熱流動現象を可視化・定量評価
梅川 尚嗣 教授

中性子ラジオグラフィによる流動沸騰系の研究

熱流動現象を可視化・定量評価

脈動(揺れ)が流動特性に与える影響を評価する実験

システム理工学部 機械工学科 熱工学研究室

梅川 尚嗣 教授

Hisashi Umekawa

原子炉やボイラー、空調機器などの管の中では、沸騰した液体や蒸気がどのように流れ、変化しているのか─目に見えない管内の動きをとらえ、高精度に定量評価するために、梅川尚嗣教授を中心とする熱工学研究室では、中性子ラジオグラフィを用いた実験で成果を上げている。

沸騰に伴う伝熱・流動現象の解明を目指して

まず、研究の概要を教えてください。

私たちが行っている流動沸騰系の伝熱・流動現象の研究は、原子炉の開発とともに1960年代から90年代にかけて急激に発展してきました。原子炉やボイラーの管内では、沸騰二相流といわれる蒸気と液体が混在する流れが形成されます。その挙動が、機器の性能や安定性に大きな影響を及ぼします。
 沸騰系でも、流動しない場合は、計測器と計算機の進歩によって高精度に解析できるようになりつつあります。例えば、ヤカンの水が沸騰してどのように蒸気に変わっていくかというような単純なものなら、近年やっと、細かな動きが解明されつつあるところです。
 しかし、流動沸騰系では、同一の流体であっても、熱流束(単位面積を流れる熱エネルギー量:W/cm2)をはじめ、圧力、管の内径や長さ、形状、流動方向などによって変動します。さらに、脈動と呼ばれる揺れによっても大きく影響を受けます。
 この分野は、何十年にもわたる研究の蓄積がありデータもあるのですが、複合して発生する現象はまだ未解明なところがたくさんあるのが現状です。特にこのような私たちの分野では、理学的なアプローチと工学的なアプローチのバランスが必要だと考えます。
 幸い、関西大学には優れた研究設備があります。20ボルト、5000アンペアに対応する実験装置を使用することで、さまざまな実験が可能となり、高速度ビデオによる撮影や解析などを行っています。

沸騰二相流の流動様式の変化をとらえる

気体と液体の沸騰二相流の流動様式は、えばどのような特性が見られますか。

図1では、流れ方向に沿って、下から上へ、気泡流、スラグ流、チャーン流、環状流と変化します。気泡流の段階では、管中央では冷たい水により気泡は凝縮しますし、小さな気泡は壁側に寄ろうとします。
 しかし、沸騰が活発となって、気泡が大きくなってくると、今度は逆に気泡は真ん中に集まってスラグ流になります。スラグ流になってさらに流速が上がってくると、混ぜるという意味からつけられたチャーン流になります。そして、真ん中が抜けて蒸気の流れができる環状流に変わります。やがて蒸気単相流になり、さらに進むとドライアウトが起きます。
 初期段階では壁面での沸騰の強さが伝熱を支配するものの、環状流では、蒸気と液膜との界面での伝熱が支配的になります。しかし実際には、この薄い液膜の中でも沸騰が発生するなど、伝熱のメカニズムは複雑です。これはドライアウト後に残った液滴による伝熱もそうで、特に脈動が加われば、現象はさらに複雑に変化します。
 このような揺れを伴う非定常な問題に対しては、従来の実験と測定法では、十分な評価を行うことが困難です。そこで私たちは、物体内部を透視することができる中性子ラジオグラフィを用いることにしました。これにより非破壊で通電しながら、管内の直接的な観察が可能となります。


図1:沸騰流の様子と管内および管壁の温度分布

熱流動現象に中性子ラジオグラフィで迫る

沸騰二相流の可視化を可能にする中性子ラジオグラフィを使った実験の内容は?

中性子ラジオグラフィは、X線の可視化手法と同様に、放射線に対する物質の透過特性の違いを利用しています。中性子源としては、京都大学原子炉実験所の研究炉を利用しています。今回は、炉の改修に伴う周辺設備の整備に検討段階から参画することで、私たちの研究目的に特化した設備を構築することができました。
 実験には原子炉を用いますが、出力は小さく、正しい知識で行えば、簡単なシールドで容易に実験が行えます(図2)。透過した熱中性子線は蛍光コンバータで可視光に変換し、これを高感度CCDカメラで撮像します。
 また、この設備では上下の昇降を可能にしており、縦長の管の加熱部全域にわたる流動沸騰状態、管内の変動の様子が撮影できます。この全長にわたる詳細なデータは、今まで得られなかった貴重な情報となります。
 特に今回は、流動脈動(揺れ)が限界熱流束に与える特性を内部の挙動も含めて把握できたことは大きな成果です。これまでも、揺れたらドライアウトの条件が低下することは知られていましたが、系統だった整理は存在していませんでした。
 今回は加振器で機械的に揺する実験を行い、振幅と周期で整理ができるようなモデルを作りました。また加振器とCCDカメラを同期させ、画像積算を施すことで、定量評価に対応できる画像の取得を可能としました。
 具体的には、限界熱流束が脈動振幅の増加に伴って定常流動時の40%程度まで低下することを、解析と交えて示すことができました。また、管の熱容量の増加に伴う、限界熱流束への影響評価が重要であることを示しました。


図 2:中性子ラジオグラフィのシステム図

管の熱容量が流動特性に与える影響を探る

今後の課題は?

肉厚が異なる管で、同様のデータ取得を行い、管の熱容量が流動特性に与える影響を評価することです。これは、管が持つ熱容量が沸騰状態にどうフィードバックするかという評価となり、例えば原子炉の緊急冷却時にどうすれば早く冷やすことができるのかというような評価にもつながる重要な特性となります。
 現実に、このような揺れた場での問題をきちんと取り扱える手法は確立できていません。私たちの実験で既に一般的な流動特性は説明できますが、脈動や管の熱容量を把握したうえで、管との相互作用を追究していくつもりです。

教育指導面で重視されていることは?

学生の自主性です。自主性を尊重するから、対等の議論を求めます。初めは理解できなくても、ものが見えてくるようになります。ものが見えてくれば、研究の面白さも見えてきます。
 研究テーマの設定から発表に至るまで、学生が主体的に動くことを期待しています。学外の人との交渉事なども、なるべく学生に任せています。今の学生に圧倒的に不足しているのは経験することだと思っていますから、学会発表や研究会への参加など、できるだけ多くの経験を学生にしてもらいたいと思っています。