人は情報をどのように探すのか
渡邊 智山 教授

情報探索過程に関する研究

人は情報をどのように探すのか

情報探索の理論研究と図書館サービスの実践

文学部

渡邊 智山 教授

Toshitaka Watanabe

人は必要とする情報をどのように探すのか。渡邊智山教授は情報探索論をライフワークとして研究している。その理論的な研究の一方で、図書館が知の社会的装置として持続的に機能するべく、実践的な支援活動や提言を行っている。

情報の研究へ文系からアプローチ

図書館情報学とは、どのような学問ですか?

簡潔に言えば、図書に限らず、インターネット上の価値あるサイトも含め、「記録された情報」を中心に、その収集、分類、管理、提供、及びそれらを行う制度設計を考える学問です。その中でも、効率的に探すためにはどのような点に注意しなければいけないのかといった、情報探索のプロセスについての研究が私のライフワークです。

図書館情報学に興味を持たれたきっかけは何でしょうか?

学生当時は、パーソナルコンピュータとインターネットが普及し始めた頃でしたが、情報管理や検索システムは工学系の研究という先入観があり、元々学生時代に国文学を専攻していた自分にとって、情報にかかわる研究は別世界の事として認識していました。しかしながら、図書館司書の資格を取るためのカリキュラムを受講した際、情報の内容や価値を見極める力(情報リテラシー)が非常に大切で、自然科学系の情報研究とは異なる切り口で「情報研究」にかかわれる事を知り、同時に、その視点が社会へ貢献する重要な基盤となる事に気付いたのです。その「気付き」の経験が、図書館情報学研究への契機になっています。

図書館は知性を磨く社会のインフラ

図書館というと、本を探して読むための施設、自習する空間というイメージがあります。

図書館は学びのためのインフラ、知性を磨く社会的装置です。識字率が100%に近い日本では想像しにくいですが、カンボジアやミャンマーなどでは、字の読めない人がたくさんいて、社会的な不利益を被っているという現実があります。その不利益を改善するため、「シャンティ国際ボランティア会」という国際NGOは、図書館事業や学校建設事業を中心に生涯学習の拠点や環境作りに取り組んでいますが、その活動を見れば、図書館の存在意義や可能性について改めて認識させられるでしょう。
 もちろん、カンボジアと日本では状況は違いますが、貧困などによって子供たちの間に教育格差が生まれているという問題は、日本でも現実化していますし、その意味では、「知」を支える図書館の社会的使命は大きなものがあると思います。自らの意思に反し、学習困難な状況に陥ってしまった子供たちのために、また、常に学びたいと考えている人々のために、いつも開かれている「知の環境」を整備しておく事は、図書館が公共財、もしくは社会的共通資本として認められるための証明であると思います。
 近年では、ビジネス支援情報、健康情報など、多くの図書館が、「図書」という枠組みだけでなく、多様なサービスに取り組んでいます。図書館が本を読む・借りるだけの場所ではなく、日常の小さな問題も含め、解決のために活用する「道具」が図書館なのです。

図書館をもっと利用しても良いのですね。

図書館の重要な仕事は、過去の貴重な文化を未来へつなぎながら、記録情報を保管・保存する事ですが、図書館の真価は、利用されてこそ発揮されるのではないでしょうか。知の継承は、物理的な資料だけでなく、人が「記録=過去の経験」をどのように利用するかにかかっています。

図書館に関連した取り組みも実践されているのですか?

