Interview no. 05

科学的な分析を支えるデータベース構築

名取 良太
  • 名取 良太
  • Natori Ryota
  • 関西大学総合情報学部総合情報学科 教授

Chapter 01

政治を「禁欲的」に論じる姿勢を大切に

私は政治学の中でも、世論調査や選挙結果データを用いた統計的な分析に携わっています。私見ですが、政治とは、行き先の見えない分かれ道を前にして、どちらに進むかを皆で話し合って決めること。どのような政策をとれば国や社会が幸せになるのか、実際のところ誰にも分からない。しかしどれかに決めなければ次に進めない。そのどれかを決定するのが政治だと考えています。そして政治学者の仕事は、決定の拠り所となるような知見を、できるだけ客観的・科学的に提示することと考えています。

社会や経済などと同様、政治の動きには様々な要因が絡まりあっています。メディアでは分かりやすさを重視してか、よく「○○議員の影響でこの政策が実施された」などとストーリー仕立てで報じますが、これは一要因をピックアップしたに過ぎません。それにもかかわらず、メディアからの情報やそこから生じるイメージだけを頼りに「Aが原因でBという結果になった」という論理で断じるのは早計ではないでしょうか。

私がこのような考えを持ち、現在のテーマで研究を行うことになったきっかけは、大学3年次から大学院修士課程にかけて3年間所属していたゼミでの経験でした。ゼミでは統計分析を活用した政治学を扱っており、教授や先輩方が「禁欲的」に物事を論じる光景が、当時の私には新鮮に映りました。統計分析をやっていると、「分からないことは分からない」と認めたうえで論議を尽くすようになります。当時の私は、このように禁欲的な姿勢に魅力を感じ、科学的とはこういうことだと認識したのです。

Chapter 02

市議会の分析に活用できるデータベースを構築

私の研究では、市議会の会議録など議会に関するあらゆる情報を過去10年分収集してデータベース(DB)化しています。現在は近畿6府県を対象としたDB化が完了する段階で、それ以外の県についてもデータ収集を進めています。各自治体の会議録・議決情報はwebサイトから入手できるので、これを収集して整理します。ただ会議録を集めるだけではなく、市議会議員の年齢・性別・所属政党といった属性も収集して会議録と紐づけます。これにより、例えば「60歳以上の男性議員は○○という発言をする傾向がある」「〇〇党の中でも、ある法案については賛成・反対が分かれている」といった分析ができるようになります。

DBは、特にクラスター分析(※)に活用できると考えています。例えば、ある市議会の議席が4つの政党に分かれている場合はクラスターを4と設定し、各議員の発言内容から自動的に4つに分類するとします。そして、発言者の分類が政党ごとに分かれているかどうかを確認します。こうすることで、「政党は(政治的目的よりも)利害が一致する議員の集まりであり、政策に対する立場は同じ政党内でも議員ごとに異なる」という感覚的な通説を、科学的に検証できるのです。
また、DBは機械学習にも活用できます。分析を繰り返してその結果を蓄積することで、ある議員の発言内容から、政策への賛成・反対などの行動を予測することができるはずです。機械学習のモデルづくりについては現在、模索中です。

※クラスター分析:異なる性質のものが混ざり合った集団から、互いに似た性質を持つものを集め、クラスターを作る分析手法。

Chapter 03

地道な活動が、今後の地方議会研究の礎になる

データの収集・整理には大変な労力がかかるため、いかに自動化できるか、効率的にできるかを試行錯誤し、改善しながら研究を進めています。日本全国には900ほどの市があり、また市議会の会議録は1日あたり50本ほど公開されるため、これらを10年分さかのぼって収集すると、膨大な数になります。また、各議員の属性情報は会議録には記載されていないため、別途収集し、会議録のデータと掛け合わせる必要があります。難点は、自治体ごとに会議録の様式が異なること。テキストデータを取得して、共通のフォーマットに落とし込んでDB化するのですが、記載事項も異なれば、段落やスペースの入れ方などの体裁も異なっているのです。なるべく効率よく解決したいのですが、共通のフォーマットと全く異なる様式であれば、時には手打ちで地道に入力作業をすることもあります。

以前の研究で作成した参議院選挙のDBはいま実際にさまざまな研究者に活用されているため、現在構築しているDBも、完成すれば広く活用されるはずです。私自身も含め、地方議会の研究者が研究を発展させて政策提言などに結び付け、社会に貢献することを期待して、その礎となる地道な活動を行っています。

Natori Ryota

Interview no. 05

Profile

1996年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年、慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。2000年関西大学総合情報学部専任講師、2003年同助教授、2007年同准教授を経て、2010年より同教授。2020年10月に同学部長に就任。専攻分野は「現代政治分析」。参議院選挙の結果や、市議会に関する情報のデータベース化に携わり、日本政治の科学的な分析の発展に寄与している。本機構において2020年9月まで副機構長を務めた。