【関大社会安全学部 リレーコラム】ポジティブな未来に目を向けて
平成の時代は、「戦争」という点では元号に込められた平和が達せられたと歴史的に評価される日が来るかもしれません。しかし、「災害」という点では、阪神・淡路大震災や東日本大震災など多発する災害で多くの人命が失われるなど、苦しく厳しい時代でした。
令和(れいわ)の時代は、戦争・災害の両面から平和な時代になってほしいと切に願います。しかし、南海トラフ巨大地震や首都直下地震、スーパー台風などの巨大災害の発生が懸念される中を生きてゆかねばなりません。
そのため、日常生活に大きな変化を強いるような防災・減災上の課題と向き合わなければならない場面も多くなるでしょう。例えば、津波が届かない場所にまちを移す高台移転や、耐震性の低い住まいから高い住まいへ引っ越すことなどはその好例です。住み慣れた住まいを離れることに大きな負担を感じる高齢者も多いでしょう。
災害対策上の最善の策が私たちの暮らしの最善の策とは限りません。日常生活に大きな犠牲を強いながら無理に防災・減災対策を進めると、結果として、まちの良さが失われたり、生き生きとした暮らしが失われ体調を崩す人が現れてくる可能性があります。災害が起きても悲劇が、災害が起きなくても強引な対策の結果として悲劇が起きるという事態は避けなければなりません。
それを実現する鍵の一つは、ネガティブな結果の有無ではなく、ポジティブな結果の有無に焦点を当てて判断できるようにしていくことだと考えています。住まいを移転しなければ命を落とす、という文脈ではなく、住まいを移せば親世帯あるいは子世帯との近接した暮らしが実現できるという文脈の中で判断できるようにすることが大切なのです。
(関西大社会安全学部准教授 奥村与志弘)(2019-04-15・産経新聞 大阪夕刊・5ページ掲載)