キャリア教育の効果を測定・評価する
川﨑 友嗣 教授

キャリア教育・支援の実践と研究

キャリア教育の効果を測定・評価する

個別性を重視し、「生き方としてのキャリア」を追究

社会学部

川﨑 友嗣 教授

Tomotsugu Kawasaki

キャリア教育の対象は、大学生はもちろん生徒・児童にまで広がってきている。その効果の検証・評価には、各学校の目的に応じた効果測定の測度が求められる。社会学部の川﨑友嗣教授は、キャリア支援にかかわりながら、その効果測定法を追究している。それは実践に役立てるための研究、実践と融合した研究である。

CAPシステムの充実したコンテンツ

関西大学の学生は、将来の働き方・生き方について考えることをサポートするCAPシステム(Computer Assisted CareerPlanning System)を利用することができる。キャリアセンターのKICSS(関西大学インターネットキャリア支援システム)からアクセスすれば、コース、適性テスト、ワークなどのメニューが出てくる。
 CAPシステムには6種類の適性テストと42種類のワークがあり、これらを組み合わせたコースが用意されている。テストの結果は、グラフとメッセージで分かりやすく表示される。ワークは、「自分を知る」「仕事を知る」「将来を考える」「自分を高める」「その他」の5つに分けられ、自己分析ツールや職業・業界研究ツールとしても活用できる。
 コースは、「自己理解コース」「仕事理解コース」「適職探しコース」「将来設計コース」「お悩み解決コース」の5つに分かれた23種類が用意されている。例えば、「自分に向いている仕事が分からない」「どこを自己PRすればよいか知りたい」「自分についてじっくり考えたい」「将来のライフスタイルについて考えたい」など。
 このCAPシステムを開発したのが、キャリアデザイン担当主事を務める川﨑友嗣教授だ。川﨑教授の主な研究テーマは、生涯にわたるキャリア発達とその支援。若年者のキャリア支援や自立の問題から退職者の問題まで、幅広く「生き方としてのキャリア」という視点から、実践的な研究を続けている。


CAPシステム メインメニュー画面

独自に開発された関大生のためのシステム

2011年4月から運用されているCAPシステムの開発について。

現在、早期離職やフリーターの問題など、学校から職業の世界への移行、いわゆる“school-to-work”がスムーズにいかないことに伴う問題がいろいろ指摘されています。本学では各学部の正課教育とキャリアセンターのサポートを連携させ、学生一人ひとりのキャリア支援を展開しています。
 学生は自分自身と社会を理解し、さまざまな気づきを得て、将来の働き方・生き方を考えるとともに、社会で必要な力を身につけていきます。そのようなキャリア形成を支援するため、政府の教育研究高度化のための支援体制整備事業として助成を受け、キャリアセンターのチームでCAPシステムを開発しました。

CAPシステムの特色は?

キャリア教育やキャリア支援では、それぞれの学生・生徒・児童の特徴に合わせた働きかけが必要です。CAPシステムの大きな特色は、関大生のためのシステムとして、関大生の特徴に合わせて独自に開発したところです。適性テストや豊富なワークの中身が、関大生の普通の学生生活に基づいて答えやすいように作られています。
 また、職業や労働だけではなく、生き方としてのキャリアという視点から適性テストやワークを構成していることも特色です。

キャリア教育プログラムの効果を検証する

キャリア教育科目とインターンシップの効果測定の結果は?

キャリア教育が機能しているかどうか、どんな効果を持つのかという評価をしようとすれば、目的に合わせて測定する物差しを考える必要があります。私たちは現代GPの取り組みの一環として、可能な限り定量的に効果を検証するため、平成20年度のキャリア教育科目「キャリアデザインⅠ・Ⅲ」の受講者とインターンシップ実習生を対象に、本取り組みの目的と関連の深い尺度項目を測度として用いて、事前・事後計画に基づく効果測定を行いました。
 本取り組みの目的は、学生の意識改革と職業観の醸成をはかったうえで、社会的場面を経験する機会を提供し、school-toworkをスムーズにする点にあります。第1回測定の対象者は643名、第2回は672名であり、このうちマッチングが可能な491名のデータを用いて分析しました。
 キャリア教育科目受講生では、働く意欲(探索志向)、時間的展望(目標指向性、現在の充実感)、社会的・対人的スキル(対人スキル、対処スキル、アサーション※「相手も自分も傷つけない上手な自己主張」のこと)の得点が有意に増加し、インターンシップ実習生の場合は、働く意欲(探索志向、対人志向)、時間的展望(現在の充実感、過去受容)の得点が有意に増加しており、取り組みの効果が確認されました。

なぜ社会的・対人的スキルに関して、インターンシップ・プログラムの効果が出なかったのですか。

図1から分かるように、インターンシップ実習生はキャリア教育科目受講生に比べて、事前測定の段階から社会的・対人的スキルが高く、アサーションを除けば、キャリア教育科目受講生の事後測定の値を最初から上回っており、さらなる向上が難しかった可能性が考えられます。いわば、天井効果ともいえます。
 これに対して、キャリア教育科目受講生では、確かに社会的・対人的スキルが向上していますが、アサーションを除き、事後測定の値でも、まだインターンシップ実習生の事前測定の値には達していません。アサーション・トレーニングの効果は顕著であるといえますが、授業における働きかけだけでなく、日常生活におけるさまざまな体験が社会的・対人的スキルを高めるものと考えられます。

小中学校におけるキャリア教育の効果測定

東大阪市の小中学校で継続的に行われているキャリア教育の効果測定について。

東大阪市の意岐部中学校区(意岐部中学校、意岐部小学校、意岐部東小学校)では、平成19年度から文部科学省の研究開発学校の指定を受け、「夢づくり科」を新設して小中9年間にわたるキャリア教育を展開しています。「自分の夢・生き方を創りつづける子」を中学校区共通のめざす子ども像として策定し、キャリア教育の視点を「3領域(感性・態度・能力)10視点」に整理しました。
 私は、学校の取り組みが身についているかどうかを測定する評価の部分、物差しづくりにかかわっています。

実際にどのような変化が見られますか。

例えば、図2の意岐部東小学校6年生の効果測定結果の1回目と4回目を比較すると、最終的に得点が増加した領域は「B自分大好き」「Dつながる」「Fじっくり」「H学ぶ」の4尺度であり、得点が有意に低下した領域は見当たりません。得点が伸びた2領域については、夢づくり科のテーマ「絆・仲間~あなたが励ましてくれるから~」の取り組みを進めていくなかで、特に子どもたちに感じとり、考えを深めてほしいと願う領域であり、その働きかけの効果が反映されたと思われます。
 単に点が上がったからよいと言うわけではないのが、効果測定の難しいところです。子どもたちが自分でハードルを高くしたら、自己評価の点数が低くなります。数値が上がった下がったよりも、なぜこういう数値の変化が起きているのか、先生方と一緒に検討し、改善しつつ取り組み続けることが大事なのです。
 また、学年やクラス全体の傾向を見ると同時に、一人ずつ経過を追って個別の傾向を見ている点も大きな特徴です。キャリア教育、キャリア支援では個別性を重視し、一人ひとりに合わせた働きかけが求められます。