複数酵素を高効率で内包可能なゲル微粒子:水中水滴型エマルションを介した簡便な作製手法と酵素連続反応場への応用
(2024年06月03日)

◆キーワード #ゲル微粒子 #酵素 #マイクロ反応場 #液液相分離 #エマルション
Contents
1. 概要
・本研究では、溶媒として水のみを用いた水中水滴型エマルションを利用することで、複数の酵素を高効率で簡便にゲル微粒子内に内包する手法を開発しました。
・ゲル微粒子内に内包された酵素は活性を維持していた上、溶液中では酵素が失活するような雰囲気下でも安定であるとわかりました。
・酵素を内包したゲル微粒子は基質が溶解した水溶液中に分散するとゲル網目を通して基質を微粒子内に取り込み、酵素によって生成した化合物を水中に吐き出すマイクロ反応場として機能しました。複数酵素を内包したゲル微粒子では酵素連続反応が達成されました。
・本手法は様々な酵素に適用可能であるため、今後医用分野のみならず、食品分野や環境分野への応用も期待できます。
2. 背景
様々な反応を触媒する生体タンパク質である酵素は温度やpHの変化等で容易に失活することが難点です。そこでゲル微粒子内に酵素を内包することで、酵素を保護する手法が検討されてきました。酵素内包ゲル微粒子はゲルの高分子ネットワーク間隙を通じて基質を取り込み、酵素によって生成した物質を外部へ吐き出すことでマイクロ反応場として機能するため、薬剤送達やバイオセンサー、工業用触媒等に使用されてきました。しかし、従来の酵素内包ゲル微粒子の作製手法では有機溶媒の使用による酵素失活や残存溶媒による毒性懸念がありました。これらの懸念のない手法も検討されてきましたが、操作が煩雑でした。即ち酵素の失活を抑制しながら簡便さを両立した酵素内包ゲル微粒子の調製法は存在しませんでした。
3.成果

図1. 蛍光修飾したタンパク質(緑色)を内包したゲル微粒子の共焦点顕微鏡像。
本研究では二種類の水溶性高分子が形成する水中水滴型エマルションを用いて本課題の解決を図りました。メタクリロイル基(重合性官能基)を修飾した魚由来ゼラチン(以下GelMA)とポリビニルピロリドンの水溶液を混合すると混ざり合わず、GelMAを分散相としたエマルションを形成しました。著者らは、ここに酵素を添加すると自発的にGelMA相に分配することを見出し、酵素が分配したGelMA相を光重合することで酵素内包ゲル微粒子を得ました(図1)。作製したゲル微粒子はろ過や遠心分離等の手法で簡便に精製・回収することができました。また、水中水滴型エマルションの特性を活かし、簡便なフィルタリングのみで粒子径3μmと6μmの微粒子を作り分けることに成功し、微細領域で高精度に粒径制御が可能であることを示しました。

図2. ゲル微粒子への複数タンパク質の同時内包化。緑色、赤色、青色がそれぞれ異なるタンパク質。
蛍光修飾した酵素を用いた内包効率の評価から、最高97%と非常に高効率で酵素をゲル微粒子内に内包できていることを明らかにしました。また等電点や分子量が異なる複数の酵素で評価を行い、酵素種に依らずゲル微粒子内に取り込める他、複数種類の酵素を単一のゲル微粒子内に内包可能であることを確認しました(図2)。

図3. ゲル微粒子に内包した酵素の安定性。37℃, pH 6.0で24h静置前後での酵素活性を比較した。
続いて基質を含む緩衝液中に酵素内包ゲル微粒子を添加したところ、ゲル微粒子は水中から基質を取り込み酵素によって生成した化合物を外部へ排出するマイクロ反応場として機能することが示されました。また、複数の酵素を内包したゲル微粒子では、酵素連続反応を引き起こすことに成功しています(図4)。ゲル微粒子内に内包した酵素は、溶液中の酵素が失活するような環境下においても活性をほぼ完全に維持しており、ゲル微粒子の内包化によって酵素の安定化にも寄与していることが示されました(図3)。

図4. 複数の酵素を内包したゲル微粒子による酵素連続反応。
4.論文情報
論文名:Encapsulation of multiple enzymes within a microgel via water-in-water emulsions for enzymatic cascade reactions
(酵素連続反応場を志し水中水型エマルションを介してゲル微粒子内に複数酵素を内包化)
著者名:Y. Okuno, Y. Iwasaki
雑誌名:Soft Matter
DOI : 10.1039/D3SM01309J9
公表日:2023 年12月22日(オンライン公開)
◆著者プロフィール
奥野陽太(化学生命工学部 化学・物質工学科 助教)
2022年京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。合成した生体関連高分子を用いて、様々な機能を有する分子の領域を創出することが興味対象。一度企業で研究職を経験しているため、その視点も活かして新しい材料の創出を目指している。

◆研究室情報
生体材料学研究室 https://wps.itc.kansai-u.ac.jp/biomat/