授業のサポート

教員インタビュー

「そっと手を添え、じっと待つ。」学生の成長を信じて待つことが大切

教育推進部

三浦 真琴教授

研究分野

教育社会学・高等教育論

プロフィール

三浦 真琴(みうら まこと)

関西大学 教育推進部 教授。1983年一橋大学 社会学部卒業、1992年名古屋大学 博士課程 教育学研究科教育学 単位取得満期退学。修士(教育学)。

趣味は無農薬野菜の栽培。ミニトマト、ナス、ピーマン、オクラ、モロヘイヤ、ニラ、自然薯(矩形)は毎年作っています。ニラは種から育ててはや5年。長持ちのする野菜なのでお勧めです。自然薯はムカゴが大量に採れて困っています。エダマメ、ソラマメ、トウモロコシ、ゴーヤ、タマネギ、ニンニクを作ったこともあります。無農薬で栽培すると、例えばピーマンの苦みが減るようです。おかげで我が家の息子たちに野菜嫌いはいません。

 

 

 

【インタビューの経緯】

20217月に実施した「2021年度遠隔授業に関する教員アンケート」内の自由記述欄において、遠隔における授業実践の工夫や新たな取り組みについて回答いただいた教員5名にインタビューを実施しました。

未だコロナ禍で授業の実施方法について模索が続く中、回答いただいた先生方の授業に対する取り組みをGood Practiceとして広く公開することで、授業運営に悩んでいる・困っている先生方に少しでも役立てていただきたいという思いで、今回のインタビューを企画しました。

また、このページをFD活動の一環として利用いただけると幸いです。

授業形態:演習

#教材作成、課題作成

#関大LMSの活用

#各種ツールの活用_Zoom

#各種ツールの活用_その他

#アクティブ・ラーニングの実施

#フィードバックの実施

回答いただく科目について

・プロジェクト学習1[夢をかたちに・夢に形を -願いをかなえるプロジェクト-](履修者数24名)
・プロジェクト学習1[文章力をみがこう! -自分を磨く作文プロジェクト-](履修者数23名)
・プロジェクト学習1[クリティカルシンキング! -水平思考を旅するプロジェクト-](履修者数21名)
・プロジェクト学習1[クリティカルシンキング](履修者数24名)
・大学教育論~大学の主人公はきみたちだ!(履修者数43名)
・共通教養ゼミ(文章の達人を目指す)(履修者数21名)
・ピア・サポートのためのクリティカルシンキング(履修者数44名)

Q.コロナ禍において、どのような方法・形態・ツールで授業を実施しましたか?

 上記すべての科目でグループワークを実施しました。授業の実施において関大LMSは使用しました。コロナ禍となりすべての科目で遠隔授業をせざるを得なくなった時は、課題はLMSで出し、Zoomを使ってリアルタイムでコミュニケーションを取りながら授業を進行する方法をとっていました。大学における活動基準が緩和され、遠隔授業と対面授業が混在するようになってからは、移動中などを理由にリアルタイムでのオンライン授業に出席できない学生がでてきたため、学生自身で授業参加方法を選択できるようにしました。当初の選択肢としては、①教室に来て対面で授業に参加、②家など教室以外の場所でZoomを通して授業に参加、③オンデマンド授業を視聴の3通りを与えました。③については色々な事情で①と②の方法で参加できない場合ですが、この場合グループワークに参加することができないためパーソナルワークを課すこととなります。ただ、この選択肢を与えると③に流れる学生が一定数おり、この層が提出する課題のクオリティや学習意欲が比較的低い傾向にあったため、特別な事情が無い限り③は選ばないよう、LMS等を通して学生に発信しました。私自身事情があり登校ができないため自宅から授業を行ったので、教室には①を選択した学生とLA(ラーニングアシスタント)とTA(ティーチングアシスタント)がいることとなります。課題を提出する方法も複数選択肢を与えているため、メールやLMSを通して直接提出する学生もいれば、手書きのものをLAに渡して提出する学生もいました。

