というオンラインのインフォーマルコミュニケーションツールも試しましたが、安定性や費用面で続きませんでした。Slackはゼミ全体の連絡ツールとして使用していますが、授業での使用はあまり向いていません。新しいものを積極的に取り込むことは常に意識していますが、それぞれのツールにメリット・デメリットがあるので、条件に応じて使い分ける必要性を実感しました。
 また、コロナ禍以前の研究で言われていたことが必ずしも正しくなかったと気づくことが多くありました。例えば、視線が合うことがコミュニケーションを取る上で必要だという前提での技術開発がありましたが、コロナ禍となり、Zoomでの授業では視線どころかカメラがOFFとなっているケースも多くあります。それでも問題なくコミュニケーションを取ることができています。このコロナ禍での経験は、CSCW(Computer Supported Cooperative Workの略)分野における過去20年間の研究の答え合わせのようで、研究と教育の連携を強く感じました。

Q.次年度も続けていきたい事、挑戦したことについて教えてください。

 オンデマンド授業は聞く人のリテラシーが強く問われるものです。本音を言えば、Youtubeを好んで見る感じで授業を楽しく視聴するのが理想ですが、教員でそのレベルを実行できる人は限られています。その点においてはオンデマンド授業の限界を感じており、違ったやり方や大人数でも教育効果が上がる方法を今後も探していきたいと思っています。

取材記録

インタビュアー:教育推進部 教授 山田剛史
記事編集:教育開発支援室 上田果歩
(取材日:2022年3月24日)

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