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三大学医工薬連環科学シンポジウム(第11回)報告(於:医科大)(16.01.30)

更新日:2016年3月29日

平成28年1月30日(土)に、医工薬連環科学シンポジウム(第11回)「新たな超音波科学の創生~医工薬看連環における身体可視化への挑戦~」を大阪医科大学 看護学部棟 講堂において開催しました。講演には、医療従事者や企業関係者等、様々な方87名が参加されました。

寺﨑文生・三大学医工薬連環科学教育研究機構 副機構長の司会により、大槻勝紀・大阪医科大学 学長から三大学医工薬連環科学教育研究機構の取組への期待と開会の挨拶が行われました。

今回のシンポジウムでは、超音波科学に焦点をあてて、工学の立場から超音波の原理・特性について、循環器専門医の立場から心臓超音波検査について、看護師の立場から看護ケアにおける超音波機器の応用事例について、また、褥瘡(じょくそう)看護における超音波機器使用の最新の研究について発表されました。

講演 「波動としての超音波と反応場としての超音波」
関西大学システム理工学部物理・応用物理学科 准教授 山本 健 氏

①-2.jpg講演では、まず、医療分野における可視化技術について触れられた後、「理学物理」ご専門のお立場から、可視化に必要な超音波の特性について、ビデオを交えながら説明されました。超音波の波動の特性は、広がらずにまっすぐに進むこと、反射すること、透過すること、水中では縦波のみで固体中では縦波と横波があるということを説明されました。また、媒質によって超音波の反射率は、異なるということです。例えば、脂肪から肝臓に超音波を入射すると約10%の超音波しか戻ってきません。この反射率が超音波診断装置の情報源になっているそうです。更に、超音波には、時間反転現象というものがあり、その現象を用いてより命中率の高い治療装置もできる可能性があるとのお話をされました。次に、水中に超音波を照射すると、圧力が正弦的に変化し、大きくなるほど負の圧力が生じ、気泡が発生します。これをキャビテーション現象といい、気泡は、膨張・収縮し、収縮時の気泡内は非常に高温・高圧となります。イメージとしては、水中に太陽が無数にあるような状態だということです。様々な超音波キャビテーション現象について説明された後、どういった能力があるかについて紹介されました。超音波キャビテーションのメカニズムは、まだ解明されていないが、高分子等の分解・重合、染料の脱色、細胞壁の破砕、基板や製品の洗浄等、様々なことに応用されていると紹介されました。

講演 「循環器診療における心臓超音波検査の役割」
大阪医科大学 医学部循環器内科 講師 伊藤 隆英 氏

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講演では、臨床のお立場から循環器領域における超音波(エコー)検査について、経胸壁心エコー検査を中心にお話をされました。まず、心エコー検査で何がわかるか、また、長所と限界などの概要について紹介されました。次に、具体的にどのように検査を行っているか動画を交えながらわかりやすく説明されました。動画を見ると、血流の速度や方向、弁の動きなども鮮明に映されておりました。心不全の診断には、以前はカテーテルを使って心内圧を測定して行っていましたが、"簡易ベルヌーイ式"という超音波技術によって、非侵襲で出来るようになったとのことです。また、動脈硬化と心臓病についてのお話もされました。加齢ともに心臓年齢は落ちるが、運動をすることによって、予防できることを超音波技術によって得られるe'(イー・プライム)という数値で、説明されました。その後、ストレスと心臓病について述べられました。新潟中越沖地震の被災地で急激に循環器緊急疾患の患者数が増加した調査結果があり、なかでも"たこつぼ型心筋症"の発症が多く、その概要や症例を動画で紹介され、"たこつぼ型心筋症"の特徴である左室心尖部の運動低下の様子がよくわかりました。また、多くの方は特別な治療をしなくても、良くなるとのことです。その他、前述の地震の際に、急性肺塞栓症(エコノミークラス症候群)の患者数も増加しており、血管エコーによる下肢静脈血栓の様子や心エコー所見について紹介されました。心エコーの画像一枚で多くの情報を得ることが出来、超音波検査は循環器内科に非常に有用性があると報告されました。

