【関大社会安全学部 リレーコラム】被災地の文化財修復も今後の課題

元日に発生した能登半島地震に伴う災害により、被害に遭われたみなさまにお見舞いと、一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
発生から2カ月以上が経過し、人命救助から被災者の支援、復旧・復興のステージに移行しつつあります。しかし、復旧・復興は道半ばどころか、いまだほとんど手もつけられていないところもあり、被災した文化財の保護・修復は、その一つではないかと思います。
1月下旬に文化財石垣の調査で七尾城跡を訪れました。七尾城は、能登畠山氏が16世紀前半に築城した国内最大級の山城で、段状となったスケールの大きな野面積みの石垣があります。今回の地震では、城内のいたるところで、石垣の崩落や土砂崩れが多数発生するなど、甚大な被害を受けていました。
今後、崩壊した石垣については一つ一つ石材を積み直して修復することになりますが、崩壊には至らなかった石垣においても大きな変形が生じているものがあり、今後の余震や降雨によってさらに変形が進行しないかを注意深く監視しておく必要があります。しかし、現時点で調査も十分できていない状況で、修復に至る工程は全く見通せていない状況です。
文化財の保護・修復は、各自治体の教育委員会の所管となっていますが、小さな市町村ではそもそも職員も予算も十分確保できていないところが多いと思います。特に災害時には、職員自身が被災していたり、被災者の支援を優先したりする必要があり、文化財の保護・修復はどうしても後回しとなってしまっています。
しかし、地域の歴史や文化を伝える史跡や文化財は、地域の人々の心のよりどころとして連帯感を生み出し、ともに生きる社会の基盤としての重要な役割を担っています。
被災した文化財の保護・修復には、長い年月を要しますが、着実に一歩一歩進めていく過程を見守っていきたいと思います。
(関西大学社会安全学部教授 小山倫史)(2024-03-11・大阪夕刊・国際・3社掲載)