Interview no. 19

本機構による若手研究者の育成とアカデミックポストへの就職支援

本機構は、行動科学と社会科学を横断的に統合した政策志向型の社会科学研究機関として、社会学、経済学、情報工学、心理学など多様な分野から研究者を結集し、学際融合的な研究を行っています。また、経済実験施設、視線計測実験室、実験参加者プール、データアーカイブ、競争的研究資金などを提供できる充実した研究環境は、ポスト・ドクトラル・フェロー(ポスドク)を始めとした若手研究者の研究活動に役立てられています。今回は、本機構にてポスドクとしての経験を積んだ3名の研究者に、本機構の研究環境や、ここでの研究がその後のキャリアにどのようにつながっていったのか、お話を伺いました。

参加者

稲葉 美里 准教授

稲葉 美里 准教授

近畿大学経済学部経済学科准教授。2016年、北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。2017年から本機構経済実験センター ポスト・ドクトラル・フェロー、2018年日本学術振興会特別研究員ポスドクを経て、2020年から近畿大学経済学部経済学科特任講師。2022年より近畿大学経済学部経済学科講師、2025年より現職。専門は社会心理学。

三浦 貴弘 講師

三浦 貴弘 講師

和歌山大学経済学部特任講師。2018年、大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(経済学)。本機構に入り2年の在籍を経て、2020年からパーソルキャリア株式会社でデータアナリストとして勤務。2023年3月同社退社後、再び研究者の道に。2023年4月より現職。専門は行動経済学。特に互恵行動、注意と選択に関する研究など。

村本 顕理 講師

村本 顕理 講師

大阪経済大学経営学部経営学科講師。2015年、京都大学経済学研究科にて博士号取得(経済学)。知的財産研究所研究員、麗澤大学助教を経て2018年より本機構経済実験センター ポスト・ドクトラル・フェロー。2019年大阪大学大学院国際公共政策研究科助教を経て、2020年より現職。専門は契約理論、オークション理論、応用行動経済学。

Chapter 01

RISSでのポスドク時代

――はじめに、RISSとの出会い、入職にいたったきっかけを教えてください。

稲葉:
私は北海道大学での博士課程在学中、就職先を探すなかで、研究者のキャリア支援サイトで本機構を見つけました。私の専門は社会心理学ですが、モノの交換、社会制度、協力行動など、経済学にも近い研究テーマを扱っています。このような学際的なアプローチで研究できるポストが当時なく、見つけた時にピンときました。とはいえ、関西には知り合いがおらず、何の情報もなかったため正直不安もありました。そんな不安を払しょくしたのが、採用に至るまでのプロセスです。「遠方だから」とオンラインで面接してくださったり、一度見学に行きたいと申し出れば快く受けてくださったりと、安心感が持てました。
村本:
私も稲葉さんと同じく、研究者のキャリア支援サイトに掲載されていた求人を見て応募しました。私は理論経済学が専門で、特にゲーム理論を応用してオークション理論や契約理論を分析しています。先行研究が行動経済学を用いていたのですが、理論だけでなく実験も勉強してみたいと思っていました。なので、RISSを知ったとき、ここは勉強できそうだと。当時は千葉県の麗澤大学に任期付きで勤めていたのですが、地元が大阪なのでそろそろ関西に帰りたいなと思っていたというのも大きいです。
三浦:
RISSは実験研究できる点が魅力ですよね。私の場合は稲葉さんと違って、同じ関西の大阪大学博士後期課程に在籍していたので、RISSのことはよく知っていました。博士の時に、米国サンディエゴで開催された「ESA World Meeting」という実験の学会で、RISSの小林創先生(現副機構長)に出会い、ポストを紹介いただいたのがきっかけです。博士号を取得する前からRISSにはお世話になっていて、RISSに着任して2年目に博士号を取得しました。

――実験が魅力というお話がありましたが、RISSでの研究環境はいかがでしたか?

