自動車、橋、ビルの振動で発電
大橋 俊介 教授

リニア発電を用いた振動エネルギー回収システムの研究

自動車、橋、ビルの振動で発電

振動を電気に換えて省エネ、揺れも抑制

システム理工学部

大橋 俊介 教授

Shunsuke Ohashi

太陽光、風力、地熱、バイオマスなど、資源が枯渇しない「再生可能エネルギー」の導入・普及を推進する動きが活発だ。そのような中、大橋俊介教授が着目したのが、「振動」。どこにでもあるが、特に利用されることのない振動エネルギーで電気をつくる新しい発電の仕組みを、リニアモータの技術を応用して開発している。

振動を電気に。リニアで効率よく発電

大橋先生の研究室ではどのような研究をされているのですか?

私たちの電気機器研究室では、リニアモータ、超電導の応用、磁気浮上搬送の他、環境に優しいテーマでは、リニア発電を用いた振動エネルギー回収システムを研究しています。

振動エネルギーを回収するシステムとはどのようなものですか?

自動車や電車は走ると揺れますよね。鉄橋も自動車や電車が渡ると振動します。高層ビルの上層部も風で揺れます。このような振動エネルギーは、身近なものですが今までほとんど利用されていませんでした。これをリニア発電で電気エネルギーに換えて有効利用しようというシステムを研究しています。

リニア発電とはどのようなものですか?

例えば、火力発電なら蒸気でタービンを回して電力を発生させますが、リニア発電は、振動部に取り付けられた永久磁石が往復直線運動することで、コイルに鎖交する磁束が変化し、電気が発生するものです。振動は縦や横の線的な運動ですから、リニア発電ならば、振動をわざわざ回転運動に変換せず、線的な動きをそのまま利用して電気エネルギーに変換できるわけです。

そのシステムはどのような場面で役に立つのですか?

現在想定しているのは、自動車、鉄橋、高層ビルなどに設置することです。振動で発電した電気を利用することで、電気自動車の走行距離を伸ばすことができます。鉄橋ならば照明に利用することで、電線を敷設する必要がなくなるでしょう。また、振動をエネルギーに換えることで揺れが抑えられ、自動車なら快適な乗り心地を得られる。鉄橋も振動が小さくなれば、金属疲労が起こりにくく寿命が延びることも期待できます。

研究は現在どのような段階ですか?

今はまだ基礎に近い段階で、センサーを振動源である自動車や鉄橋に取り付けて振動を測定した後、その測定記録を基に実験装置で振動を再現し、その再現した振動でリニア発電を行う実験をしています。この実験装置は振動発生部とリニア発電を行う発電部で構成されていて、発電部で得られた電気の電圧、電流などの発電特性を解析し、システムの改善につなげます。ここでうまくいけば、実際に自動車や建物に設置する装置の設計に進みます。
 実験装置は自分たちで作りました。振動センサーを取り付ける自動車も、一人乗りの小型電気自動車を自分たちで組み立て、学内で走行させ測定しました。電装品や配線は私たちが行いますが、溶接が必要なフレームの組立など機械加工は大学のテクノサポートセンターにお願いしました。


リニア発電装置

超電導で物体を浮かせて運ぶ

研究中の磁気浮上搬送というのはどのような仕組みですか?

磁気浮上搬送とは磁力で物体を空中に浮かせて運ぶことで、私たちは特に超電導で浮上させるシステムを研究しています。磁気浮上とリニアモータを組み合わせることで、通常の回転式モーターを使った場合と違い、完全に非接触で物体を浮かせることができ、重い物体も摩擦なく小さな力で動かすことができます。例えば、磁気浮上を使えば20トンもある車両を1人で動かすこともできます。
 電気機器の実験を行っている大学は現在それほど多くはありません。その理由の1つは、研究環境を整えるのが大変だということがあります。超電導現象を起こすには、最低でもマイナス190度の低温環境が必要です。そこで液体窒素を使用するのですが、液体窒素を扱っている大学は多くありません。しかし、本学では生物化学系の研究室で昔から使用されていたこともあって、学内で手配できます。また、研究するために必要な実験室もあり、研究環境に恵まれています。
 私たちの超電導磁気浮上の実験装置は、40キログラム台の重量のものであれば、台に乗せて空中に浮かべて動かすことができます。現在は搬送速度の調節の実験などを行っているところです。

これらの研究に興味を持ったきっかけは何ですか?

元々、自動車や電車など動くものと電気が好きでした。昔は電子工作にも熱中しました。中学生のころ、パソコンが普及し始め、大阪・日本橋の電気屋街によく遊びに行ったものです。大学に入学し、リニアモータを学べる研究室があり、この研究分野に進むことになりました。電気は目で見てもどのように機器に力が働いているか分からないことが多いですが、リニアモータは実際の動きで力の働きが分かるので、私には向いていたのだと思います。


自作した振動センサー搭載の1人乗り小型電気自動車

ものづくり体験も大切な学び

研究に対する学生の反応はどうですか?

私の研究室に来る学生は元々こういうことが好きな人ばかりです。この研究では、実際に手を動かすものづくりに時間をかけることが多くなります。その作業は学問的には本題ではないですが、学生にとっては有益な勉強だと思っています。装置を作る時はうまくいかないことがいろいろ出てきます。通常は磁石にくっつかないステンレスでも、くっつくような強力な磁石を使うので、一般的な磁石ならば簡単な数値的シミュレーションも、なかなか予測通りの結果になりません。また、超電導の数値解析はまだ確立していないのでいろいろな要素を考慮しないといけません。失敗するのは当たり前。やってみたけれど、残念な結果になることがよくあります。しかし、失敗を繰り返してもあきらめずに自分で考え、工夫して物をつくる体験がないと、社会に出て必要に迫られた時にお手上げになってしまうだろうと思います。

今後の抱負をお願いします。

エネルギー問題に役に立ちたい。また、振動だけでなく無駄になっているエネルギーを回収するシステムを考えていきたい。そして、今までにない新しい原理で動くものを開発していきたい。これまで世の中になかったものを作り出そうとするのですから、思いがけない課題も出てくるでしょう。しかし研究ですから、分かっていることをやってもあまり意味がなく、ものになるのかどうか分からない新しいことにもチャレンジできるのが、大学の研究ではないかと思っています。


研究室のメンバーと大橋教授