将来の電気エネルギー社会を支える
石川 正司 教授

キャパシタ型蓄電デバイスの開発

将来の電気エネルギー社会を支える

モバイルから自動車まで、新しい蓄電システムの実現へ

工学部 応用化学科 電気化学研究室

石川 正司 教授

Masashi Ishikawa

次世代エネルギー源として太陽電池、風力発電などが知られています。しかし、その実用化と普及には、速やかに充放電でき、かつ寿命の長い新しい蓄電システムの開発が不可欠です。そこで、新しい蓄電システムとして注目を集めているのが、電気二重層キャパシタ(EDLC)です。石川正司教授は、文部科学省の産学連携研究推進事業に採択された「キャパシタ型蓄電システム開発ユニット」のプロジェクトリーダー。また、大阪府地域結集型共同研究事業にも参画し、電気二重層キャパシタは学界・産業界ともに熱い期待を集めています。石川教授を中心とする「キャパシタ型蓄電システム開発プロジェクト研究室」の取り組みを取材しました。

キャパシタの高速充放電性と長寿命に注目

日本では一般に「コンデンサ」と呼ばれてきたキャパシタは、本来、少量の電気を素早く充放電するのに適し、なおかつ長寿命であるという点で電池と特性を異にします。この特性に石川教授は着目しました

電気二重層キャパシタとは、表面積の非常に大きな電極の表面にイオンが吸着した電気二重層をつくり、電気を蓄えるというものです(図1参照)。私が電気二重層キャパシタの研究を開始したのは1991年、山口大学工学部で助手を務めていたころのことです。蓄電システムというとまず電池を思い付きますが、電池は容量こそ大きいものの高速充放電が苦手で寿命も短い。一方、キャパシタは容量は少量だが、高速充放電性を持ち、かつ寿命が長い。そこで、キャパシタのこうした特長を生かしつつ電池に並ぶ容量を貯蔵できないか、と考えたのです。当時は化学をやっている人間がキャパシタを研究するというのは、世界的にも非常に珍しかったのではないかと思います。


ドライルーム内での研究作業

新しい「電極」と「電解質」がカギ

電気二重層キャパシタを構成する要素として最も重要なのは、「電極」と電極の間にある「電解質」です。したがって、電気二重層キャパシタの長所を保ちつつ容量をアップするには、この2つの技術革新が必要となります。つまり、電極にはイオンを数多く吸着することが求められ、電解質にはイオンをたくさん含ませることが求められるのです

これまで、電気二重層キャパシタの電極には、表面積が広く多くのイオンが吸着できる活性炭が使用されてきました。まず電極材料としては活性炭をそのまま用い、表面を「低温プラズマ」と呼ばれるマイルドなプラズマにさらすことで表面の構造を変化させてみました。その結果、蓄電容量を向上させることに成功しました。
 もう一つの考え方は、やはり電極の材料そのものを変えることです。電子に比べてイオンの動きが遅いことから、イオンの高速移動に適した構造を持っている材料が電極にはふさわしいのではないかと考えました。やってきたイオンを収納する場所が多く、イオンの吸着・脱着が可逆的という要件さえ満たせば、さまざまな材料が電極として可能です。その一つとして、先端分野で注目されている「カーボンナノチューブ」を規則的に配列したものをキャパシタに適用する研究を、日立造船と共同で進めています。
 これは、カーボンナノチューブを電極に対して垂直にそろえて配列し、電解質と接合させることによってイオンの出入りをスムーズにするというものです。活性炭の電極と比較して、100倍ぐらい高速で充放電できます(図2参照)。これは100~200マイクロメートルの超薄型のキャパシタとなるもので、しかも厚紙程度の固さですから、モバイルだけでなく、服やヘルメットに装着することも可能でしょう。夏場に人に用いるクーリングシステムなどへの応用も考えられます。
 一方、電解質については、チューインガムのように柔軟性のある高分子ゲルに電解質塩を含ませたものが、これまでの液体電解質よりも体積あたり多量のイオンを含ませられることが分かりました。イオンの動く速さも液体電解質に劣りません。そこで、これを何十層も直列積層することで、自動車や列車にも用いられるような、パワーの大きい駆動用のキャパシタを小型化することが可能になるのではないかと期待しています(図3参照)。
 電解質については、他に安全性の面からも研究を進めています。自動車に搭載するとなると、燃えにくい安全性の高いものが求められるのは言うまでもありません。そこで、ダイキン工業と共に、有機物にフッ素を導入した材料を用いることで、万一の事故の際にも火災になりにくい、有機物でありながら燃えない電解質の開発を進めています。


  • 図1


  • 図2


  • 図3

数多くの産学連携による共同研究・技術指導

2005年1月から5年間の予定でスタートした大阪府の「地域結集型共同研究事業」でも、「高配向カーボンナノチューブを用いた高機能材料の開発」のプロジェクトが設けられ、石川教授が研究リーダーを務めることになりました。これには日立造船、関西電力、東洋紡、東洋ゴム工業などが参画しています。このほかにも電気二重層キャパシタは産業界の注目を集めており、技術指導や共同研究の申し込みが殺到しています。モバイルのような小型のものから自動車用の大きなものまで、多方面の分野で応用可能な上に、将来型の電気エネルギー社会に欠かせない研究なのですから、それも当然のことと言えるでしょう。しかも、自動車、電機、製薬、化学、機械と業種が多種にわたっている点も特徴です

共同研究・技術指導という形では今年度は17社と連携を行いました。小型高性能の蓄電デバイスは携帯電話やノートパソコンの小型化に大きな役割を果たしますし、大型のものなら将来的に自動車用として用いることも有望だと考えています。産業界の注目を集めている分野であるだけに、この1~2年でさまざまなパワーレベルのキャパシタが出てきています。
 ただ私の研究のスタンスとしては、最初から用途を絞るのではなく、いろいろな材料を試してみてその材料の良さを伸ばしていこうと考えています。用途によって、高速性を重視するか容量を重視するかという点も異なってくると思うのですが、電池との差別化を図る意味でも、キャパシタの高速充放電という特長は大切にしたい。その上で作動電圧をいかに高められるか、現状2.5ボルトならばそれを3.5ボルト、4ボルトへと上げていきたいですね。


  • 薄型高性能キャパシタの試作

恵まれた研究環境、学生も先端研究に参加

産業界の関心が高いだけに、学会でも企業からの参加者が多く見受けられるとのこと。面白い発表には人が集まるなど、反応がシビアだと石川教授は言います。大学院生にも早い段階で学会発表させるのも、その刺激を受けてほしいからです

研究室内でお互いが納得できるまでディスカッションを繰り返すことが大事。そうすることで、いい発想も生まれます。細かいこともおろそかにせず、学生と一緒になってわずか一点のプロットにもこだわりたい。その意味では学生とのコミュニケーションをもっと重視していきたいと考えています。
 この研究は、施設・設備も特別なものが必要とされます。例えば、キャパシタは空気中に水分のある環境では扱えません。幸い、千里山キャンパスのハイテク・リサーチ・センター内には日本の大学では最大規模のドライルームがあります。このような充実した研究環境を生かして、学生たちには思う存分研究してほしい。最先端のプロジェクト研究に直接かかわっているのですから、卒業後、企業に就職するにしても大学院に進学するにしても、即戦力となるような人材を育成したいと思っています。