【関大社会安全学部 リレーコラム】多くの伝達方法 持っておこう

令和5年も残すところわずかとなりました。
国土交通省によると、今年の土砂災害の発生件数は1450件(11月30日時点)。過去最多の3459件を記録した平成30年以降、令和元年の1996件、2年の1319件、3年の972件、4年の795件と減少傾向にありましたが、一転増加しました。
6月29日からの大雨では福岡、佐賀、山口、島根の4県を中心に371件、台風13号では千葉県だけで235件もの土砂災害が発生しました。
近年は、自治体からの防災気象情報や避難に関わる情報発信の方法が多様化しています。特に情報伝達の方法として、スマートフォンのアプリ(広く「防災アプリ」と呼ばれています)を利用するケースが多くみられます。
中には防災行政無線などのシステムの維持管理費の見直しや更新のタイミングで、より安価で導入が容易なアプリへ完全に移行する自治体もあるようです。
スマホの普及率は高く、アプリから情報が得られることは便利なのですが、自分のスマホに「防災アプリ」をインストールして実際に利用している人は必ずしも多くないのが現状です。スマホなどの情報を得るための通信機器をうまく使いこなせないため、必要な情報を得られない「情報弱者」も少なくないでしょう。
また、スマホの充電が切れてしまったり、通信環境が途絶えてしまったりする事態になれば、そもそも情報を取得することができません。「防災アプリ」の普及を進めるにあたっては、まず利用実態を詳細に調査した上で、アプリの強みと弱みを理解することが必要です。
自治体から発信される災害・防災情報は、すべての住民に確実に伝達される必要があります。そのためには、特定の情報伝達の方法にのみ依存するのではなく、従来の情報伝達の方法も組み合わせるなど、情報伝達の方法として多くの選択肢を持っておくことが重要です。
(関西大学社会安全学部教授 小山倫史)(2023-12-18・大阪夕刊・国際・3社掲載)