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こころの健康に関するコラム
「こころ」はさまようもの

例えば電車に乗っている時、あるいはお風呂に入っている時、あなたの「こころ」はどこにあるでしょうか。

 「明日の会議、どうしようかなぁ」

 「子どもをあんな風に怒るのはよくなかったかな」

 「今日の夕飯何にしよう...」

 「この試験に受からなかったら...」

 こんな風に、考え事をしながら過ごしていることも多いのではないでしょうか。

 少しの間、手が空いた時に、一つ試していただきたいことがあります。

 「いま・ここ」にあるものに、注意を向けてみてください。

自分の呼吸、聞こえる音、何かを食べているなら、その匂いや味、見えるもの...などなど。

何でもかまいません。

 お気づきの方も多いと思いますがこれは、「マインドフルネス」という、ストレス低減法の一部です。マインドフルネスは「意図的に、今この瞬間に、価値判断することなく注意を向けること」と定義されています。マインドフルネス瞑想として、有名になっていますね。

 

マインドフルネスの理論では、ストレスというものは過去や未来からやってきます。未来への不安だったり、過去の後悔や辛いことだったり、様々なストレスは過去や未来からやってくると考えるのです。一方で「いま・ここ」に目を向けると、例えば口に含んだコーヒーの味や香り、空調の音、呼吸の感覚...それらを「このコーヒーはおいしくないな」とか、「もっと深い呼吸をしなくちゃいけないのかな」などと「価値判断」しなければ、それらからストレスは発生しません。

(少し簡単にしすぎているかもしれませんが)マインドフルネスは、過去や未来から来る反復した心配や後悔から少し離れて、「いま・ここ」に注意を向けようとする取り組みです。

 体験に戻ってみましょう。例えば呼吸に注意を向けてみると...。

はじめは呼吸に注意を向けて、ゆっくりと深い呼吸をすることに意識を向けられると思います。

 でも、しばらく続けてやってみると、どうでしょうか。

だんだんと、「あれ、そういえば...」と何か用事を思い出したり、「これでいいのかな」など些細なことが気になったり、頭が忙しく働いてしまって、簡単そうに見えて実際やってみると難しいものです。

 こうした取り組みを、カウンセリングの中で相談者さんと一緒にするときに大事にしていることがあります。

 それは、そもそも「こころはさまようものだ」ということです。

はじめから「さまようもの」と考えれば、少しの間しか「いま・ここ」に注意を向けられないからといって、「自分の集中力がないからだ」とか、「あれこれ考えてしまうからダメなんだ」などと考えなくて良いわけです。

以前参加した研修で講師の先生は「注意力の筋トレ」だ、と仰っていました。

瞑想が筋トレ?とイメージに合わないと思いますが、筋肉を鍛えようと思っても、初日から100kgのバーベルを持ち上げようと思う人は少ないと思います。

同じように、放っておけば自然にさまよう心を、少しずつ「いま・ここ」にとどめておけるようになれば良いのではと思います。

 例えば忙しい日々の中で、頭の中で未来のことをあれこれ準備して心配したり、不安になったり、あるいは過ぎた過去のことを思い出して悔やんだりすることは、誰にでもあることかもしれません。そんな時に少しだけ、過去や未来にさまよった自分のこころに気づいて「いま・ここ」に戻って来られるようになれれば良いのです。

もうすぐ戸外が暖かくなりますし、お好みの飲み物をお供に「いま・ここ」にある、例えば風の音や花が散る様子に意識を向けてみてはいかかでしょうか。

相談員 角 隆司