国際博覧会を通じて情報メディアの革新を追う
岡田 朋之 教授

メディアイベントの在り方、意義を研究

国際博覧会を通じて情報メディアの革新を追う

近年の万博から見えてくるものとは

総合情報学部

岡田 朋之 教授

Tomoyuki Okada

2025年に大阪・関西での開催が決まった国際博覧会(万博)。近年、その意義は、かつての先端技術開発の成果を披露する「国威発揚型」から、地球規模の課題とその解決策を示す「理念提唱型」へと変容を遂げた。岡田朋之教授は、万博を通して、メディア(インターネットやモバイル、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)等)が普及した現代社会におけるイベントの在り方や意義について研究を進める。

メディアの観点から万博の変化を追う

岡田先生は、2005年の愛知万博以降の万博を調査されています。万博に関心を持ったきっかけとは?

親族の家が会場近くにあり、その建設過程を目にしたのがきっかけです。環境への配慮をうたっているわりに、会場や周辺施設の建設による地域環境、生態系への影響が大きいのではないかと疑問を覚えました。私は愛知県の大学の先生方と交流があったので、万博開催に合わせて合同ゼミを実施しようという話になりました。準備のために会場を下見していると、実は旧来の万博とはかなり異なってきていることに気づかされ、更に調査を深めてみようと思うようになったのです。

どのようなところに面白さを感じたのですか?

開催当時、中身を見ずに「万博なんて」と冷ややかに語る論調が少なくなかったのですが、実際は地元の人たちが参加するパフォーマンスなどで大いに盛り上がり、たくさんのリピーターで溢れていました。
 内外にギャップが生じた理由の1つは、ブログやSNSの影響が大きくなってきたことがあります。ちょうどこのころ、mixiが登場するなど、ネット上にはさまざまなコミュニティができ、来場する際の裏情報やアドバイスを共有できるようになりました。
 パビリオンの展示の変化も面白かったです。以前からあったような高精細な実写映像を鑑賞するタイプはあまり受け入れられなくなり、来館者がインタラクティブにかかわれるものが注目されるように。例えば、一番人気を誇ったのは、ARの世界でさまざまな希少動物と出会う旅ができる日立グループ館。ソフトをダウンロードすれば自分のパソコン内で希少動物を飼育でき、成長するとQRコードを残して日立館へ帰っていく、というストーリーになっていました。更にそのQRコードをパビリオンで提示すれば、メインショーで再会できるため、それを見たさに多くの人が必死になって並びました。

情報化が進み、さまざまな変化が見られたのですね。

愛知万博では、万博の在り方自体も変わりました。愛知万博検討会議では市民との対話が重視され、それまでの「国威発揚型」とは異なり、市民参加や課題の解決を目指した「理念提唱型」に変容し、一定の成果を上げました。多様なミッションを持つ市民たちがトークイベントやコンサート等を展開し、社会問題への取り組み方を共に考え始めたのです。
 メディアの発展という観点でも、愛知万博は転換点として位置づけられています。その後、特に2012年の麗水万博(韓国)では、広報室がSNSサポーターズを組織して会場内でのイベント開催を支援するなど、ソーシャルメディアによる動員力がかなり重視されました。会場もスマートフォンを使いこなせばより楽しめる内容になり、入館待ちの行列前にはQRコードが掲示され、ゲームをダウンロードして遊べるなどの仕掛けがなされました。当時、韓国のスマホ普及率は60%超、逆に20~30%だった日本の情報化の遅れが如実に現れていましたね。

歴代の万博を追うことから、見えてくるものとは?

1876年のフィラデルフィア万博ではグラハム・ベルの電話機、1878年のパリ万博ではエジソンの蓄音機、そして1970年の大阪万博では携帯電話……と、万博には後の時代に影響を与える新しいものが出展されます。その動向に注目すれば、先端のテクノロジーやメディアが世の中でどのように活用されていくのかが見えてきます。
 一方で、残念なことも見えてきます。例えば、2017年のアスタナ万博(カザフスタン)では「未来のエネルギー」をテーマに再生エネルギーをはじめとするさまざまな新しい取り組みが展示され、各国の最先端技術が紹介されていました。しかし、日本館以外で日本が開発したものは全く目にすることができませんでした。日本のエネルギー政策が世界のトレンドから大きく後れを取ってしまっていることが如実に現れていたと言えるでしょう。

  • 2017年アスタナ万博の日本館前にて

    2017年アスタナ万博の日本館前にて。
    (左)本学OBで日本館展示プロデューサーの藤川佳秀さん(1995年商学部卒)

  • 各国で開催された国際博覧会のグッズ

    各国で開催された国際博覧会のグッズ

新時代への発想が問われる2025年大阪・関西万博

2025年には大阪・関西万博が開催されます。先生が注目される点は?

今日の万博は、開催する都市が開催テーマを踏まえた街づくりをどのように進め、世界の中核的な存在となる責任を担っていくかが求められます。愛知万博は「自然の叡智」をテーマに地球環境問題への取り組みを中心に据えて開催しました。2010年の上海万博は「より良い都市、より良い生活」をテーマに大都市としての在り方を提示し、2017年には万博の歴史等を伝承する役割を担ったミュージアムを開館しました。2015年のミラノは「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに万博を開催して食料や飢餓の問題に取り組み、食やデザインの中心都市として時代をリードし続けています。次の2025年の大阪万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」とうたっていますが、何をするのか? 21世紀後半に向け、生命科学や医療、福祉といった分野で大阪が世界の中核の1つとして注目される存在であり続けられるのかが問われます。

1970年の大阪万博では、岡本太郎氏による「太陽の塔」がレガシーとして今も愛されています。次の万博ではシンボルとなる施設は建造されないそうですが、レガシーに関してはどのようにお考えですか?

私も建造物はいらないと思っていました。愛知万博はマスコットキャラクターのモリゾーとキッコロが今でも人々に親しまれています。かれらは森の精霊という設定でしたが、ユビキタスの語源が遍在する霊的な存在なので、まさにユビキタスなシンボルとしてネット時代を象徴していました。そういう残り方をするものがあれば良いのかなと。しかし、「太陽の塔」を見ていると、100年経っても「なんだこれは」と思われるであろうインパクトがあります。2025年の大阪・関西万博は参加型の万博として皆の記憶の中に残り、伝わっていけば良いと松井一郎大阪府知事は発言していますが、記憶は一世代経つと忘れられてしまう。「太陽の塔」に匹敵するモニュメントが出来るのならば、それもありだと思います。

持続可能な社会の実現に向けて

今後の展望をお聞かせください。

新しいメディアは、技術的に優れているものが社会に受け入れられていくとは限りません。今後も万博を通じて、どのように技術やテクノロジーが取り上げられていくのか、そのプロセスをリアルタイムで追いつつ、歴史も振り返りながら多面的に見ていきます。
 更に、今年度から関西大学の経済・政治研究所では「エキシビションとツーリズム」というテーマの共同研究を開始します。万博とミュージアムは歴史的に密接な関係があります。博覧会、展覧会やミュージアムといったものを観光と結び付けながら、どのように持続可能な開発や街づくりに役立てていけるのかを考察していく予定です。