築き上げた基盤をもとに飛躍的な知の創造を目指す ----KUMPの来し方行く末----【後編】
(2025年04月03日)

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これまでに培った土壌を活かし、新たな価値を創造するためには
河村 柿木先生のおっしゃる通り、KUMPプロジェクトを通じて、これまでに動物実験設備を含む実験設備が整い、人の交流も芽生えてきて、プラットフォームとしてはすでにほぼ整ったと思います。今後はこうした基盤をどう生かしていくかというのが課題ですね。
私としては、プロジェクトとしての共通テーマを一つか二つくらい設定して、それを主軸としつつも研究者が自由に研究できる余地も残す形で発展させられると良いのではと思っています。
葛谷 チームの意識のズレを防ぎ、着実にプロジェクトを進めるためには、私も明確なゴール設定は必要だと思います。あとは、KUMPの中心メンバーの多くは同じ高分子材料化学者で、ある意味ライバル関係にあるということも、チーム作りの際には明確に意識すべきでしょう。KUMPでは、同じプロジェクトの仲間という連帯意識もありつつ、互いにライバル意識を持って切磋琢磨する緊張感があり、プロジェクトにプラスに働いたと思います。一方で、好奇心を持ったテーマでも「これはあの先生の専門だから」と、無意識にブレーキをかけていた部分もあったのではと感じています。そういった意味でKUMPの(専門が近い研究者が多い)メンバー構成は諸刃の剣だったのかなというのが私の率直な感想です。
岩崎 葛谷先生のご指摘はごもっともだと思います。プロジェクト内でも緊迫したライバル関係があるという状況がマイナスになるかプラスになるかはチーム構成に大きく左右されます。チーム構成、そして明確な目標の設定が今後のKUMPの鍵を握るでしょうね。
大矢 チーム編成と目標設定の重要性は、正直なところ、私もこのプロジェクトを通じて痛感しました。というのも、機械系の研究者もプロジェクトに入ってもらっているということがKUMP立ち上げ時の一つの「売り」だったんですけど、機械系の先生との連携は思ったほど進まなかったなと思っています。人との相性をChemistryと表現することがありますが、機械系の先生と化学系の先生が出会うきっかけさえ与えれば、何か特に仕掛けを用意しなくても、ひとりでに化学反応のように、勝手に面白い研究が始まるだろうというふうに期待していたんですけども、そこは少し私が甘かったのかもしれません。
柿木 大矢先生のおっしゃる通り、プロジェクトとして機械系の先生方の関与がこれまで薄かったように私も感じています。私自身、マイクロ流路の設計などには興味があったものの、他にも色々と進めている研究などもあり、新たに機械系の先生方との共同研究するまでには至らず、個人的にも反省点かなと思っています。
大矢 ただ人を集めるだけでは、なかなか思ったようには進まないという側面もあります。プロジェクトを進める触媒となるような仕組みも同時に考える必要がありますね。
▲シンポジウムの様子
領域横断をより深化させるための枠組みづくり
大矢 目的を明確化し、よりスムーズな連携を可能にするためには、どのような枠組みが良いと思われますか。例えば、目標ごとに数人のグループに分けて、グループごとにサブリーダーを配置して、方向性を絞った小さな単位で活動していただくというのはいかがでしょうか。
岩崎 概ね賛成ですが、その際のグループの組み方がポイントになってくると思います。それぞれのメンバーの良さを最大限に活かして、最大限の成果を上げるためには、どういったチーム編成がいいのか、しっかり考える必要があると思います。また、目標設定も鍵になると思います。何を目標とするかによって、自ずと最適なチーム編成も変わってきますので。
柿木 軸となる目標ごとに、それぞれサブリーダーを配置するというのは有効な方法だと思います。サブリーダーは関大の教員だけでなく、大阪医科歯科大学の先生にも担っていただくなど、より密な交流を促すような形で枠組みを作ることができれば、相乗的な効果が期待できそうです。
河村 アカデミアの研究者と医師ではやはりかなり関心も異なりますので、私も医師の先生方により積極的に参画していただける体制は必須だと思います。大阪医科薬科大学の先生方を軸としつつも、他の大学や研究機関の医師の先生方も巻き込める形にできれば、より可能性が広がりそうです。
葛谷 一方で、プロジェクトとして最初に掲げた目標を達成するだけでなく、それを超えた知を創造することも、同じくらい重要です。そのためには、今まで以上に多様な人材をプロジェクトに巻き込んでいくことが求められると思います。
