グローバル化時代におけるロジスティクス
飴野 仁子 教授

グローバル・ロジスティクスの研究

グローバル化時代におけるロジスティクス

人々のくらしと物流政策を紐解く

商学部

飴野 仁子 教授

Hiroko Ameno

物流をうまく管理しより効率化した物流システムをつくり上げることは、企業の収益性や競争力の向上に大きな影響を及ぼす。物流は国内の事業活動のみならず、世界規模のビジネス展開にその役割を果たす。先進的な物流の考え方として、ロジスティクスが普及している。飴野仁子教授は、経済のグローバル化が進展する中で、世の中を支えるロジスティクスに焦点をあて、今後の社会経済の成長に必要なしくみを研究する。

グローバル化する国際物流

近年、世界の物流はどのような動きをみせていますか?

世界的にみれば、物流量は年々増加の傾向にあります。グローバル物流の成長の中心は、中国を筆頭にした東アジア経済圏です。貿易が活発化し、国境を越えて経営活動を行うグローバル企業へ、活動領域と規模を拡大する企業が出現しています。世界各地からの原材料・部品・労働力・資本蓄積の状況を考慮して、世界規模で最適地調達、最適地生産、最適地販売を行っています。企業が世界各地での調達、生産、販売活動を活発化すればするほど、物流は増加します。近年では、製品間や工程間で国際的な水平分業が広がり、製品だけでなく部品や半完成品の国際物流が増えています。

日本の国際物流はどのようになっていますか?

日本の国際物流量は減少傾向にあります。日本企業もグローバルに展開していることから、例えば、韓国や台湾から部品を調達し、中国の工場で組立て製品にして、欧米の市場へ輸出するというように、日本企業の製品であっても、日本を経由しない場合も増えてきています。身の回りの電化製品を考えてみて下さい。新しい製品が発売されるたびに、製品の仕様が変更され機能が向上しているにもかかわらず、サイズはコンパクトで軽量化されている製品は珍しくはありません。出荷量が増えている場合でも、貨物量は増加するとは限りません。
 日本の国際物流を担う手段は船舶と航空機です。海上貨物と航空貨物の輸送動向は、輸出入合計を重量と金額でみると、輸送トン数ベースでは、海上が99.7%、航空は0.3%ですが、金額でみると、航空は25%前後を占めています。船舶での輸送期間は、海上輸送だけでも日本から北米まで約2週間、欧州へは約1カ月を要します。スマートフォンやパソンコンなど製品のライフサイクルが短くなっている昨今では、時間コストの削減は物流にとって大きな課題のひとつです。一度に大量にモノを運んで在庫コストを抱えるよりも、航空機の利用により、必要な時に必要な量を運ぶという選択も可能です。豊かさゆえに消費者のニーズも多様化する中で、製造業者も物流事業者も、さまざまな努力が求められています。

物流に注目した企業経営の例はありますか?

トレンドのファッションを手頃な価格で販売するファッションチェーンのブランド、ご存じZARAです。ZARAは自らが企画・製造した商品を、自ら運営する店舗で消費者に直接販売する形態をとっています。物流はビジネスの肝です。なぜならトレンドファッションは鮮度が命ととらえているからです。ZARAでは、製品の過半数を本拠地のスペイン、ポルトガルなどで生産し、残りはヨーロッパやアジア諸国で生産しています。各地で生産された製品は、その地域で販売される製品でもいったんスペインに集め、店舗ごとにまとめて再度世界各地へ配送されます。新商品を企画から完成品まで4週間でつくり上げても、店舗に届けるまでの輸送に4週間かかっていては意味がありません。そのためアジアなどへは空輸し(往復とも製品を積載)、年間で約2000便の航空機をチャーターして出荷から48時間以内に届けられます。商品は多品種少量で生産し、店頭でお客の反応が良かった商品については、すぐに新しい商品を生産して店頭に届けます。最低限必要な数しか生産せず売り切れたらおしまい。基本的につくりおいて在庫するという発想はありません。店頭には毎週決まった曜日に、常に旬の商品が並ぶというしくみです。商品を多品種少量・スピード生産し、売れ行きが良く在庫切れになったからといって、サプライチェーン全体のリズムを崩さない、一定のリズムの物流を重要視しているユニークな事例といえると思います。

ロジスティクスの視点から未来を考える

日本でも戦略が必要ですね。

東南アジアの都市国家で面積の小さなシンガポールは、海上コンテナの取扱量において、中国の上海と世界の1、2位を競っています。鉱物資源等を持たない国ですが、地理的に交通の要衝に位置する利点を生かし、国際的なハブ港湾、ハブ空港として、高度な交通・物流のインフラを整備し、人・モノ・おカネ・情報が集まるしくみを現在も維持しています。物流インフラを資源としてうまく利用するような知恵が求められています。
 日本に「物流」という用語が登場するのは高度経済成長が始まった1950年代後半のことです。国の政策として物流がまとめられるようになったのは1997年からです。他分野と比べて比較的日にちは浅いのですが、情報通信技術の革新や国際分業の進展にみられるように社会経済環境の変化が、一般社会でもやっと物流≠輸送という認識を持たざるを得なくなったのだと思います。

今後どのようなことを考えていく必要があるのでしょうか?

現代では、企業も個人の生活も物流がストップしてしまうと、たちまち生活が立ち行かなくなってしまいます。しかし、日本の国内の市場を見渡せば、かつてのように毎年物流量が右肩上がりに増加するというような時代とは違うと思います。「量」ではなく、今こそ物流の「質」が問われていると思います。経済活動のひとつである物流は、地球環境問題と切り離して考えることはできません。昨今のインターネットの普及から通信販売の伸びには著しいものがありますが、今後はこれまでのように、企業・消費者の物流ニーズに際限なく応じるようなものではダメだと思います。荷主企業はビジネス上で競合する関係でも「物流は共同」で取り組むことがますます必要になるでしょうし、消費者のひとりである我々は、物流はタダという感覚のもとに、安易な時間帯指定や不在宅に何度でも配達に行かざるを得ないようなしくみは改めて、荷物の受け取り方にも工夫が必要でしょう。持続可能な社会を考えれば、そもそも物流需要を輸送容量にあわせるという発想も持ちあわせなければならない場合もあるでしょう。輸送スペースに空きがなければ現実に輸送はできないのですから。荷台の空きスペースが多いままにトラックが行き交うこともナンセンスです。日本は今、成熟社会を進みつつありますが、東アジア諸国の中でも早晩同様の経験をする国々が現れるでしょう。社会を支えてきた物流によって、ちょっと先の未来をもっと豊かに潤すことができるようなそんな新たな物流政策を考えていきたいと思っています。自由で柔軟な思考と発想が鍵になりそうです。