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インタビュー:企業の「交渉学」活用事例:積水化学

2015年3月16日

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インタビュー :(取材&記事:関西大学社会学部3年 浦野亮太)

P1080542.JPG 交渉学を積極的に取り入れようとしている企業があります。公共インフラや高機能プラスチックス、『セキスイハイム』のブランドで知られる住宅の製造・販売を手がける積水化学工業株式会社(以下、積水化学)です。教育プログラムの全体総括をしているのは鳥居さん。92年の入社当初から現在の知的財産部に所属する特許のエキスパートです。そんな鳥居さんに知的財産教育に関する取り組みや交渉学導入経緯についてインタビューをしました。




■強い知的財産の創造と保護を目指して
P1080518.jpg 今から7年前の08年、積水化学は、研究開発から得られた成果を、いかにして知的財産(知財)として確保し、保護するかについて不安を抱えていた。知財は企業の成長・収益を支える貴重な経営資源である。当時のことを、鳥居氏は、「特許を出願することは後回しになっていた」と振り返る。年々、特許の出願件数が減っていき、社内での正常値が年間1000件と言われる中、800件台にまで落ち込んだ。高い技術力を持ちながらも、特許を出願する大切さや、そもそも特許の書き方がわからないという技術者が増えていた。以後、積水化学は知的財産活動を強力に推進することになる。

そうした中、鳥居氏が本社から専任の教育業務担当に指名され、知的財産の教育を担当することになった。「特許の大事さを伝えたかった」と鳥居氏は語る。専任の教育業務担当を置く企業はまだ少なく、本社の意気込みは相当だった。しかし、前例のない試みだけに逆風が吹く。関係者からは「本当にそこまでやる必要があるのか」という意見も多くあった。それでも、鳥居氏は積極策を打ち出す。「平均を目指すのではおもしろくない」と研修後の到達目標を高いレベルに設定した。

20150218_132214.jpg08年からたった1人で日本全国の事業所を回り、技術者の実態調査を行う。そして、初心者も学習しやすいように、段階的に研修を受けていく仕組みを構築した。研修が本格始動したのは2年後の10年。同年よりPバッジ(左図)も導入した。Pはpatent(=特許)のことである。特許取得件数など、一定の条件を満たせばPバッジが取得できるシステムで、研修受講も条件に入れている。バッジの取得状況を各事業所ごとに公表することで、技術者間で競争意識も生まれた。

■交渉学で次代を生き抜く
これまで、積水化学では約2000名の技術者が鳥居氏の研修を受講。研修の成果もあり、特許の出願件数は年間1100件を超えるまでに回復した。しかし、鳥居氏は、「特許について詳しくなっても、契約交渉が上手くいかなければ全て無駄になってしまう」と技術者のさらなるスキルアップを目指した。

P1080524.jpgリーマンショック以降不況に陥った日本経済。現在は回復基調だが、いまなお将来への不安は拭えない。企業は刻一刻と変化する経営環境に適応する必要がある。その手段の1つが他社との共同開発だ。「共同開発はこれから間違いなく増える」と鳥居氏は話す。共同開発が増えると交渉の場もおのずと増える。優れた技術があるにもかかわらず共同研究の契約交渉が不調に終われば、企業は多大な損失を被ってしまう。技術者のこの課題を克服すべく、鳥居氏は交渉学に目をつけた。

交渉学の研修では、模擬交渉を行った後に交渉相手と手の内を開示しあい、お互いにフィードバックを行う。実際の交渉ではあり得ないことだ。問題点や改善点を指摘し合うことで、各自の交渉スキルは格段に上がっていく。積水化学には優秀な技術者が多い。鳥居氏はその技術が交渉によって最大限生かされることを願っている。2年の試行期間を経て、今年の春から交渉学が本格的に導入される積水化学。今後は技術力だけでなく、交渉学の分野においても他社をリードする存在になりそうだ。

鳥居氏は社会人だけでなく、最近の大学生に対しても交渉学の必要性を感じている。「答えのないイシュー(問い)に対して解決する意欲のある人材になってほしい」。大学生は社会人になるための準備期間。交渉学は大学生と社会人の垣根を取り払い、社会人に必要なスキルを身につけるのにぴったりの学問だ。

■インタビューを終えての感想
P1080507.jpg◇インタビュー前は「知的財産」という言葉から固い人物像をイメージしていましたが、お会いするととても気さくだった鳥居さん。インタビューでは実際に鳥居さんが作成された研修の資料を見ながら、知的財産について詳しく説明してくださりました。知的財産の創造と保護に邁進する鳥居さん、そして、積水化学のさらなる躍進に期待がかかります。

【関西大学社会学部3年 浦野亮太】