大矢 同感です。私は立場上、大学などに提出する企画書では大体5年くらいのスパンで、毎年の具体的なマイルストーンや達成目標を設けた研究計画を書くんですけど、内心では「5年前に思いつくことはたかが知れているので、そんなところからブレイクスルーなんて出るわけないやん」とも感じています。
ですので、グループの編成と目標の設定は重要ですが、固定的に考える必要はないかなと思っています。その時々の状況に応じて組み替えなども柔軟に検討し、有機的に集まったり離れたりできるような枠組みができると良いのかなと思いました。
KUMPを日本のメディカルポリマー研究のハブに
大矢 関大には、将来的な研究拠点形成の基盤となる共同研究を支援する学内公募研究費などもあり、そうした制度の活用も視野に入ってくると思います。学内研究費を統括する研究推進部の役職としてその運営に関わった経験がおありの葛谷先生のご意見はいかがでしょうか。
葛谷 学内に研究拠点を作るということでいうとこれまでは、関大の先生を何人か集めてそれで拠点を作ろうという枠組みが主だったけれども、そこにとらわれる必要はないと思うんですよね。
例えば、JST-CREST*注)の研究領域のように日本中の優秀な先生方を集めるハブ的な役割をKUMPが担うという発想はどうでしょうか。軸となる研究テーマごとにグループを設置して、それぞれのテーマに合わせた最適な人材を集めてチームを編成し、関大の研究者がそれを束ねるようなイメージです。
*注)JST-CREST:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の大型研究助成プログラム。科学技術イノベーションの創出を目的とし、独創的な基礎研究を推進する。国が推進する指定された各領域において、1名の研究総括と複数名の領域アドバイザーの下、少人数からなる研究チームを幾つか配置し、領域内で研究者同士が交流・触発しながら研究に取り組むことを特徴とする。
大矢 それは実現すれば素晴らしいですね。KUMPの施設や人を介して共同研究が広がっていき、関大がその中心的役割を果たすことができれば、他の大学や研究機関の価値向上にも貢献できる、非常に夢のあるアイデアだと感じました。
岩崎 私も非常に良いと思います。外部の研究者との連携だけでなく、関大内部の若手研究者との連携も深められるような形になればより良いかなと思いました。
柿木 岩崎先生のおっしゃる通り、学内の横のつながりも強化できると良いですね。
河村 私も同感です。例えば、私としては生物系の研究者とのコラボなどに興味があります。
大矢 葛谷先生がおっしゃったようなハブ的役割をKUMPが担い、学内外のバックグラウンドが異なる先生に入っていただくと有機的な繋がりが生まれてきそうですね。新たな分野の研究者が加わることで、異分野連携というKUMPの強みをさらに伸ばすことができますし、人材育成・教育という面でも、不均質な集団ゆえのメリットがあります。学生や若い研究者にとって、さまざまな分野の研究者や医師、技師など多様な人が関わるプロジェクトに参加することは、視野を広げる大きなチャンスです。そうした経験は、直接研究内容とは関係のない仕事に就いたとしても、折に触れて生きてくると思いますし、それはひいてはKUMPの対外的なプレゼンスの向上にも関わると思います。
次の10年に向けて、新たなビジョンが見えてきたのではないかと思います。今日はみなさんありがとうございました。
【ポイント】
・関大の材料化学者が中心となるKUMP。互いの良さを出し合い、切磋琢磨できるようなチーム編成、目標設定が必要。
・一方、プロジェクトとして最初に掲げた目標を達成するだけでなく、それを超えた知を創造することも重要。チームや目標はその時々で柔軟に変更できる体制が良いのでは。
・軸となる研究テーマごとに最適な人材を集めてチームを編成し、関大の研究者がそれを束ねることで、KUMPを日本のメディカルポリマー研究のハブにしたい。
大矢 裕一(化学生命工学部 化学・物質工学科 教授)
博士(工学)。専門分野は、生体材料学、高分子化学。
岩﨑 泰彦(化学生命工学部 化学・物質工学科 教授)
博士(工学)。専門分野は、医用高分子材料、生体材料学。
柿木 佐知朗(化学生命工学部 化学・物質工学科 教授)
博士(工学)。専門分野は、蛋白質工学、医用材料学。
河村 暁文(化学生命工学部 化学・物質工学科 教授)
博士(工学)。専門分野は、高分子化学、医用高分子材料。