ダンスの共同創作を通じた学び
原田 純子 准教授

舞踊教育の研究

ダンスの共同創作を通じた学び

共感力・表現力を育てる

人間健康学部

原田 純子 准教授

Harada Junko

学生時代、「ジャンヌ・ダルク」を題材とした創作ソロダンスで埼玉県舞踊協会賞を受賞した原田純子准教授。今、学生の創作作品の指導、地域の中高年を対象としたワークショップなどを行いながら、ダンスの創作を通じた人間関係の発展、表現力、コミュニケーション力などの育成についての考察を深めている。

身体表現の研究は、理論と実践を両輪に

原田先生のゼミでは、学生は論文を執筆するだけでなく創作ダンスの上演も行うのですね。

私のゼミでは身体表現を楽しくまじめに学び、実践しています。関西学生舞踊連盟発表会、全日本高校・大学ダンスフェスティバル(神戸)などのコンクールにも参加し創作ダンスを発表しています。舞踊教育の分野は頭の中だけでなく、理論と実践の両輪を走らせなければなりません。
 この春、初めてのゼミの卒業生を送り出しました。彼ら1期生は3年次生からの2年間の活動の集大成といえる卒業公演を、2013年11月に千里山キャンパスのKUシンフォニーホールで開催しました。この公演では、ゼミ生と一緒に「創作ダンスPerformance Theater KAYMO(カイモ)」が、「アーティスティックムーブメント・イン・トヤマ2013」で特別賞を受賞した作品などを含む創作ダンスを披露しました。KAYMOは私が担当するスポーツ方法実習Ⅶ(ダンス)の授業の延長から結成された準登録団体で、こちらも私が指導にあたっています。

創作ダンスの指導はどのようにするのですか?

私が考えたものを学生が覚えて踊るのではなく、学生自身がどう表現するかを考え、自分たちで動きを創って踊ります。といっても、「自由に創りなさい」と学生に丸投げするのではなく、時々ヒントを示して、作品完成に至る道筋をつけるようにしています。
 例えば、スポーツ方法実習Ⅶ(ダンス)では、「風」や「水」あるいは「かゆい」というテーマに対して、学生はグループを組んで自由に想像を広げ、動き創りをします。「水」から氷や雪の世界を表現するグループもあれば、海賊の世界を描くグループもいます。突拍子もないものが出てきても、決して否定することはありません。

ダンス経験のない学生でも創作できますか?

ゼミにもKAYMOにも以前からダンスをしていた学生はほとんどおらず、ダンスとは無縁のスポーツをしてきた学生ばかりです。バレエのようなきれいな踊りでなくても、ダイナミックなジャンプやターンなど、彼らの持つ身体能力と創造力を最大限に舞台で生かすことができれば、面白いものができます。
 ダンス経験のない学生が踊ることに対して感じる恥ずかしさは半端なものではありません。身体で表現するという行為はまるごとの自分を曝すようなものですから、勇気が必要です。従って、創作を発表する際にも最初は2人組で相手にしか見えないように、次はクラスの半分くらいの人数の前で、最後にグループごとに全員の前でというように、徐々に見られることに慣れていくような工夫をします。学生の様子を見ながら、臨機応変に発表スタイルを変えていくのですが、ウケたり、褒められたりする体験を重ねると、恥ずかしがっていた学生がいつの間にか作品創りをリードするようになることも珍しくありません。

社会人の方を対象にしたワークショップもされていますね。

人間健康学部のある堺市と関西大学の地域連携事業の一環として、主に50歳以上の堺市民を対象にした「身体表現・ダンスワークショップ」を行っています。アシスタントとして学生も加わり、皆さんには創作ダンスを月2回ペースで楽しんでいただいています。


身体表現ゼミ1期生による卒業公演にて

ダンスの創作を通じ、人と人はいかにつながるのか

コンクールのための練習は厳しいのでは?

コンクールに向けて作品を練り上げるためには、学生同士が意見を戦わせ、試行錯誤を重ねながら長い混沌とした時期を乗り越えなければなりません。「楽しいことは楽ではない」というのは、私のゼミのキャッチフレーズなのですが、苦しい道のりを抜けて、舞台に上がり、パッと照明が入ったときに学生たちは大きな達成感と喜びを感じることと思います。

ダンスの創作を通じて、学生は成長できそうですね。

自己表現力、イメージ力、コミュニケーション力を高めることにつながるでしょう。言葉でうまくコミュニケーションが取れない場面でも、学生たちは身体を一緒に動かしながら互いに言いたいことを理解し、次第に相手のことを読み取る力が身に着くようになります。
 人はどのように他者と関わるのか、他者を尊重しながら、自分の意見をどのように主張していくのか、他者と自分の個性をどのように受け入れていくかなどについて、ダンスの創作を通じて分析・考察を進めていきたいと考えています。数値的に測定できるものではないので、ワークショップの参加者の言葉を地道に拾い集めながら研究しています。

ダンスといえば、近年、小学校や中学校で必修化されましたね。

教育の現場ではダンス指導に困った先生がヒップホップを習いに行って、それを子どもたちに教えるという話もよく聞きます。しかし、せっかくの機会ですので、ただ真似をさせるだけではなく、どのような表現の仕方が良いのかを子ども自身が考え、身体を動かしながら創作することの中に、学びがたくさんあることを指導者が認識すべきだと考えています。私のダンスの授業を受講する学生の多くは保健体育や小学校の教員を目指しています。彼らにはここで学んだことを生かして、皆で何かを創造することの喜びや貴さを子どもたちに伝えてほしいと思います。

誰が踊っても、誰と踊っても、面白い

ダンスにはいつ頃から興味を持たれたのですか?

私自身は幼稚園の頃から、モダンダンスを習っていました。実は宝塚音楽学校に入ろうと願書を取りに行ったこともあります。タカラジェンヌになる夢は諦めましたが、代わりにダンスをしっかり学問として勉強しようと、お茶の水女子大学に当時できたばかりの舞踊教育学科に進みました。大学時代は身体表現の高みを目指して、能楽、フラメンコ、バレエなどいろいろと習って、表現を磨きました。ダンスに対する考え方が変わったのは、神戸大学大学院で学んでいたときに、教科教育のダンスの授業で、野球や柔道の選手が喜々として踊っている姿に出会い、すごいエネルギーを感じたからでした。それまで、私にとってダンスは舞台できれいに踊るものだったのですが、「誰がやってもダンスは面白い。ダンスは多様な感性を育てる。みんなにダンスをしてほしい」と思うようになって、そこから私は創造性の教育としてのダンスの研究に向かい始めました。

今後の抱負をお聞かせください。

男でも女でも、お年寄りでも子どもでも、障がいがあろうがなかろうが、誰もが輝くインクルーシブなダンスの場を創りたい。インクルーシブは「すべてを含んだ」「包括的な」という意味の言葉です。多様な身体条件や価値観を持つ人が分け隔てなくそれぞれに輝く舞台ができたらいいですよね。