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こころの健康に関するコラム
ヒトのこころはこれから何処に向かうんだろう

 最近、「生きにくさ」を感じる若者が多いと聞きます。また、年配者からは「若者とコミュニケーションがとりにくくなった」ということをよく耳にします。どうしてそのようなことが感じられるようになったのでしょうか?


スマホやパソコンなどの通信機器の進歩によって、コミュニケーションの形が変わったこともあるでしょうが、人間そのものの「変化(進化)」にも関係があるように思えます。「コミュ障」「おたく」と揶揄された若者の出現から、「発達障害」と診断される子どもたちの増加まで。そうした変化は、決して「困った問題」ではなく、もしかしたら人類史上、ニューロダイバーシティー(脳の多様性)と言う側面からは、これからの人類の進化に必要な変化なのかもしれません。


最近私は、人類のコミュニケーションの進化は、歴史上においてどのような道筋をたどってきたのか、そして今後どのような進化の道を人は歩んでいくのだろうか、に興味を持って調べています。


原始人からホモサピエンスの誕生に至る人類の歴史、そして今、急激な科学の進化に多くの人の「こころ」が取り残されそうになっている事実。経験的な解釈科学である精神分析に基づくコミュニケーションの理解と、新しい分野である脳科学(認知科学)の両方から、「若者との付き合い方」のヒントを見つけることに興味が湧いています。


そんな事を考えていると、現代は、まるでネアンデルタール人やクロマニヨン人が、より高度な認知機能を身につけたホモサピエンスに取って代わられた歴史に似ているように思えて仕方がないのです。進化は本当に必要なのか?さえ疑いたくなります。新しい科学性を重視した「情報処理作業」優先の関係性が、人間味のあるコミュニケーションを破壊してしまうような...。


「こころ」はこれからどこに向かうのだろう?途方もない幻想ですが、せわしない日々の生活の中で、漠然とこのような事を考えてみる余裕も、時には必要な気がします。


関西大学心理学研究科教授 石田 陽彦