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【執行部リレーコラム】大学とスポーツ

2019.01.25

副学長 高増 明

 以前は、大学にとってスポーツは、課外活動でした。課外活動というのは、正課、つまり大学の授業でない学生の自主的活動のことを意味します。

 とはいっても、ずっと昔からスポーツが大学の重要な活動であったことは確かです。関西大学でも、大学として認可される前の法律学校時代、1892年に、すでに相撲部が創立されています。その後も、続々とクラブが創立され、創立から100年以上経っているクラブもたくさんあります。学生はいつの時代にもスポーツに熱狂してきたのです。

 日本では、どの大学にも体育会、つまり「競技として」、あるいは「本気で」スポーツをやっているクラブの連合体があります。関東と関西の在校生が3万人程度の10の大学でみると、体育会に加盟しているクラブは、いずれも40から50、参加している学生数も、だいたい2500人程度になっています。つまり、どの大学でも、大学生の10人に一人は、「本気で」スポーツをやっているのです。

 野球の明治神宮野球大会、サッカーのインカレ、ラグビーの大学選手権、アメリカンフットボールの甲子園ボール、箱根駅伝などの全国大会に出場し、それに勝つことが大学のスポーツ選手の目標です。またそれに勝てば、マスメディアに注目され、大学の名前も一般に浸透しますし、在校生や卒業生も喜びます。

 このようなことから、ほとんどの大学で、スポーツを強化し、その一環としてスポーツ推薦入試を導入しています。10大学でいうと100人から300人のアスリートが、その入試で入学してきます。

 しかし、このような状況が矛盾したものであるのは明らかです。スポーツは建前としては、学生の自主的活動なのですが、大学はスポーツ強化に力をいれ、優秀なアスリートを優先的に入学させようとしているからです。

 大学の教員のなかには、大学は勉強するところなのだから、体育会もスポーツ推薦入試もいらないと考えている人は、たくさんいます。逆に、クラブ側は、大学がスポーツの強化に本気で取り組んでくれないと批判しています。

 海外ではどうなのでしょうか?よく知られているように、アメリカの大学は、日本以上にスポーツに力をいれています。大学のアメリカンフットボールやバスケットなどが特に人気があるということがあり、大学スポーツのチケット収入、放映権料などの合計は、アメリカ全体で6000億円を超えると言われています。大学のアメリカンフットボールのコーチの年収が10億円以上という大学もあるようです。すごいですね。

 これは、いわゆる一流大学、大学の世界ランキングにはいる大学でも同様で、スタンフォード大学は270人以上のオリンピックメダリストを輩出し、ハーバード大学も100人以上のメダリストを出しています。スタンフォードでもハーバードでも、最も高い報酬をもらっているのは、ノーベル賞受賞者ではなく、アメリカンフットボールやバスケットボールのコーチでしょう。

 つまり、アメリカでは、スポーツは大学のビジネスの重要な一部になっているのです。ただし、それをコントロールする仕組みも整備されています。全米大学体育協会(NCAA)があって、大学スポーツ全体をコントロールしています。NCAAは、大学スポーツに補助金を拠出し、アスリートの修学支援をするとともに、成績の悪い学生は試合に出場できないというペナルティを課す仕組みをもっています。

 日本でも、そのようにすべきだと考える人はたくさんいるわけで、今年は、アメリカのNCAA にならって、大学体育協会(UNIVAS)が一般社団法人として設立されます。アメリカまでいかなくても、日本の大学のスポーツ全体を統括する組織が設立されることになります。

 ただし課題はたくさんあります。一番大きな問題は、日本では、大学スポーツの人気がそれほど高くないことです。お金が集まらなければ、結局、口だけ出す(規制だけ行う)仕組みになってしまい、参加をいやがる大学も増えるでしょう。

 とはいっても、ここまでスポーツの人気が高まり、多くの学生がスポーツをやっている以上、資金を集め、それを大学に配分し、アスリートの支援をする組織が必要であることは明らかです。問題は、その組織をどのようにうまく運営していくかでしょう。

 それぞれの大学についても、大学の知名度や学生や校友の大学への帰属意識がスポーツと密接に関連しているのは明らかなわけですから、大学として、どのようにスポーツを位置づけ、それをどのように振興していくのかを教育とビジネスの視点から冷静に考える必要があるでしょう。

 今年は、日本の大学スポーツが大きく変わっていく年になると考えられます。関西大学でも、すでに、このような動きに対応するために、いくつかの施策をとっていますが、今年はそれをさらに加速していく必要があります。