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三大学医工薬連環科学シンポジウム(第10回)報告(於:薬科大)(15.01.24)

更新日:2015年2月12日

平成27年1月24日(土)、大阪薬科大学において、三大学医工薬連環科学シンポジウム(第10回)を開催しました。
シンポジウムには、三大学関係者、一般の方々を含め56名が参加されました。

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銭田晃一・大阪薬科大学特任准教授の司会により、三大学医工薬連環科学教育研究機構 副機構長の辻坊裕・大阪薬科大学教授から三大学医工薬連環科学教育研究機構の取り組みについての紹介と開会の挨拶が行われました。

第10回目を迎えた今回の三大学医工薬連環科学シンポジウムは、「在宅医療の現状と課題 ~多職種連携と医工薬連環科学への期待~」というテーマで、在宅医療・介護の推進に向けての行政の方向性とその役割を担うそれぞれの専門家の立場から、これまでに経験された事例を紹介頂き、在宅現場で起こっている問題やその解決に向けての取り組みなどについての議論や、工学の研究者の立場から嚥下困難者に対する食品の開発に向けての研究成果などが発表されました。

「在宅医療・介護の推進の背景と課題 ~行政の立場から~」
(高槻市健康福祉部理事兼保健所長 高野 正子 氏)

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講演では、今後の日本の高齢者をとりまく状況と高槻市の現状が紹介された後、平成26年6月に施行された「医療介護総合確保推進法」についてのお話がありました。本法は19の個別法からなる一括法で、中心になるのが医療介護総合確保促進法、医療法、介護保険法の3つ、次に在宅医療にあたる医療関係職の身分法に関するものが9つ、その他保険等に関するものが7つあり、今回の法改正により、平成30年度に医療計画と介護保険事業計画が同時に始まるようにすることで、医療計画の実効性が高まること、医師・看護師の確保等、医療現場が変わること、地域支援事業を市町村が行うなど、介護保険が持続可能なものになることなどの説明がありました。高齢者が安心して暮らすために、急性期の医療や療養病床だけでなく、生活を支える在宅医療介護、生活支援・介護予防までのサービスを一体的に確保することが重要で、そのために病床機能報告制度を基にして今後、地域医療構想(ビジョン)の策定や地域包括ケアシステムの構築などを行っていくこと、また、認知症施策の推進や多職種連携研修など、具体的内容や財源などについても紹介されました。

「ケアマネージャーが抱える諸問題」
(NPO法人 茨木市パブリック総合サービス 主任介護支援専門員 利根川 圭一 氏)

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講演では、まず、介護保険法の第一条(目的)をとりあげられました。そこには、なぜ連携が必要なのかを考えるにあたり結果的には連携をしましょうと読み取れる部分があるとのことです。また、ケアマネージャーは介護保険の給付の中でその方が生活を維持していくにはどうしたら良いのかを、本人は勿論のこと、家族やご近所の環境も考え常に「人」を意識してアセスメントを行い、計画を作っているとのことでした。そして、医療面では最近は医療ソーシャルワーカーが活躍し、退院前カンファレンスは当たり前の様に行われ、在宅主治医、在宅を主とする調剤薬局、在宅歯科診療、訪問看護師等の連携がかなり出来るようになってきたが、それでも解決することが難しい場合があり、もっと幅の広い連携が問われているのだそうです。その様な困難なケースでは実際どの様な多職種連携が行われているのかを2つの事例に基づいて紹介されました。最後に多職種連携でやりにくい、不安に思った点は、多職種=多制度にまたがる(舞台が違う)、誰がコーディネートするのか、目標(ゴール)や目的は一緒か、個人情報の取り扱いなどがあり、逆に多職種連携で良かったと思う点は責任の分担が出来る、アイデアが多数出やすい、係わる皆の幅が広がる、仲間が出来る=相談場所が増える、とのことでした。

「在宅医療における薬剤師の役割と使命」
(ニューロンネットワーク株式会社 薬剤師 大畠 康弘 氏)

