2024年7月30日、本プロジェクトのメンバーである奥野陽太 助教(化学生命工学部)が執筆した、Royal Society of Chemistry の Soft Matter誌に出版済の論文"Encapsulation of multiple enzymes within a microgel via water-in-water emulsions for enzymatic cascade reactions" (DOI: 10.1039/D3SM01309J)が、この度カナダのAdvances in Engineering社のKey Scientific Articleに選出されました。
 同社は、カナダトロントに本拠地を置き、工学の幅広い分野(化学工学、機械工学、材料工学、電気工学、生体医工学、土木工学、ナノテクノロジー工学)に関連する主要な論文雑誌に投稿された論文のうち、特に優れた成果を選出し世界にPRしています。
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受賞者:
奥野陽太
受賞名:
Key Scientific Article
タイトル:
マイクロゲルへの簡便なタンパク質内包手法の確立
受賞日:
2023年6月22日
DOI:
10.1039/D3SM01309J
URL :
https://advanceseng.com/scalable-production-enzyme-loaded-gelatin-microgels-water-water-emulsion/
◆論文の概要◆
 今回選出された論文は、酵素をマイクロゲル微粒子内に高効率で内包する方法を提案したものです。酵素は医療、食品、環境等幅広い分野への応用が期待されていますが、溶液中での安定性は高くなく、実用化のうえでの障害となっています。そこでマイクロサイズのゲル微粒子に酵素を内包することで、酵素の安定化を行う手法が検討されています。しかしながら従来の方法では有機溶媒を使用するために酵素が失活してしまったり、医療や食品分野への応用の際には残存溶媒が及ぼす悪影響の可能性も考慮する必要があります。近年ではフローリアクターと呼ばれる技術を利用することで、高効率かつ酵素の失活を抑制してゲル微粒子を作製することが可能ですが、手法が煩雑でスケールアップには向いていません。
 このような背景の下、本研究では二種類の水溶性高分子水溶液が形成する水中水滴型エマルションに注目しました。特にポリビニルピロリドンを海相、魚由来ゼラチンを島相として作製したエマルションに酵素を添加すると、酵素が自発的に魚由来ゼラチン相に分配することを見出しました。その後魚由来ゼラチン相の水滴を重合によってゲル化することで酵素内包ゲル微粒子を得られました。本手法では有機溶媒を全く使用せず、用いた魚由来ゼラチン、ポリビニルピロリドン共に生体適合性高分子であるため医用分野においても安全性が担保できると考えられます。さらにエマルションの作製はただ撹拌を行うだけであり、その後の酵素の内包化も酵素を添加すると自発的に内包されるため、複雑な機構を必要とせず、スケールアップが容易です。
 本研究では、ウシ血清アルブミン、西洋わさびペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の分子量や等電点の異なる各種酵素を、95%以上という極めて高効率で内包することに成功しています。さらに、これらの酵素は活性を維持しており、基質を含む水溶液中にこのゲル微粒子を添加すると水溶液中から基質を取り込み、酵素で生成した化合物を外部へと吐き出すマイクロ工場として機能することが示されました。また、ゲル微粒子に内包された酵素は、溶液中の酵素が失活する条件でも安定であり、ゲル微粒子への内包化による酵素の安定化が確認できました。本手法では複数の酵素を同時に添加するだけで、酵素の同時内包化が可能である点も優れています。複数酵素を内包したゲル微粒子内で酵素連続反応を引き起こすことにも成功しています。上述したように本手法は極めて簡便に酵素内包ゲル微粒子を作製できるため、ラボでも簡便に10gスケールでの合成に成功しました。
 原理的には本論文で用いた酵素以外の酵素やタンパク質、ペプチドも内包可能であると推察されるため、幅広い分野への応用が期待されます。