Q.授業を実施する上で苦労した点や工夫したことを教えてください。

 グループワークの実施における工夫としては、デジタルラーニングプレイグラウンド(共同作業場)をコンセプトに授業展開した点です。対面授業の場合、グループワークをするときは机を囲んでグループごとの空間を作ることができますが、オンラインになるとそれができない状態となります。そのため、Google スライドやGoogleドキュメント、Coggleといったようなツールを使って、グループごとにURLを配付して、グループ内で同じものを見ることができる環境整備を行ないました。実際、グループワーク中全員がビデオをオフにしているグループがありましたが、とても話が盛り上がっていました。これは、Googleスライドを通して同じものを見ながら、考えたことや感じたことを共有することができたためだと思っています。同じものを見ながら意見を共有する環境が整っていれば、ビデオがオンであるかオフであるかということは大きな問題ではないということが分かりました。みんなが同じものを同じ時間に扱い、それに対して意見交換ができる点において、デジタルラーニングプレイグラウンド(共同作業場)は非常に有効であったと思います。
 大学教育論では、学生自身が問いを立て、そのアプローチについても自分たちで探していくといった風に、自主性を重視しています。教員から課題を出さないため、マインドマップやイメージマップを作りながらテーマを絞ることとなりますが、その際Coggleの活用を促しました。ツールの活用を助言するのみで使い方を教えることはありませんが、学生たちは必ず自分たちで試行錯誤しながら使うことができるようになります。本当に困ったときはLAが介助することもありますが、基本的にはすべて学生の主体性に任せることにしています。学生に対して「これをやりなさい。」とは言いませんが、学生に“気づき”の助言のみを行っており、それでも中間発表や最終プレゼンでは良いスライドが出来上がっています。
 授業運営上で苦労した点は、資料作りについてです。全面対面授業や全面オンライン授業の場合、配付資料は1種類で済みますが、学生に受講方法の選択肢を与えたことで、それぞれの参加形態別の配付資料を作成する点においては負荷がかかりました。

Q.学生の主体性を促す働きかけは何かされていますか?

 双六を使って自己紹介を行なったり、アイスブレイクをうまく授業に組み込むようにしています。オンラインでも、サイコロのアプリを使えば問題なく進行できますし、実際とても盛り上がりました。また、グループワークを行なうときは、「このクラスではこういうことができるようになってほしい。」という“教員の願い”をクラスルーブリックにして受講生に見せるようにしています。ただ、それだけだと学生は与えられたことだけをやるようになってしまうので、自分自身がこのグループで何をできるようになりたいか、ということを考える時間を与えました。学生同士で意見交換を行なってグループルーブリックを作りましたが、とても完成度の高いものも沢山ありました。自分たちがどのようなことができると良いか、ということを共同で可視化させることは大切だと思っています。そうすることで、自分たちの学習における現在地も随時把握することができるようになります。教員が示したルーブリックを掲げてしまうと、“やらされている感”がどうしても出てしまうので、“学生自身で”ということを常に大事にしました。そのおかげもあって学生が主体的に取り組めたと思っています。

Q.授業を通して一番大切にしていることはなんですか?

 成績をつけることだけが教員の仕事ではないと常々思っています。そうではなく、「こういうことができるようなってほしい」「ここを理解できるようになってほしい」ということを願って教材を作り、少しペースが遅れてしまっている学生については、どう上げていくか、とういうことを考えなければなりません。そのような学生には、複数回の小レポート等を通して何度もやりとりを行ない、最終的に教員が願ったレベルまでできるようになってほしいと思っています。ただ、教員に言われたからできた、というのは好ましくありません。自分自身で、「これができるようになるためにどのようなステップを刻むべきか」ということを考えて、少しずつそのレベルに進んでいくのが望ましいと思っています。時間はかかってしまいますが、学生の成長を信じて、「そっと手を添え、じっと待つ」ことを大切にしています。待つことで、「時間をおけば自分たちができるようになる」と教員が信じていることに学生が気付くことができます。学びは学生自身が主役であり、自分のためにあるということを分かってほしいと思っています。

Q.対面授業と遠隔授業のメリット・デメリットについて教えてください。

 コロナ禍となる前までは対面授業のデメリットについてあまり気付きませんでしたが、コロナ禍を契機に遠隔授業となると、より丁寧に学生の学習を見てあげないといけないという気持ちになりました。そして、教室で対面授業をしている時は、グループワークの様子が何となく見えていると思い込んでしまっていたのだと気が付きました。対面でのグループワーク時に教員が近づくと学生は少し身構えてしまいますが、Zoomでのブレイクアウト中に見に行っても学生は気付かない場合もあります。それだけ一生懸命話しているし、困っている様子にも早く気付くことができるので、対面授業の時よりもグループワークの内容によく気付くことができるようになった点は遠隔授業の利点だと感じています。遠隔授業を経験し、対面授業に対する気づきが得られたので、今後全面対面授業となってもこの気持ちは忘れずに授業を運営していきたいと思います。

Q.学生の学習効果についてはどう感じていますか?

 単純に点数化は難しいというのが正直なところですが、「対面授業だから」「遠隔授業だから」という違いはあまり感じていません。成果だけでなく、学習プロセスにコミットメントすることが大事だと思っています。対面授業を実施している時から小レポートの提出は求めていましたが、学生のレポートに対する熱量や質についても大きな差はないと感じています。

Q.次年度以降も続けていきたい事、挑戦したいことについて教えてください。

 授業中のグループワークについては今後も継続していきたいです。他の学生が書いた短いフレーズや作文について、デジタルラーニングプレイグラウンド(共同作業場)を通してみんなで添削して、「こんなに文章全体がよくなった」「わかりやすくなった」という経験をさせてあげたいと思います。この経験を通して、その後自分が文章を書くときも「こういうところに気を付けていこうね」ということをメッセージで発信していきたいと思います。

取材記録

インタビュアー:教育推進部 教授 山田剛史
記事編集:教育開発支援室 上田果歩
(取材日:2022年3月16日)

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