図書館は、常に人々と共にあります。社会インフラとして機能するためには、変化し続ける社会状況に応じて、自らを進化させていかなければなりません。「絶えざる自己改革」が図書館の基本的なテーゼです。
 2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、関西大学の教員有志と学生と共に、「あくせす・ぽいんと」というボランティア活動グループを組織したのですが、その活動を通じて、図書館サービス充実化へ向けた実践を展開しています。
 例えば、「あくせす・ぽいんと」の活動には、(1)学校図書館への児童書の寄贈、(2)英語の絵本の読み聞かせ、(3)放課後学習支援、を主要なプロジェクトとして掲げていますが、これら内容のすべては、全国の公共図書館での「標準的な活動」にはなっていません。読書推進活動を支援する、多文化サービス活動を展開する、子供の貧困などの社会問題に対応し続けるというのは、直接的に取り組むべき課題であると思いますが、経済的な問題(予算)・人的資源の問題(人事)などの問題から、図書館側に想いがあっても十分に取り組む事ができていないのが現実です。「あくせす・ぽいんと」の活動には、図書館を支援しながら、「学び」を支え続けたいという想いがあるのです。


あくせす・ぽいんと
http://www.v-accesspoint.org/

テクノロジーと融合する図書館

最近の図書館にはどのような新しいサービスが取り入れられているのですか?

情報通信技術の進化が社会に変化をもたらし、生活状況も変容させています。結果、インターネット依存症などの精神疾患が急増したり、ネットを悪用した犯罪行為が後を絶たないのが、現実の情報社会であると思います。
 しかしながら、情報通信技術の進化にはネガティブな面ばかりでない事は多くの人が知っているところです。図書館もまた、Social Network Servicesを活用した広報やコミュニティ作り、電子書籍を対象とした貸出サービス、ストリーミング配信技術を応用した音楽配信サービスなど、多くのテクノロジーによって進化を遂げてきています。
 今後は、著作権問題など、権利関係に関わる諸問題をクリアする必要がありますが、動画配信サービスを活用して、生涯学習用に企画されたイベントの配信など、テクノロジーと融合した図書館は、より便利になると思います。

図書館もどんどん変わるものなのですね。

図書館情報学分野の古典に「図書館は成長する有機体である」という言葉があります。生命体のごとく、環境の変化に伴って進化し続けていく事に図書館の本質があるというのが意味するところです。今なお、その含意するところは色褪せてはいないのではないでしょうか。人類にとって、「知りたい」「学びたい」という情熱は永遠のものです。その時代、その地域で求められるものは異なるかもしれませんが、図書館は、歴史的にその情熱を支えてきました。
 人々のために何ができるのか、常に考え、図書館という装置を新たな次元へと押し上げていく。これが情報プロフェッショナルとしての司書の役割だと思います。

今後の抱負を教えてください。

「一隅を照らす、此れ則ち国宝なり」というのは天台宗最澄の言葉ですが、「一隅を照らす」ための提案をし続けていきたいと考えています。
 
 1つは、ライフワークである情報探索過程に関する研究です。我々は、どのような探索の仕方を学べば、効果的に必要な情報にたどり着けるのでしょうか。何も知識のない状態から情報を集めるのは大変ですが、もし、過去に経験した人々のノウハウ(探索過程を含む)がうまく利用できれば、「まねぶ」事で、他の人も簡単に情報を入手できるようになるはずです。
 例えば、がん治療に関する情報収集も、自身が初めての経験であれば、「探し方自体」を学ぶ事から始めなければなりませんが、探索のパターンが明確になっていれば、そのパターンに従う事で、効率よく情報を探せるでしょう。過去の経験則(探索のパターン)を記録情報として保持し、必要とする人に、必要な時に提供できるという仕組みが重要であると考えています。
 もう1つは、やはり「あくせす・ぽいんと」の活動の持続です。将来にわたって図書館が「情報」「知識」「教育・研究」のインフラとして、人々から認知され続けるためには、「知」を支えるサービスの向上が不可欠です。「あくせす・ぽいんと」は、図書館情報学(理論)と実践とが交錯して生み出された、「教育」「福祉」「公共」「文化」を考えるための「孵(ふか)化器」の役割を持っていると考えています。図書館を支援し続ける事も、「知」を支える事の一助ですから、自身の研究と同様、ライフワークにしたいと思っています。