進化する専門英語教育ESP(English for Specific Purposes)
山本 英一 教授(副機構長)

授業支援型e-Learningシステムによる理工系ESP 教育

進化する専門英語教育ESP(English for Specific Purposes)

e-Learningを窓口に、工学部の専門教育と語学教育を連動

外国語教育研究機構

山本 英一 教授(副機構長)

Eiichi Yamamoto

e-Learningシステム CEAS(シーズ)を用いて、工学部と外国語教育研究機構のコラボレーションによる専門英語教育(ESP)の試みが始まっています。このシステムは、文部科学省の平成16年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代 GP)」に採択されたもので、実用性に優れています。CEASを利用した外国語学習の実践について、その狙い、成果や可能性などを山本英一教授に聞きました。

外国語学習にマッチしている CEAS

授業支援型 e-Learningシステム CEASは、現代 GPに採択された関西大学のプロジェクト「進化するe-Learningの展開-授業と学習の統合的支援および教授法と学習コンテンツの共有化-」の一環として行われてきました。外国語教育に携わる立場から、CEASのどこに注目されたのですか

インターネットを用いた学習だけを目的とした一般的なe-Learningと異なり、CEASは授業支援型です。教室の中での授業が終わってから、自宅あるいは学内のパソコンで、さらに学習を深めることを狙いとしています。関西大学の場合、外国語教育は1つの語学について1回90分の授業を週2回、これを2年間行うのが一般的です。ところが、平均的な学生が社会に出て、ある程度英語を使って仕事ができるようになるためには、およそ1,000時間以上の学習時間が必要です。授業だけでは全く時間が足りません。これを何らかの形で補わなければならないのですが、その時に有効なのが CEASです。いつでも、どこでも、無理のない形で学習できるのではないかということで、活用を始めました。


  • CEASによる授業実施画面


  • 毎週の授業実施画面

“EGP”ではなく“ESP”

日本の英語教育は EGP (English for General Purposes)が中心です。こちらは汎用性が高いものですが、現在、工学部と外国語教育研究機構が協力して CEAS上で展開しているのは、ESP(English for Specific Purposes)。具体的な目的を特定した上での英語教育です。工学分野やビジネス関係を扱う商経分野で注目されています。その特徴は

現在、CEASを用いて実践している ESPは、工学部の専門教育と連動させたものです。専門科目と英語の教師が、一つの教室で授業をシェアするというのは困難です。そこで、教室の中では専門教育を行い、関連する内容について CEASを用いて、教室以外の自学自習の部分で英語と連動させています。学生は家に戻ったら、今度は英語の世界で、専門で学習した内容を確認するわけです。
 これを課題学習として CEASで回収するのですが、当然、きちんとできている場合と、分からないままになっている場合が出てきます。学生は英語を通じたフィードバックを受けて次回の授業に臨むというシステムです。次回の授業では、専門の先生からもフィードバックをしてもらいます。一種のコラボレーションと考えてもいいでしょう。現在は工学部のプログラミングの授業で行っています。
 理工系の英語だったら専門用語を覚えればいいのではないかと考えられがちですが、ESPは専門用語を勉強することだけが目的ではありません。その分野の視点や考え方を踏まえての学習が ESPです。例えば、論文を扱うとすれば、「論文というのはこういうふうに構成し、こういう表現を使うんですよ。では、実際に書いてみましょう」という教育を英語で行うのが ESPです。


  • 試みた ESP教育サイクル


  • CEASを用いた ESPテスト

教授法のシェアが可能に

専門科目と外国語科目のコラボレーションだけでなく、学生同士の学習コミュニティーの場としても有効です。さらに、それぞれの先生の経験や考え方に根ざしていた教授法、教育方法を共有できるツールになり得ます。その可能性について

コンテンツづくりに時間がかかりすぎると、学習者へのフォローが後回しになってしまいがちです。そこで、凝ったコンテンツを作るよりも、日常的に大学で提供されている教材をコンテンツとした学習を、基本的に考えています。そのほうが授業との連携も取れるのではないでしょうか。
 昨年、CEASを用いた学習で気づいたことなのですが、学生が学習に対する関心を持ち続けるだけでなく、CEAS上の電子掲示板を用いて皆が作った英文をシェアし、そこでいろいろやりとりするなど、学習者同士のコミュニティーもできているんですね。さらに、教師がそこにコメントすることで、授業の延長線上のコミュニケーションも可能になっています。掲示板上のコミュニティーにとどまらず、授業前に学生たちが集まって自主的にディスカッションすることも見られました。どのように積極的に学習に目を向けさせるか、継続させるかというこれまで見失われがちだったところが、CEASによって可能になるのではないかと思います。
 さらに言えば、教授法をいかに洗練させていくか、といったことも可能になります。教授法の知識は、もちろんどの先生もお持ちですが、結局はそれぞれの先生方の職人技のような部分があって、これをシェアするというのはなかなか難しいことでした。そのため、どの先生も経験や勘に頼って教育を行ってきたところがあります。CEASは教授法のシェアも可能にしますから、教員同士の情報交換の場としても活用されつつあります。


e-Learningを仲介とするコラボレーション
フィードバックの活用

CEASは自主的な学習の窓口

今年1月に山本教授が視察に行ったアメリカでも、同じように教授法が課題として挙がっていたとのこと。教授法のシェアも目的としている CEASは、アメリカでも面白い取り組みとの評価を受けられたそうですね

CEASのシステム開発を担当された工学部の冬木正彦先生と、アメリカへ e-Learningの視察に行ったのですが、そこでも同じことが問題となっていました。コンテンツを充実させても、なかなか学生がついてこないというのです。スタンフォード大学内にあるカーネギー財団の研究所を訪れた際に話題になったのは、コンテンツも確かに重要だが、授業運営方法、教授法をどうするかということが、もっと重要なのではないか、ということでした。CEASのお話をさせてもらうと、学生をいかに学習に向かわせるかという点で面白い取り組みとの評価も受けました。
 e-Learningは、受け身的に学習するだけでは成果は上がりません。与えられたものから自分でいかに展開していくかが大切です。外国語学習で言えば、文字だけでなく、音声、視覚的なものなど、無料で手に入る教材はたくさんあります。インターネットはその宝庫です。CEASを窓口として、自分の興味に従って学習を進めていってほしいですね。