講演 「看護ケア診断の決め手! 看る→視る」
大阪医科大学 看護学部看護学科 准教授 松尾 淳子 氏

③.jpg講演では、はじめに、超高齢化社会になるに伴い、病院完結型の治療から地域完結型の治療に変化してきて、看護ケアに高度な在宅看護技術が求められており、可視化技術を用いた看護実践の展開が重要であると述べられました。そして、エコーの進化について説明され、より小型で画像も鮮明になり、皮膚のような薄いところも確認できるようなったとのことです。看護に応用されたのは、褥瘡(じょくそう)観察からで、他にも静脈穿刺・嚥下状態の確認・排便管理・カテーテル挿入後の位置確認など、様々な看護場面で応用が可能になってきたと述べられました。具体的に静脈穿刺をする際にエコーを使ってする方法を動画を用いて詳しく説明され、血管の太さ・走行・位置を確認しながら穿刺する様子がわかりました。また、基礎看護技術の教育に採血があるが、実際にエコーを用いた演習を行っていることが紹介されました。学生からは、これまでの解剖で習った知識がより深まった、イメージしやすくなったなどの感想が寄せられており、より安全で的確な静脈穿刺術の習得につながっているとのことです。他にも、便秘ケアにおいて、大腸内部をエコーで確認し、個々に即したケア介入が需要であることを述べられました。今までは、便の形状を見て、下剤や浣腸の処方の判断をしていたが、エコーを用いて実際に便が残っているかなどを確認して、ケアすることができるとのことです。排尿ケアにおいても、今までは排尿日誌を用いていたが、エコーを用いて膀胱内尿量を測定し排泄誘導が出来、実際にベッドサイドで携帯型のエコー機器を使用して測定している様子が紹介されました。また、将来を展望したエコー機器のアイデアも披露されました。最後に、エコー機器を超高齢化社会に向けたチーム医療のコミュニケーションツールとしても、聴診器や血圧計とともに看護師が持ち歩くようになってほしいと述べられました。

特別講演 「看護学領域におけるエコー機器使用の臨床と研究 -褥瘡看護を中心に」
東京大学大学院医学系研究科 健康科学看護学専攻 教授 真田 弘美 氏

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講演では、まず、看護師が聴診器を使うなんて、と言われていた時代から、聴診器を使うことが普通になり、さらにエコー機器を使う時代に変わって来たことについて言及されました。時代の要請に応えて、どのように医療が変わったか、また、どのような医療機器が開発されたかに触れられ、中でも、平成14年にそれまで医師が行っていた静脈穿刺を看護師ができることになり、看護師の要望から、より安心・安全な世界初の止血弁付きの留置針が日本で開発されたそうです。褥瘡とは、一般的に「床ずれ」ともいわれており、療養上のお世話の中で発生し、予防するのも、治療過程を促進させるのも看護師の仕事であると述べられました。褥瘡看護に初めてエコーを取り入れたのは、深部組織の状態の計測のためだったそうす。その後、アセスメントツールとしての有用性に気づき、臨床の中で使用されてきたプロセスを具体的に症例の研究を通して紹介されました。褥瘡で問題となることにポケットいうものがあり、皮膚の表面からは見えないが、創口の下が空洞になっており壊死組織や肉芽組織が形成されており、エコーで深達度を測定し、壊死組織を高圧洗浄して除去するのか、肉芽にやさしく低圧洗浄するのか、治療方法を変えていくとのことでした。また、今までポケットを可視化できずに切開して治療していたが、エコーで測定して高圧洗浄することで切開せずに治療でき、治癒にかかる日数も大幅に減った例を紹介されていました。そして、これまでに行政や学会とともに努力をしてきた結果、日本の褥瘡有病率は、世界一低いとの報告をされました。次に、褥瘡の他にもエコーを応用している事例やその中で発見された問題点・課題などを述べられました。さらに、看護教育にエコー技術を取り入れていることを紹介され、新しい技術を習得した看護師を臨床する側が受け入れていき、将来的にはより広汎性が高く、安価な機器の開発を進め、普及・発展させていきたいと述べられました。

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最後に倉田純一・三大学医工薬連環科学教育研究機構 機構長より、閉会の挨拶を頂きシンポジウムの幕を閉じました。

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