コラム

第5回 2012/4/2

Webコンテンツ「豊臣期大坂図屏風」の公開にあたって

関西大学総合情報学部准教授/センター研究員
井浦 崇

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 「豊臣期大坂図屏風」は、現存例の極めて少ない「平和に繁栄する豊臣期の大坂を描いた作品」とされている。オーストリアで発見され、2007年に関西大学なにわ・大阪文化遺産学研究センターと大阪城天守閣、オーストリアの州立博物館ヨアネウムの三者間で研究協定が結ばれ、共同研究が行われた。そしてこのたび、この屏風の解説コンテンツを大阪都市遺産研究センターのウェブサイトで公開することとなった。

 2011年の7月に開催された国際シンポジウム、「再び『豊臣期大坂図屏風』を読む―人物・意匠・城郭・生業・年中行事―」では、この屏風の細部を検討するにあたって、参加者に基本的な知識を解説するためのデジタルコンテンツを制作した。このコンテンツを使用して内田吉哉氏(センター特別任用研究員)とともに「屏風案内」を行った。制作にあたっては所蔵先のエッゲンベルク城博物館などの協力を得ている。その後8月には堂島リバーフォーラムで行われた「ナレッジキャピタルトライアル2011」において24面タイルドディスプレイを使ったバージョンを出品し、引き続き改良を加えながら現時点での成果をWebコンテンツとしてまとめ、2011年度末に一般公開する運びとなった。

 つまりコンテンツの形態としては、これまでに三通りの異なるパターンを制作してきた。まずはシンポジウムで口頭説明を併せた上演形式、そして展示会で特殊な機材を使った一定時間連続の展示形式、最後にWebコンテンツとしてどこからでも自由にアクセスできる形式と、それぞれに条件が異なっている。一つの屏風を様々な手法によって解説したことで、歴史的資料研究のデジタルコンテンツ化に関するいくつかの実例を作ることができた。

 今回、歴史研究について広くわかり易く解説をするためには、その対象の持つ魅力をうまく引き出す必要があると感じた。一連のコンテンツでは美術制作が専門の立場から、屏風の美術品としての存在感が伝わるように配慮しつつ、描かれた内容を丁寧に解説しようと努めた。それには昨今のデジタル技術の活用が有効であり、特にコンピューターグラフィックス処理やインタラクションを多用することで情報伝達の効率を飛躍的に上げることが可能になる。今後もこうした歴史研究と情報処理技術の応用を組み合わせた文理総合型研究を進めて、大阪都市遺産研究センターで可視化チームの役割を担っていきたいと考えている。

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