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講演では、高齢者の薬に関して、複数の医療機関から多種多数の薬剤が処方され、薬局で説明を受け薬剤の交付を受けた後、自宅に帰ってからの服用・管理が難しくなるという現状があり、それを解決するために薬剤師が係わる必要があること、薬剤師が在宅業務で行うのは配達だけではなく、服薬指導、併用薬剤確認、緊急対応、残薬整理、薬剤管理のお手伝いなど薬に関する全般から医療材料提供や介護用品販売にも及ぶとのことです。中でも残薬整理・調整や薬剤管理のお手伝いがメインになっており、錠剤やカプセルのシートのままでは管理が難しい場合には服用時点毎に一包化を行い、氏名、用法を印字した上、色ラインを引き判別を容易にする工夫をしたり、お薬カレンダーやお薬ケースを利用したり、残薬がある場合は持ち帰って整理し、次回以降の処方に使用することで薬剤の無駄を防いでいるとの事でした。また、薬剤師が在宅業務を実施するまでの流れ、訪問後は報告書を作成し、判明した問題点や改善の提案を医師やケアマネージャーに対して行っていることについても説明されました。しかし、このような在宅業務自体は、届け出薬局のわずか一割程度しか実施できていないという現状と理由、実務の上で感じておられる問題点や今後の課題などについても触れて頂きました。

「在宅医療における訪問看護の役割と使命」
(医療法人東和会 訪問看護ステーション アイ 所長 雪本 和佳子 氏)

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講演では、まず訪問看護のサービス内容の紹介があり、病状・障がいの観察と看護、本人の療養指導、家族等の介護指導・支援、社会資源活用の相談・支援、リハビリテーション、服薬の管理、その他多岐にわたるとのことです。利用者は医療保険では神経難病が多く、介護保険では80歳代の要介護5が多く、夫婦世帯では全体の7割で夫婦どちらかあるいは双方に認知症、独居では半数に認知症があるとのことでした。また、アンケート調査によると、不便に感じていることで一番多かったのが一人で外出出来ない、自分で買い物や散歩に行けないなど外出に関する事で、次いで、歩けない、歩行に不安がある、もっとスムーズに歩けるようになりたいなど歩行に関するものが多かったそうです。この様な利用者の中からALS(筋委縮性側索硬化症)の事例2例、服薬管理に問題が起こっている事例2例について、実際に行われた支援の内容についてお話がありました。ALSの事例では出来るだけ本人だけで行える様、手すりやスロープ、自助具や家の鍵を持ちやすくする工夫や住環境整備、生活支援機器を利用している様子が紹介されました。次に、服薬支援を行った事例については正しく飲めていない、飲み忘れが多く残薬多数、独居で認知症があり薬の管理が出来ていないにも拘らず、薬剤師の訪問が実施されていないため、看護師が薬剤師にかわって支援を行っている実態が報告されました。

「工学と高齢者・在宅医療のかけ橋 ~嚥下困難食を例に~」
(関西大学 化学生命工学部 教授 河原 秀久 氏)

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介護食・嚥下困難食や冷凍食品の品質保持に関する研究をされている河原秀久先生より、ご講演いただきました。日本の高齢者の死因の一つに肺炎、特に誤嚥による肺炎が多いため、介護食・嚥下食の開発を行っていく必要があるとのことです。また、食品は五感で食べましょうという提唱があり、外観、味、風味(匂い)、テクスチャー(食感)、温度、音を考え、各食品メーカーが取り組んでいるのだそうです。介護食としては「ユニバーサルデザインフード」というのがあり、以前は硬さや粘度によって4段階に区分されていたのが、2009年の「嚥下困難者用食品」では硬さに付着性、凝集性が加わったものが使われ、さらに2014年農林水産省が新しい介護食品のあり方を検討し、「スマイルケア食」という愛称で今後商品化されてくることが紹介されました。また、これからの介護食は栄養デザインと食事形態デザイン等のバランス、捕食力や咀嚼力など残された機能を評価すること、脳を賦活化する香りや咀嚼を促すなども考えて開発することが必要とのことです。さらに、先生の最新の研究から、エノキタケ由来の接着タンパク質エキスを使った蕎麦やパンが商品化され、介護食やアレルギー体質者に対する食品への応用も期待できること、食品の硬さ、付着性、凝集性を調理現場や家庭で簡単に測定できる装置を開発中とのことでした。

「総合討論」

銭田先生の司会のもと5名の講演者と参加者の方々との間で討論が行われました。

現在、三島圏域ではほぼすべての医療機関に相談員が配置され急性期病院からリハビリ病院への連携が可能になっており、大きな病院に重症で入院になった場合でも、早い時期から在宅に向けての相談が出来るようになっている状況をフロアーにおられた医療ソーシャルワーカーの方から補足発言頂きました。また、在宅の訪問診療にあたる医師や薬剤師の数がまだ足りないという問題、薬剤師についてはその能力差、他職種や一般の人に対する在宅業務の認知度が低いという点やこれら問題点の解決法などについても活発な討論が繰り広げられました。

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最後に三大学医工薬連環科学教育研究機構 機構長の倉田純一・関西大学准教授より、閉会の挨拶を頂きシンポジウムの幕を閉じました。

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