美容整形にどういうイメージを持っていますか。あるいは化粧にはどういう意味があると思いますか。
本書の目的は、美容という現象を通じて「現代人のアイデンティティ」の一側面を探ることです。美容の中でも、特に美容整形に注目しました。本書は、美容整形を批判するのでも、賞賛するのでもなく、「私たちの身体意識を先鋭的な形で表した現象」としてとらえています。
主として美容整形を分析することで見いだせたアイデンティティは、次のような特徴をもつといえます。一つは、自分の存在基盤を「心」や「身体」に宿らせるというより「行為」や「ちょっとした感覚」宿らせるものであることです。もう一つは、自分を対象化して自己評価をする時に、「他者の視線」が重要になるだけでなく、人間と同等のアクターである「モノ」や「技術」によって支えられた「自分自身の想像力」が重要になることです。
本書のメインテーマはアイデンティティの議論ですが、それだけでなく、美容整形が通常信じられているような経験とは違っていること、化粧品広告の変遷なども知ることができる構成になっています。
なお、日本経済新聞(2008年8月3日)、高知新聞(2008年8月24日)、神戸新聞(2008年8月31日)、京都新聞(2008年8月31日)などに書評が掲載されました。
本書は、社会学にとってオーソドックスな方法を採用しています。一つめには、理論研究の整理です。先行研究をレビューすることで見えてくることがあります。
二つめにはアンケート調査です。具体的には1365名へアンケートを行っています。人々の意識を知るのにアンケートは重要な手法です。 三つめには、インタビュー調査を行っています。インタビューはアンケートとは異なりますが、こちらも人々の意識を知るのに重要な方法です。本書では美容整形実践者26名に対しインタビューを行っています。 四つめに、表象分析を行っています。実際には化粧品広告6030点を概観しています。表象分析も社会学にとって重要な手法といえましょう。 学生の皆さんも同じように論文を書いていってほしいと思います。テーマは自分の関心のあることに自由に設定したらいいです。ただその時に、適当に議論を組み立てるのではなく、理論研究の整理、アンケート、インタビュー、表象分析などの手法を使ってください。物事を考えていく時に、役立つと思います。