【関大社会安全学部 リレーコラム】ファンタジーも防災の契機に

世界三大映画祭の1つ、ベルリン国際映画祭の最高賞、金熊賞を競うコンペティション部門に新海誠監督のアニメ映画「すずめの戸締まり」がノミネートされましたが、受賞はかないませんでした。

受賞を逃したのは残念ですが、美しい映像と巧みなストーリー構成の中に、忘れてはならない震災のさまざまな側面が描き出されており、平成23年の東日本大震災から12年となった今、改めて当時を振り返るきっかけとなるよい映画だと感銘を受けました。
特に、地震災害の発生を防ごうとする主人公の姿は、地震に対しても丈夫な建物を作ろうとする技術者の志に通じるものがあります。そしてこうした努力を象徴しているのが、映画の題名にもある「戸締まり」なのです。
そういえば、昨今は組織的な犯罪グループによる強盗事件が多発しています。防犯上も戸締まりが重要ですが、心に隙を作らないという意味で、「防災上もやるべきことを怠るな」というメッセージを感じました。要するに、心の戸締まりを怠ったとき、「悪魔」が忍び込んできて甚大な被害をもたらすわけです。
先月はトルコ・シリア大地震が発生し、犠牲者は5万2千人を超えました。事実かどうかは分かりませんが、耐震基準を満たしていない建物の建築であっても、賄賂を渡せば許容されるような風潮があったために被害が拡大したとの報道もありました。かつて、日本でも耐震設計の構造計算書偽装事件が起きており、どこの国でもあり得る話ではないでしょうか。
「すずめの戸締まり」のように、災害を扱った映画や小説はたくさんあります。実話や記録も大事ですが、SF(サイエンス・フィクション)やファンタジーで災害を振り返る方が、問題の本質に迫ることができる場合もあるでしょう。
?皆さんもぜひ観賞して、防災について考えてもらえればと思います。
(関西大学社会安全学部教授 一井康二)(2023-03-20・大阪夕刊・国際・3社掲載)