ビジネスに必要な英語語彙を調査
岡本 真由美 准教授

学生主体の語彙教材の素材収集プロジェクト

ビジネスに必要な英語語彙を調査

学習意欲と学習効果を促進する語彙教材を開発

商学部

岡本 真由美 准教授

Mayumi Okamoto

商学部では「英語に強いプロアクティブリーダーの育成」を目指し、プロジェクト実践力と英語力を少人数教育で同時強化するプログラム「BLSP」(Business Leader Special Program)を展開している。文部科学省の平成20~22年度教育GPに採択されたこのプログラムの一環として、e-learning教材配信に向けた取り組みも進行中だ。その素材となる語彙・表現の収集は、岡本真由美准教授によるビジネス英語語彙教育の研究がベースになっている。

受信・発信に必要なビジネス英語語彙は?

ご専門の語彙教育について。

英語の統語構造を理解した成人学習者にとって重要な語彙教育には、何を知るべきかというWhatの問題と、どのように知るべきかというHowの問題があります。前者では、語彙教育のゴールセッティングが大きなテーマになります。学生の現状を把握して、社会で必要とされるレベルの目標をどこに置くかです。
 ビジネスで情報収集をするときに、英語のビジネス雑誌の語彙レベルと、一般の英文のレベルとを比較すると、ビジネス雑誌を理解するにはかなり難しい単語を知っていなければなりません。私の研究では、ビジネス雑誌を90%理解するためには、10,000語が必要です。
 これに対して、日本の大学生の平均語彙サイズは、およそ3,700語といわれています。それを10,000語に伸ばしていくのは気が遠くなるような作業でしょうから、もう少し現実的なゴールが設定できないかと考えて調査をしてきました。
 一方、3,000~4,000語程度で十分とする文献もありますが、それではビジネスプランを発表する際など、知的レベルと言語レベルの乖離が起こってくるのです。大切なアイデアを発表するのに、とても子どもっぽい英語表現になってしまいます。かといって、理想目標の10,000語では絵に描いた餅になってしまうので、どうすればもう少し現実的なラインを引けるかを調べたのです。

その調査内容と結果から分かったことは?

関西大学商学部の学生や他大学の学生の語彙知識も調査してきましたが、ここではネイティブスピーカーと通訳者たちを対象とするデータを示します。ネイティブに関しては、どのような語彙をよく使うかという親密度を聞きました。通訳者の場合は、語彙テストの正答率を調べ、それをグラフ化しました。横軸は単語の頻度レベルで、3,000語から14,000語まで。縦軸は、ネイティブでは親密度(全体の何%がよく使うか)、通訳者では正答率を表しています。
 緑色のグラフは、ネイティブと通訳者、つまり英語をうまく運用している人たちを集めて語彙テストをした結果です。英語を自在に使っている人たちということで、一つにグループ化しました。
 単純な線グラフのようですが、実は語彙教育の観点から面白いことを示しています。7,000語までは直線的に下がっていて、全員が一致してレベル別に使用頻度がはっきりしています。そこから、単語を覚える意義や、優先順位のあることが推測できます。7,000~10,000語のところは折れ曲がっていて、使用頻度がばらばらで、頻度レベルでは、学習する意義などは推測できません。11,000語以上は再度低下傾向を示していて、運用能力の高い者にとっても非常に低頻度です。それは、授業で教える妥当性が低いということです。理想的なゴールはもちろん10,000語レベル以上のほうがいいけれども、もう少し現実的なゴールとしては7,000語レベルだといえます。


語の親密度と頻度レベルの関係

Business Words to Knowプロジェクトを展開

学生による語彙教材の素材収集プロジェクト「Business Words to Know (BWK)」とは?

商学部BLSPでは「英語に強いプロアクティブリーダー」を育成するために、e-learning教材配信の取り組みを進めています。ようやく素材ができてきて、今年の4月からそれをコンテンツ化していく予定です。これはダブルチャネルによる教材配信、つまりPush型(教員主導)とPull型(学生主導)の教材配信を実施し、パソコンやスマートフォンによる学習を可能にするものです。
 BLSPの授業で、「商学部生の、商学部生による、商学部生のための語彙学習教材」を目指して取り組んでいる素材収集作業がBusiness Words to Know (BWK)プロジェクトです。実は既習語彙のメンテナンスをしないと、すごい勢いで忘れていくのです。受信・発信に必要なビジネス英語語彙である7,000~8,000語のうち、上位の4,000~8,000語は語彙ワークブックなどで対応するとして、基礎の3,000語レベルをどうやって再学習するかが問題です。
 中学・高校で覚えたはずのものを、もう一度覚えろと言われるのはつらいでしょう。しかし、ある程度負荷をかけて深く学習しないと記憶に残らない。楽しい、面白いと思える、新しいやり方で、しかも目標やニーズに合っていて、学習意欲と学習効果が促進されるような再学習の方法は? そこから出てきたのがBWKです。

BWKの具体的な内容は?

Step 1として、2年次生科目の「英語プレゼンテーション」でプレゼン原稿を書くときに、辞書で調べた内容を記録して単語帳を作成してもらいます。日本語から英語、英語から日本語、それぞれ訳をつけて、一人30語ずつ、計60語を提出させます。その際、質問、発見、感想などを記録させることで、どういう単語につまずいて、どういう単語を使うときに疑問を持つのかがわかります。
 Step 2として、3年次生科目の「上級ビジネス英語」でStep 1の単語をシャッフルし、自分なら「このような例文で、この表現を学びたい」と思える、ビジネスジャンルで使われる例文を作成してもらいます。そして4年次生になって、西岡ゼミの指導も加わってコンテンツ化していきます。


  • e-learning教材配信のイメージ


  • Business Words to Know : Step1


  • Business Words to Know : Step2

「大人の『物言い』としてのビジネス英語」

ビジネス英語を学ぶ学生へのアドバイスを。

ビジネス英語というのは、大人の「物言い」であり、ものは言いようです。単語の勉強というと、英単語の日本語訳を覚えることだと思われがちですが、実はもっと奥が深い。例えば、何かを断る場合、rejectは非常にきつい。それより少し緩やかなのがrefuseであり、相手を傷つけないように、日本語なら辞退するという言葉になるのがdeclineであるというところまで分かってほしい。大人としての気遣いやその場の戦略にあった「物言い」はどれなのか、それを知らなきゃまずいんじゃないか、と学生には思ってもらいたいのです。
 また、「英語のココロ」ということも話しています。今まで習った文法でも、カタチが違えば必ずココロが違う。それはどう違うのかを知って、どう使い分けるか。例えば、You disappointed me. = I am disappointed with you.のようによくイコールで結んで書かれていますが、これは本当にイコール?と疑ってほしい。受動態と能動態は組み替え可能なのではなく、それぞれに使い方や意味が違う。受動態のカタチだけでなく、ココロを知ってほしいと思っています。
 大切なことは、Be logical(論理的にものを考えろ)、Be nice(感じよくいこうぜ)、Be strategic(戦略的にいこうぜ)、そしてBe stylish(かっこよくいこうぜ)です。立ち止まって、疑って、考えて、調べて、一歩踏み出す力を手に入れてください。