需給チェーン・システムの情報化を追求
宮下 真一 准教授

流通の情報化と交通・輸送ネットワークの連携を研究

需給チェーン・システムの情報化を追求

国際化を迎えた流通業のモデルづくりにむけて

政策創造学部

宮下 真一 准教授

Shinichi Miyashita

近年、流通企業が商品の売れ残りによって多くの在庫を抱えるケースが増えてきている。では、どうしたら店頭の在庫を減らすことができるのか。店舗の見栄えを良くするための新商品開発、売れ筋商品を把握するための流通の情報化、商品を納期までに配送できる輸送ネットワークの連携などを研究している宮下真一准教授に話を聞いた。

流通を情報化し、商品の回転率や利益率を高める

流通情報化のシステムであるサプライチェーン、ディマンドチェーンとは?

サプライチェーンは、既存商品を売れた分だけいかに補充発注し、効率よく商品を回転させるかという物流合理化のシステムです。POSシステムの販売情報などから商品がどのくらい売れるのかを計測し、在庫回転率を高めることに重点がおかれます。例えば、商品数が多く、店舗面積が広い総合スーパーは、商品の入れ替えよりも在庫管理が重要となり、既存商品をいかに売るかに重点をおくため、サプライチェーンの情報化が重要です。
 ディマンドチェーンは、新商品をいかに品物として店頭に並べるかの管理システムです。流通企業が独自商品を品揃えする際、ほかの流通企業にはない商品を揃えると消費者へのアピール度は高まります。とくにプライベートブランドは、広告宣伝費が抑えられ、メーカーが開発したものより安く提供でき、売上利益率も高まります。商品数が少なく、店舗面積が狭いコンビニエンスストアは、商品の入れ替わりも激しく、消費者にアピールするには新商品開発を前面に出して運営していかなければならず、ディマンドチェーンの情報化が重要となります。
 企業としては回転率と利益率、双方を高めるということが重要ですが、企業内で競争優位性があるため、独自商品を品揃えする企業、情報ネットワークの構築に万全を期する企業など特長的なことは分かれているのです。

在庫管理システムを確立し、ロスを削減

流通企業が業績を向上させるためには何が大切ですか?

2種類のロス(損失)の削減が鍵となります。ひとつは「見えるロス」で、置いている商品が売れず、損失となります。もうひとつは「見えないロス」。新商品の開発や、新商品の品揃えに長けていない企業が生み出す損失です。「見えないロス」が生まれやすいのはアパレル産業で、とくにファッションアパレルは需要の予測が難しいとされています。

どのような対策をとっているのでしょうか?

例えば、ヤングカジュアル婦人服販売のハニーズでは低価格・高感度の路線を崩さないために、SPA(製造小売)を開始しました。社員をタウンウォッチングに行かせ、売り場の担当者に今何が売れているか、どういうタイプの商品から売れていったのかをリサーチし、内部の声を総合して商品作りに役立てています。また、販売データ、売上高のランキングを作り、総合して商品企画会議にかけています。総合衣料品販売のしまむらはメーカーと協力しながら商品を作り、独自商品として販売するという方法をとっています。ユニクロは、ベーシックな商品が主体であるため比較的予測が立てやすく、現状では計画生産量に基づいた生産・販売を行っています。
 小売業は商品本部と店舗とのコミュニケーションを密にし、ディマンドチェーンを情報化して在庫管理の考え方を確立することで、さらなる成長の可能性が考えられると言えます。

国際化が促す複合的な輸送ネットワークの発展

日本でサプライチェーンの情報化が最も進んでいるのは荷主企業ということですが。

日本の荷主企業は消費者の要求に応えながらトラックネットワークを構築し、物流費用を安くしています。輸送業者からの視点で研究されている人は多いですが、私は荷主業者と輸送業者、両方からの視点により、生産流通企業と輸送企業の二者の輸送ネットワークをどのように確立していくかの研究を進めています。2000年以降、企業が円高の影響などにより海外進出し、生産流通ネットワークがグローバル化しました。デジタル家電産業など付加価値の高い商品は日本で生産し、部品類や組み立てはアジアなどの企業に任せる国際分業が行われるようになったのです。海に囲まれている日本は、航空輸送と海上輸送をいかに効率よく確立するか、鉄道輸送、トラック輸送とのつながりをどれだけうまくやっていくかが重要となってきています。
 欧米のインテグレータは航空機とトラックなど、複合輸送のネットワークを持ち、港や飛行場での商品の検品にも長けています。今、日本でも日本郵船が、子会社として陸運を担当するNYKロジスティックスジャパンとのネットワークを構築し、欧米に近いネットワークを持とうとしています。今後、日本のサプライチェーン・ネットワークも世界の代表輸送業者のなかに組み込まれていくのではないでしょうか。

専門店やコンビニエンスストアが流通業界を率いる

─今後、日本の流通企業はどのように展開するのでしょうか?

カルフールやウォルマートなど、諸外国の大型スーパーが日本市場に進出してきており、日本の大型スーパーは売上高や利益率において全く及ばないのが現状です。売り場面積が広いため商品の独自性を出すのが難しく、店舗数を多くして売上高を伸ばしているものの、利益率は上がっておらず、テナントからの家賃収入に頼っているという問題もあります。
 しかし、家電ではヤマダ電機、アパレルではユニクロ、しまむら、ドラッグストアではマツモトキヨシなど、各専門店は伸びてきています。これからは専門店がいかに日本の流通業界をひっぱっていくかです。世界の名高い流通業がこれからまた入ってくるかもしれません。それに打ち勝つ体力を備えるために、ディマンドチェーン的、サプライチェーン的な発想をそれぞれの企業が高める必要があり、独自商品を多く供給できる企業、在庫回転率を高められる企業が、日本の流通業界の中で生き残ることができるのです。
 また、コンビニエンスストアも小店舗のなかで新商品の供給に頼りながらうまく店舗運営をしてきたと言えます。専門店とコンビニエンスストアがどれだけがんばれるか。「大きければいいというわけではない」というのが、今の日本の消費者の答えです。流通業界に消費者が求めているのは、それぞれの分野に特化した専門店なのではないでしょうか。

これからの課題は?

日本で成功している流通業が外国勢を迎え撃つなか、小売業のサプライチェーン、ディマンドチェーンの考え方に長けている国内外企業の事例分析を通し、日本市場で競争に打ち勝つにはどういった需給チェーン・システムのモデルが必要なのかを考えていきます。