稲葉:
行動経済学の実験でよく使うソフトウェアを私は使ったことがなかったので、RISSに入職するまでに勉強していたのですが、4月に来たときに、現機構長の小川先生にその時読んでいた論文の話をしたらおもしろそうだし、実験やってみましょうよと、すぐに実験が決まり、応募者を集めることになって4カ月後には実験を実施。そのスピード感に驚きました。とはいえ、そのプロジェクトだけに時間をとられるようなことは全くなく、別の共同研究も進められる。とにかく自由なことにも驚きました。
三浦:
そう、自由ですよね。別の先生の手伝いや運営の雑務をしなければならない機関もけっこうありますが、RISSは自由。多少の手伝いはありますが85%くらいは自由だなという印象です。実験をするにしても、負担が少ないです。経済実験に必要なソフトはすべてそろっていますし、機構の立ち上げに携わった前任の方々のおかげで実験参加者のプールがあり、参加者をすぐに集められるのは大きな魅力です。
稲葉:
そうそう、頑張らなくても50人、100人とすぐに集められるというのは非常にありがたいですよね。現所属機関では参加者プール作りをゼロから始めましたが、150人の参加者を集めるのに3年くらいかかりました。それをしなくてもいいというのは大きいです。
村本:
私も、今でこそ理論ばかり扱っていますが、RISSではけっこう実験をしていました。オークションに参加する人の心理的属性で「損失回避」を考慮したアントニオ・ロサト氏という経済学者の先行研究を元に、実験をしようという話が出て、異なる条件下でどのような結果が出るのか、たぶん6回くらいは実施しましたね。さらに、その実験研究の一環で、三浦さんと一緒にRISSの研究費でオーストラリアにも行かせていただきました。「Australasian Economic Theory Workshop 2019 (AETW2019)」というワークショップです。
三浦:
そうですね。僕は報告せず、先行研究の話を聞きに行くだけでしたが(笑)。
村本:
AETW2019はロサト氏が所属するシドニー工科大学で開催されたもので、ワークショップ前とワークショップ中にご本人からいろいろとコメントを頂戴しました。
三浦:
申請したら海外にも渡航させてもらえるのは、ポスドクの身分ではとてもありがたいですよね。それから、博士課程在学中にRISSに在籍した者としては、個室が用意されているというのは嬉しかったですね。院生時代は大部屋でしたから。
稲葉:
わかります。いろいろな意味で、RISSはかなり恵まれている研究環境です。不便だと思ったことは一度もないですね。
村本:
欲しい本もすぐ購入できましたし。
稲葉:
そうですね。また、実験準備室には他の先生方が購入された本が置いてあり、ミーティングルームにもなっています。個人の部屋と同じフロアにあって、機構の他の先生方とお話ができたり、他大学の先生も来られたりして、交流する機会もありました。私は今でもここでお会いした先生方と交流があって、いま帝塚山大学におられる先生とは、私が産休の時に非常勤をお願いしたり、雑誌の編集に声をかけていただいたりする仲です。

Chapter 02

RISSでのキャリアとアカデミックポストへの就職

――研究環境や他大学の先生方との交流、海外のワークショップ参加など、いろいろな話が出ましたが、ここでの経験がその後のキャリアにどう生きたかを教えてください。

稲葉:
私は関西には何の人脈もありませんでしたが、社会心理学が専門ということもあって、RISSに来て、関西の行動経済学のネットワークの隅っこにでも入れたというのは非常に大きいです。今の所属につながったのは、RISSで行動経済学の研究を始めたことが大きいと思います。RISSに在籍していなかったら採用されていなかったかも。
三浦:
RISSは、関西で経済実験をしている研究者の間では名が知られていますしね。
稲葉:
そうですね。「ああ、あそこにいた人ね」といった感じで見ていただけますよね。
村本:
RISSの先輩方や先生方も、ポスドクの私たちの就職を心配してくれます。僕なんか、個人的に面接の練習相手をしていただいたこともありますよ。
稲葉:
そうです、先生方がとても親身。あと、先ほど話した「スピーディに実験ができる」「自由な時間が多い」ことのメリットって、キャリアのことを考えるとすごく大きいと思うんですよね。だって、ポスドクって、任期はたいてい2年くらいしかないじゃないですか。その間に成果を出さないと次のキャリアにつながらない。実験や雑務に時間をとられると、自分の研究に没頭できる時間って少なくなってしまうので。
三浦:
そうですよね、経済学の論文って、他の分野よりも出るまでに多くの時間がかかりますしね。短くても3年ぐらいは同じ論文を書いていたりしますから、RISSの実験環境と自由さはありがたい。
村本:
今思うと、自分の研究に没頭できたのは恵まれていました。

――最後に、今後どのようにRISSと関わっていきたいか教えてください。

三浦:
私はポスドク後に民間企業で勤務していたこともあり、一度RISSとは距離ができていたのですが、去年のワークショップに久しぶりに声をかけていただいて、RISSに関わって、やはりRISSの実験環境は恵まれていると改めて感じました。実験室実験でないとできないこともあるので、その時はRISSを頼りにさせていただくつもりです。
村本:
僕はRISSを出た後は理論研究に戻ってしまって、実験をする機会が減ってしまったのですが、一昨年、RISSの研究会で発表することがあって、いろいろコメントもいただきました。今後もそんな形でお世話になるかなと思っています。
稲葉:
私の場合は、先ほどもお話ししたようにRISSとはずっと交流があって、年に1回は実験でお世話になっています。今の所属先でも実験参加者を募集するシステムはあるのですが、RISSほどのプールがないので、人数を募集するのに時間がかかってしまうんですよね。なので、足りない分や、少し長期で募集したい実験などでは、今後もお世話になるつもりです。あと、専門は社会心理学なので、経済学的なアドバイスが欲しいときなどは、RISSの先生方に相談させていただくつもりです。

――三者三様にRISSの研究環境の魅力や以後のキャリアへの影響について語っていただきました。貴重なご意見をありがとうございました。

稲葉美里 准教授 × 三浦貴弘 講師 × 村本顕理 講師