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キャリアセンター所長からのごあいさつ

関西大学キャリアセンター所長 小林 剛 日本の就職・雇用環境が大きく変わろうとしています。大学のキャリアセンターもそうした変化に対応して、この2020年代という常に変動的で、何事も不確実な、様々なものが複雑に絡み合った曖昧な時代(VUCAの時代:Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)に、かなり難しい舵取りを求められているところです。そして、まさにそういう時期にこの仕事を引き受ける重責を今ひしひしと感じております。

あらためて説明するまでもなく、これまでこの国では「新卒一括採用」というシステムが、「終身雇用」や「年功序列」といった他の諸制度と強く結びつきながら、長年に渡り日本型企業文化の根幹をなしてきました。こうした伝統的慣習のもと、新入社員は職場という空間のなかで先輩社員や上司の仕事ぶりを観察しながら真似をし、また周りの人たちから直接的に仕事のやり方を教えてもらいながら一人前の社員として成長していくという過程を経るのが普通だと考えられてきたわけです。そのため、こうした教育にかかるコストを回収するために企業は社員にある程度長い勤続年数と会社という共同体への帰属意識を求め、それがときに長時間労働やハラスメントといった負の側面をもたらす要因ともなってきました。

しかしながら、コロナ禍という世界的な災厄の到来はこのような日本型企業文化に待ったなしの変革を強いるものでした。とくに、感染防止のために導入されたリモートワークはこれまでの職場という空間のイメージを必然的に変容させています。身近な場所で社員の仕事ぶりを直接見て評価することができなくなったため、上司は与えた仕事を部下がどれほど達成したのか、その結果で判断せざるを得なくなりました。手取り足取り近くで仕事の進め方を教えることも難しくなり、社員には関わる分野についてのスキルや知識が最初から備わっていることが求められるようになりました。いくつかの代表的な日本企業が「ジョブ型雇用」(募集の段階でジョブの詳細を明確に規定し、それを遂行する能力と知識を持っている人を通年で採用する方式)と呼ばれる諸外国で用いられている雇用形態を大々的に取り入れ始めたのも、こうした職場環境の変化が大きく作用していると考えられます。

センセーショナルな新聞・雑誌記事の書き手たちはこうした新たな動きに対して敏感に反応し、「新卒一括採用がついに崩壊」であるとか、「日本固有のメンバーシップ型雇用から世界標準のジョブ型雇用へ」といったタイトルで何か急激な変化がすぐさま起こるかのように煽っていますが、実際のところはもっと緩やかで、しかしながらより根源的な転換が今進行しているのではないでしょうか。確かに、4月1日という決まった時期に新入社員を会社という共同体のメンバーとして迎え入れ、様々な部署をローテーションさせながらジェネラリストとして育てていくという日本の「メンバーシップ型雇用」はもう効率的なものとは言えないでしょう。戦後の高度経済成長期にはそれがある種の社会保障制度ともなり、平均的な家族のライフプランと企業内での年功序列制度がうまく重なり合い、雇用の安定と中流階級的生活水準をもたらしてきました。しかし、人の流動性がきわめて高い21世紀のグローバル時代にそれを維持していくことは、効率性やコストの面で見合わないだけでなく、ますます多様化する個々人の生き方とも相容れないものとなっています。コロナ禍はこうした長期的な移行を後押ししただけで、それがなかったとしてもこの国の就職・雇用環境は変わらざるを得なかったはずです。

問題は、では、これからどのような形に変わっていくのか、という部分です。今のところ、残念ながら明確な答えはありません。ただ、新卒一括採用というシステムが社会構造の奥深くに根付いてしまっているこの国において、単純にメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へと移行するだけであらゆる問題が解決するとはとても考えられません。双方に長所と短所があり、もっとも良いやり方は両者のいいとこ取りをすることではないでしょうか。大事なのは、大学と企業がこれまで以上に情報を共有し、お互いに意見を交わしながら、どのような就職・雇用システムが最良なのか綿密に考え、ともにその制度を設計していくことです。未来の世界を構築していく世代をどのように育てていくのか、このもっとも重要な問いに対する最適解を見つけるために、学生、企業、政府や自治体、それからご父母や保護者の皆様の多様なご意見を真摯に受けとめながら、新しいキャリアセンターを職員とともに運営していく所存です。今後ともどうかより一層のご協力のほど、よろしくお願いいたします。

2020年10月
関西大学キャリアセンター所長 小林 剛

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