埋め込みデータ検出率は100%
棟安 実治 教授

原画像を利用する印刷画像へのデータ埋め込み

埋め込みデータ検出率は100%

ノイズに対する耐性を強化、情報量を大幅にアップ

システム理工学部 電気電子情報工学科

棟安 実治 教授

Mitsuji Muneyasu

通常の写真にしか見えない画像をスキャニングすると、たちまち文字情報が出現する。そこで表示された「関西大学」「システム理工学部」といった文字データは、目に見えない形で元の印刷画像の中に埋め込まれていたのだ。棟安実治教授は、埋め込み可能な情報量の少なさや誤検出が起こりやすい問題点を解決し、印刷画像へのデータ埋め込み技術を進化させた。

目に見えない形で情報を伝達

開発された「データ埋め込み」の技術は、どのような場面で使われるのですか。

最近、雑誌や広告などの印刷物からURLや商品、お店などの情報を携帯電話に記憶させるケースが増えてきています。その手段として2次元バーコードがよく利用されていますが、そのためのスペースを取りますので、広告などの全体的なデザインや印象を大切にする媒体の場合、目障りで邪魔になり、製作者の意図を損なうこともあります。
 印刷された画像中に必要なデータを埋め込むことにより、ちょっと見ただけではわからない形で情報を伝達することが可能になります。この手法は、著作権保護に使われている電子透かしの技術をベースにしています。
 ポスターなどの広告を携帯電話のカメラで撮れば、自動的にデータがインプットされます。例えば、商品の割引情報やくじ引きにも使えます。同一ページに多数の情報を埋め込むこともできます。
 また、広告に位置を特定するデータを入れておけば、どの位置にある広告がよく見られているか、訴求効果があるかといったマーケティングにも使えるでしょう。

埋め込み容量、精度がアップ

埋め込みの方法は?

主に「画素置換型」と「周波数領域利用型」が考えられます。画素置換型は埋め込み操作が容易ですが、画素値すなわち印刷画像を構成する小さな点の集まりに直接変化を与えるため、ノイズの影響を受けやすいという欠点があります。
 周波数領域利用型は、画像に直接手を加えるのではなくて、一度周波数の領域に変換してから、周波数の大きさを少し変化させることで埋め込みます。この方法は、処理時間が長くなりますが、ノイズに対する耐性があります。
 プリンタによる印刷や、イメージスキャナ、デジタルカメラによる取り込みの際に生じる幾何学的歪みに対して耐性を持たせる必要があることから、周波数領域利用型が有利であると考えられます。

印刷画像から埋め込んだ情報を取り出す方法は?

画像を取り込んだ端末内で検出を行う「端末単独型」と、取り込んだ画像を一度サーバに送信し、サーバで検出処理を行う「サーバ連携型」が考えられます。
 
 端末単独型には、通信時間や通信費用を抑えやすい、通信を行わずに情報の検出の成否が判断できるといった利点があります。サーバ連携型には、さまざまな機種に対応しやすい、検出処理にかかる時間が短いなどの利点があります。
 従来、原画像のデータを用いない端末単独型に基づく埋め込み・検出法がいくつか提案されていますが、埋め込み可能なビット数が少ない点や、印刷・スキャン時に生じるノイズによって誤検出が起こりやすいという問題点があります。
 そこで私たちは、サーバに原画像を保存し、サーバで検出処理を行うことにより、埋め込み可能ビット数を増やし、より精度の高い検出が行える埋め込み・検出手法を考えました。

データ埋め込み手順


  • 手順1


  • 手順2


  • 手順3


  • 手順4

画像を16ブロックに分解、9データ列で多数決

埋め込み・検出の精度を上げる手法とは?

データを埋め込む領域は、幾何学的な変形に耐性を持たせる目的から、図のように中間周波数領域の埋め込み基準線に沿った対角線上が選ばれています。データの検出精度向上のために、埋め込み基準線を中心とする3列にビット列を埋め込みます。これは同じ情報を埋め込んだ各列の検出結果を用いて多数決を取るためです。
 また、局所的なノイズに対しても耐性を持たせるために、画像を16のブロックに分割し、そのうちの3ブロックずつ同じ情報を埋め込みます。つまり、1ブロックあたり同じビット列を3列埋め込んでいたものを、さらに3ブロックに埋め込みを行うので、合計9つのデータ列で多数決を取り、その結果を検出結果とします。
 このような方法によって、普通に見る限りどこに埋め込んでいるか分からない状態で、100%のデータ検出率を得ることができました。

この技術の今後の展開は?

一つは、電子ペーパーや動的に変化する広告媒体に対して、携帯電話などで撮るという状況に対応できる方式にすること。次に、文書画像に対して何らかの仕掛けを入れられるようにすることです。文書をコピー禁止にする、何部まではコピーしてもいいがそれ以上はコピーできないとか、コピーした情報を管理するなど、文書管理に使えるフォーマットの研究を今年から始めています。