太陽光で水と酸素から過酸化水素を製造
福 康二郎 助教

太陽光エネルギーの有効利用技術の設計

太陽光で水と酸素から過酸化水素を製造

粉末光触媒を使用し、人工光合成

環境都市工学部

福 康二郎 助教

Kojiro Fuku

光触媒に太陽光を当てると、そのエネルギーで化学反応が促進される。大学4年次の時に、その可能性に魅せられた福康二郎助教は、いちずに研究に打ち込み、可視光線利用を可能にする光触媒素材を用いた付加価値の高い化成品製造において、世界最高レベルの効率を達成した。燃料電池の燃料としても期待される過酸化水素の、安価でクリーンな製造・貯蔵法を開発し、エネルギー・環境問題に貢献しようと研究に取り組んでいる。

可視光線も利用可能、光触媒の新世界

太陽光などの光のエネルギーを化学反応に利用し、役立つものを作る研究をされているとお聞きしています。具体的にどのような研究をされているのですか?

太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換して貯蔵する技術は、人工光合成技術として近年注目されています。私が取り組んでいる研究の1つは、粉末の光触媒に太陽光を当て、水や酸素から過酸化水素を効率的に製造・貯蔵する研究です。

光触媒とはどのようなものですか?

光触媒は、光のエネルギーによって化学反応を促進する物質のことです。その中でも酸化チタンが既に実用化され、材料としては化粧品の中に紫外線をカットする素材として使われています。ただし、酸化チタンは紫外線にしか反応しません。紫外線は太陽光の中に5%程しかありません。もし、太陽光の大部分を占める可視光線に反応する光触媒の材料があれば、太陽光エネルギーをもっと効率良く利用できますね。
 そこで目を付けたのが、既に水分解反応において高性能を示すことが知られていたバナジン酸ビスマスBiVO4です。この物質はそんなに高価でないにもかかわらず、可視光線を良く吸収することが一番のメリットです。これを光触媒材料として使って、水から過酸化水素を作る方法を私が初めて見つけ出しました。

光触媒を使って、太陽光で水から過酸化水素を作るとは、どういう仕組みですか?

光触媒に使うのは半導体です。バナジン酸ビスマスBiVO4も半導体です。半導体に光エネルギーを加えると、半導体の中の価電子帯というところにある電子は、光エネルギーを吸収することでより高いエネルギーを持ち、価電子帯から飛び出して、伝導帯というところに移動します。価電子帯には、正孔という電子が抜けた穴が発生します。この穴を使って酸化反応を起こし、水から過酸化水素を作ります。同時に伝導帯に電子を留めておけば、還元反応で酸素から過酸化水素を作ることもできます。(下図)

可視光線を利用できる光触媒で太陽光エネルギーをたくさん集めて、より効率良くその反応を促進できるようになったということですね。

もう1つ、光触媒を補助して反応を促進する助触媒として、炭酸塩を使ったことがポイントです。当時は、バナジン酸ビスマスBiVO4を光触媒として、炭酸塩を助触媒に使った組み合わせと、反応を助けるため、そこに少し電気を加えるという技術展開をしたことで、世界最高水準の高い効率を達成することに成功しました。太陽光のエネルギーの内、どれだけの量を化学エネルギーに変えることができたかを示す値が、太陽光エネルギー変換効率で2.2%を達成しました。少ないと思うかもしれませんが、藻類の光合成が3%ぐらいですから、自然界の値にかなり近づいたと言えます。

水はH2O、過酸化水素水はH2O2。酸素を1つ増やすだけだから、簡単というわけではないのですか?

非常にシンプルな反応に見えますが、過酸化水素を作るのは実はすごく難しいのです。水よりも過酸化水素の方が不安定なので、水が分解される環境なら、過酸化水素もすぐ分解されてしまいます。そこを過酸化水素の状態で留めて、蓄積しなければいけない。これまで工業的には、アントラキノン法という方法で製造されていましたが、この方法は有機溶媒をたくさん使うので環境負荷が大きいし、作り出すまでに何段階も工程を経なければなりませんでした。これに代わって、豊富に存在する水や酸素を原料に、ほぼ無限な太陽光エネルギーを使ってシンプルで安価な生成ができれば、エネルギーや環境の問題に大きな貢献ができると思います。

  • 粉末光触媒を用いた過酸化水素製造のメカニズム
  • 粉末光触媒を使って水と酸素から過酸化水素を製造する実験

    粉末光触媒を使って水と酸素から過酸化水素を製造する実験

未来の新エネルギーを支える技術へ

今後の研究はどのように進めていくのですか?

可視光線の波長は400nm~800nmで、バナジン酸ビスマスBiVO4が拾えるのは550nm程度までなので、今は800nmまで拾える性能の高い光触媒の材料を探索しています。また、伝導帯で電子を蓄積する助触媒の良い材料も探索しています。水と酸素の両方から、過酸化水素をより効率的に作り出せるかを探究していきます。
 昔から、過酸化水素はオキシドールとして、殺菌・消毒剤、あるいは半導体の洗浄などの用途に利用されてきました。最近は特に、燃料電池の燃料として注目されています。水素を燃料とした場合は水が、過酸化水素を燃料とした場合は水と酸素が、燃料電池から排出されます。私の研究は、水と酸素から過酸化水素を作るものなので、上手く循環させる仕組みを作ることができれば、究極にムダのないエネルギーの利用ができるかもしれません。
 燃料電池以外の応用については、個人的にはいろいろ考えています。例えば、水を貯めて冷やす冷却塔で粉末光触媒を置いておき、太陽光が当たると過酸化水素が作られて、水を殺菌でき、藻も繁殖しない技術など。近未来的には、殺菌・消毒面の用途が、更にその先の未来には、エネルギーとしての利用があるだろうと考えています。

計画通り進まない研究こそ、画期的な成果生む

そもそも研究のきっかっけは?

4年次の時に、身近にある粉が、光を当てるだけで有害物質を分解することや、エネルギーを作ることができると知り、興味を持ちました。実験を進めるうちに本当に無害化できるのだと分かり、より深く研究してみたいと思うようになりました。その時からこの研究に情熱を注いできました。
 ずっと失敗続きだったら、ここまで続けられなかったかもしれません。良い発見ができた時は、学生たちと喜び合います。その時の感動を求め日々研究に励んでいます。
 私は先々の計画を立てて物事を進める方ではなく、出た結果を見て、次のプランを決めるというスタイルです。計画が立てられる研究を続けている限りは、その枠から出られないのではないかと思っています。将来、光エネルギーを使って有用化成品が作られていることを社会で認知できるところまで光触媒の研究を押し上げていきたい。それを30年以内に過酸化水素で達成させたいと思っています。

2018年開催の電気化学会第85回大会において受賞した「第14回 Honda-Fujishima Prize」の表彰盾を手にする福助教

2018年開催の電気化学会第85回大会において受賞した「第14回 Honda-Fujishima Prize」の表彰盾を手にする福助教

※Honda-Fujishima Prize: 電気化学会・光電気化学研究懇談会の初代主査である本多健一氏・藤嶋昭氏の日本国際賞受賞を記念し、両氏からの寄贈をもとに光電気化学と光触媒化学の領域における若手研究者の研究を奨励する目的で創設されたもの