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2023年度 会長あいさつ

関西大学教育後援会会長 山本雅英

教育後援会会長就任にあたり ―ご子女への期待―

5月8日に新型コロナウイルスが5類へと移行し、コロナ禍前の日常が戻りつつあります。ゴールデンウィークには全国各地で観光客が多く訪れ、観光地の賑わいが復活している姿を目の当たりにし、大変喜ばしく感じました。今年の夏も国内国外を問わず多くの人の行き来があることが予想され、コロナ禍の終りを迎える時がすぐそこに来ていることを実感させられます。

さて、未来に明るい兆しを感じつつあるこの春は、みなさまのご子女にとって新しい学期の始まりでもあります。特にご子女が新入生である場合、初めての大学生活の全てが新しい経験であり、新鮮な気持ちで日々を過ごしているに違いありません。
そうした中、新入生のみなさんに対して懸念されるのは、大学生に「なる」ことで満足してしまわないかということです。なぜなら、入試に合格することに精力を使い果たして、入学後、燃え尽きてしまう学生が少なからずいると聞き及ぶからです。

『代表的日本人』や『後世への最大遺物』などの著書で知られる内村鑑三は、ある座談会の際、「『大きくなったら何になるの?』と子どもに聞くことが日本を滅ぼすであろう」と語ったそうです。この発言は、「人間は何かに「なる」のではない、何かを「する」存在である」という内村の信念から発されたものですが、確かに「小説を書く」ことなく「小説家になる」人間は存在しません。小説を書いた人間を世の人が小説家と呼ぶ状態が「小説家になる」と表現されるだけで、個人が目標とすべきは「小説を書く」ことであって「小説家になる」ことではないはずなのです。
同様に、大学生にとって目標とすべきは「大学生になる」ことではなく、学問や課外活動など、大学時代にのみ許される様々な活動を「する」ことにあると考える次第です。ひょっとするとご父母のみなさま方におかれましては「大学を卒業したら何になる?」とご子女に聞く機会があるかもしれませんが、その際、ぜひこうした考え方を念頭に入れた上で質問していただければと思います。
ちなみに、内村鑑三のこの発言は、内村の高弟の一人である塚本虎二により伝えられたものですが、塚本虎二もまた雑誌『聖書知識』を30年以上に渡りほぼ独力で刊行し続けた「する」人だったのでした。そして興味深いのはこの塚本の岳父が、内村や塚本以上に徹底的な「する」人である斎藤秀三郎であったことです。

斎藤秀三郎は『熟語本位斎藤英和中辞典』や『斎藤和英大辞典』などで知られる、明治・大正期を代表する英語学者であり、英語教師です。塚本は「斎藤の父」という追想録(『塚本虎二著作集 續』第4巻所収)において、近親者から見た斎藤の姿を印象的な筆致で記していますので、この追想録を読むとその辺りのことを具体的に理解することができます。現代人である我々からすれば、あまりにも極端なそのライフスタイルは必ずしも是認できませんが、人生において何事かを「する」ことに思いを寄せる人にとって、多くの参考点を見いだすことができるでしょう。
なお、斎藤秀三郎の生涯を詳細に知りたい人のために、名著として評価の高い、大村喜吉による評伝『斎藤秀三郎伝 その生涯と業績』(吾妻書房、1960年)がありますことを付記しておきます。

今年の5月21日に開催されました関西大学教育後援会の総会におきまして2023(令和5)年度の会長職を担うこととなりました。まことに身に余る大役であり、責務の大きさに身の引き締まる思いをしておりますが、これから1年間、大学ご当局と歩調を合わせながら、ポストコロナ時代に則った教育後援会の事業を遂行してまいりたいと存じます。何卒ご理解とご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。


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