人のからだのなか、あるいはすぐ近くで使われる医用材料。その素材には、とことんまで安全と安心が要求されます。地球上の全ての生き物が体内に有しているDNAと、化粧品や食品の添加物として広く普及しているポリエチレングリコールというふたつの材料を組み合わせて、私たちは究極のからだにやさしいゲル材料を開発しています。
活用したのは、「DNA四重鎖」という、四本の鎖が絡まった少し特殊なDNAの複合体と、「DNAの液相大量合成法」という、これまではあまり顧みられることのなかった製造法です。
DNA四重鎖とは、DNAの遺伝情報を記録している四種類の文字(A、T、G、C)のうちの、Gが連続してつながっているとできやすい構造です。DNAはふつう、AとT、GとCが対となって有名な右巻きの二重らせん構造をとっていますが、Gは少し特別で、自分のしっぽを追いかける犬のように、四つのGがお互いを追いかけて、輪っかの形にくっつく性質があります。NaイオンやKイオンがこの輪っかの形成をたすけます。そこで、Gが並んでいる鎖は、四本が絡み合って、四本鎖を形成するのです。人のからだのなかでは、染色体の末端に存在する、細胞の寿命を決めているといわれているテロメア構造で、このDNA四重鎖がつくられていると考えられています。
DNA四重鎖は、ふつうの二重らせんとくらべても、はるかに安定だという特長があります。そこで、からだにやさしい素材の代表例である紐状のポリエチレングリコールの両末端に、Gをたった四文字だけ並べてみると、NaイオンやKイオンを加えた瞬間に固まるゲル材料ができたのです。血液をはじめとして、人の体液には多量のNaイオンが含まれています。このため、私たちが開発した「DNA四重鎖ゲル」は、血液、涙、汗、唾液など、非常に多くの種類の体液に反応して迅速に固化します。用途によっては、固まるのが速すぎて、これを遅くする工夫が必要なほどです。ゲルビーズや紐状への成形も非常に容易です。
このゲル材料のもうひとつの特長は、「DNAの液相大量合成法」により、今日普及している固相合成法とはくらべものにならないほど、大量に製造できることです。ポリエチレングリコールを担体とすることで、実験室レベルでも数十グラムのDNAを主成分とするゲル材料を得ることができます。
細胞への毒性などもないことは既に確かめており、今後ドラッグデリバリー担体などへの応用が期待できそうです。