日本の「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に新たに登録され、日本中が歓喜に沸いてから1か月程度が経過しました。
強制労働に関する言及の是非等に関するニュースや論評はまだまだ目にしますが、すでに次の2016年の推薦物件「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の話に気持ちが向いているかもしれません。(詳細は長崎の教会群インフォメーションセンターHPもどうぞ)
同じく2016年の世界遺産推薦物件である「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」には、3度目の審査に向けて、その構成要素に含まれている国立西洋美術館へ今月19、20日にイコモスから調査官が現地調査に来ます。
このように、先月終わったばかりの世界遺産会議ですが、すでに来年の推薦物件の登録に向けて動きが加速しています。
そしてさらに、7月28日には、再来年2017年の推薦物件「『神宿る島』宗像(むなかた)・沖ノ島と関連遺産群」が国内暫定リストの中から選定されました。
女人禁制の沖ノ島をはじめ、その構成要素に関心が向けられています。
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(2015年07月28日 19:55 朝日新聞デジタル)
2006年に世界遺産検定がはじまった際も世界遺産への関心の高さがうかがえましたが、昨今の世界遺産ブームとも言える状況はその時以上のものであるように感じます。その大きな要因は地域振興と観光促進への期待感なのかもしれません。
世界遺産を行きたい旅行先に選ぶ人も多く、世界遺産になった途端に観光客数は軒並み増加する傾向にあります。
地域経済の活性化にも寄与するだけでなく、世界遺産自体の保存・管理費の確保も望めることは、自治体が世界遺産登録を目指す原動力になっていると言えます。
これは日本に限ったことではありません。有名なスペインの世界遺産サグラダ・ファミリアもまた、観光客の増加によって工事費用が潤沢となり完成が早まると言われています。
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(2014年12月5日 07:00 日本経済新聞)
世界遺産への登録が、世界遺産自体の保存修復に活かされることはとても喜ばしいことです。しかし、世界遺産になれない文化遺産はどうでしょう?
イタリアは1031件ある世界遺産(文化遺産802件、自然遺産197件、複合遺産32件、2015年8月4日現在)の中でも51件(文化遺産47件、自然遺産4件)と最多の世界遺産を有する国です。
しかし、世界遺産であるポンペイさえも保存が十分にできていない状況で危機遺産リスト掲載も懸念される事態であったように、多くの文化遺産が危機的状況にあります。
イタリアというと観光立国のイメージが強いですが、実際は観光客数は多いものの観光収入は少なく、GDPの約2%程度しかありません。そして、ギリシア同様に財政難が続くなかで、文化遺産群の保存は残念ながら進みづらい状況です。
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(2015年08月04日 15:15 Newsweek)
世界遺産ブームは、人々の歴史・文化・地域への興味関心を掻き立て、それまで地道に守られてきた貴重な自然・文化にスポットライトを当ててくれる、そして観光客が来ることで遺産の価値を広く知ってもらうことができるとともに保護意識も高まるといった喜ばしい効果があります。
しかし同時に、それまで守ることができていた自然や伝統が変質していく危険性も多分にあり、人々の往来によって保存修復の必要性がでてきてしまう場合もあります。
「世界遺産効果」とよく耳にすることが増え、それとともに「観光資源」「保護と観光の両立」「ツーリズム」といった言葉も頻用されるようになりました。
観光に偏向した報道も多くみられますが、今回の世界遺産ブームが本来の世界遺産の意義をもう一度考えてみる良い機会になってくれといいなと思う今日この頃です。