研究活動

【公募研究班】大阪の失われた景観・残る景観―戦後昭和・平成の大阪を捉えた風景写真集・絵画を用いて

研究代表者 岡 絵理子 環境都市工学部・教授
研究概要

 本研究では、戦後復興、またはその後の「都市再生」が行われる直前の1990年ごろまでの写真や絵画を用いて、都市の更新により失われた様々な大阪の景観を見出すことを目的としている。具体的には、主に戦後に撮られた写真と、同じ場所・同じ視点場で写真を撮影し、その両者を比較し、その場所の何が失われ、何が残されたのかを検証する。さらにそこに起こった都市計画的出来事を調査し、記載する。これらから、戦後昭和から平成にかけての大阪の景観の変遷と、その背景にあった文化・都市行政などの社会的状況の変化との関連性を浮かび上がらせることができると考える。

 大阪の景観構造を歴史的視点から考察した研究は、「浪花百景」や「摂津名所図会」などを用いた近世を対象とした景観研究が複数ある。また、近世、近代においては、中之島、御堂筋、橋梁、大阪駅など、大阪の景観を代表する「部分」の景観研究が多くを占めている。
 しかしながら、近年「都市再生」が盛んに行われるようになり大阪の町の再開発・更新が進んでおり、大阪の景観構造にも大きな変化が見られることは周知であるが、これらを扱っている研究はほとんどなされていない。大阪の景観変遷の特徴とも言える「移ろいやすさ」の要因について、都市景観・都市計画と建築史の視点から解明しようとする点を、本研究の特色の第一とし、明日の都市景観・都市計画のありようを担うであろう、次世代の育成を、第二の特色としたい。

(2022年度・2023年度)
1.対象とする写真・絵画の選定
2.デジタルデータの作成
3.写真・絵画の視点場(地点)確定
4.写真・絵画の同じ視点場での写真撮影
5.写真の現在の写真、絵画と現在の写真の比較と変化・変容の確認

研究分担者

橋寺 知子 環境都市工学部・准教授

宮地 茉莉 環境都市工学部・助教

研究期間 2022年度~2023年度(2年間)

研究成果概要

本研究では、戦後復興、またはその後の「都市再生」が行われる直前の1990年ごろの写真を用いて、都市の更新により失われた様々な大阪の景観見出すことを目的としている。具体的には、主に戦後に撮られた写真と、同じ場所・同じ視点場で写真を撮影し、特に写真に添えられた文章を読み込み、どの景観に目を向けて写真が撮影されたかに考慮して、分析を試みた。
なお、下記の分析、考察は、2024年6月10日時点のもので、今後さらに深めて、学会での論文発表を目指したい。

まず、100の景観が対象としているものによって分類した。100の景観には、建築物(23景)、土木構造物(19景)、遺構・遺跡(15景)、市街地(15景)、都市構造物(17景)、神社仏閣(10景)、祭・神事(7景)、生業(5景)、オープンスペース(5景)、交通機関(2景)と、多様な景観が扱われていた。

この写真の景観と、2022年に撮影した同じ場所の景観を、その場所の30年間の時間経過期間に起こった事象に注目して分類を試みた。その結果、景観の変容は、次の5つに分類されることが明らかとなった。
(1)放置されている景観;25景(移ろう景観)
(2)維持されてきた景観;38景観(残る景観)
(3)保存された景観;19景(守られる景観)
(4)消滅した景観;9景(失われた景観)
(5)「整備」された景観;9景(消された景観)

これらの分析の結果から次のような事柄が明らかとなった。
・土木構造物、社寺仏閣、祭りなどの伝統的行事は、人々の日々の管理や運営により維持され続けているものが多い。
・市街地の景観は、守られることなく、放置され変容する。
・建造物、特に歴史的価値が見出されているものは、保存するように力が働き、守られる。
・建物の建て替えなどにより、失われる景観は多いが、建て替えではなく、「整備」されて消された景観が、特に川沿い、海沿いに多く見られた。

研究活動一覧に戻る