ご挨拶

文化財が世界各国で危機的な状態にあり、その対応が緊急の課題となっております。関西大学では、以前より文化財を保存修復する技術を文化財科学、エジプト学、博物学、都市計画学、地盤・建築工学、分析化学、微生物学、高分子化学などの観点から取り組んできました。その成果を踏まえて、この度、新たに「総合文化財学」を確立するプロジェクトを開始しました。

「国際文化財・文化研究センター」は、「総合文化財学」を確立するために、以下の活動を行います。(1)国内の文化財修復の専門家によって文化財の修復の施工を実施する技術者の育成と技術向上、(2)日本の高い理工系科学の技術を応用する文化財修復技術の向上、(3)文化的な予見に基づく文化財の修復を避けるための異文化の研究(エジプト研究、ヨーロッパの異文化研究)の推進と文化財修復への応用、(4)新しい文化財保全技術と知見の講習会。

関西大学ではこれまでに人材、国内および国際的ネットワーク、設備などを蓄積してきましたが、「国際文化財・文化研究センター」は、これらを結集して、エジプトの文化財を中心に調査活動を行います。その際、4つのグループに分かれ、相互に密接に交流し、技術を補完しながら活動します。(1)文化財修復グループは、文化財科学者の集団として文化財の保存技術を活用します。さらに、文化財修復技術者養成の講習会を開講し、専門家の育成、技術の向上、さらに社会人教育を行います。(2)エジプト学・エジプト社会グループは、文化財修復の前提となる古代エジプト文化と現代エジプト文化の解明を進めます。また、講習会を開講し国内のエジプト学の水準を引き上げます。(3)科学技術グループは、日本の高い理工系科学の技術を文化財保全に結びつけます。 (4)国際文化グループは、欧米の異文化や文化的予見の解明を指向して、多国間や今後の世代に有効な方向性を文化財の修復に与えます。

「国際文化財・文化研究センター」は、文理融合型の研究として多様な研究者が参加しているばかりではなく、研究者の国籍も多様です。日本人の研究者に加えて、エジプトの研究者、ポーランドの研究者が参加しており、いずれの研究者も国際的に活躍しています。われわれがもっているネットワークは、さらに多くの国々に広がっており、多くの国々の研究を文系と理系の研究を問わず結びつけていこうとしています。

2011年の初め、エジプトでは30年にわたるムバラク政権が崩壊しました。その後、エジプトの政治状況は安定せず、文化財も盗難や破損の被害を受けているとの情報が多く流れています。エジプト以外の国々でも、文化財が革命や戦争という異常な事態のなかで危険にさらされています。突発的に発生し、現地での対応が難しい状態のなかで、「国際」と名のつく「国際文化財・文化研究センター」は、何をすべきでしょうか。また、どのようなことができるのでしょうか。劇的に変化する国際社会のなかでの研究の有り様を考えながら、模索していくことになりそうです。

関西大学の「国際文化財・文化研究センター」は、国際的な文理融合の研究に基づき、危機的な状態にある文化財の保全に役立つ「総合文化財学」の確立に向けて挑戦していきます。皆様方のご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。


2013年8月6日

センター長
吹田 浩


修復中の階段ピラミッド