【関大社会安全学部 リレーコラム】SDGsから考える防災

立春を過ぎ、暦の上では春に入りましたが、まだまだ寒い日が続いています。一昨年の12月に本欄で「真夏の長期停電は命に関わる問題」だと指摘しましたが、それは真冬の長期停電でも同じことです。大規模地震災害が発生し、雪がちらつく寒さが続く中で停電が長びくと、たとえ自宅の建物に地震の揺れによる被害がなくても、空調が使えず寒さのあまり体調を崩して命を落とす方が出てくるでしょう。
また、自家発電装置が設置されている医療施設でも、長期停電が発生すれば平常時と同じように空調を稼働させるだけの電力を確保することは困難です。入院患者を別の医療施設に移送せざるを得ないケースも出てくるでしょう。しかし、それは患者への負担が大きく、東日本大震災では災害関連死の主な原因の一つになりました。
このように、真冬の大規模地震災害で停電が長期化すると、災害関連死による死者が大きく増える要因になります。
令和元年に政府が公表した南海トラフ巨大地震の被害想定によると、死者・行方不明者の総数は最大で約23万1千人。過去に経験したことのない犠牲者の数ですが、実はこの中に災害関連死は含まれていません。
私の研究室の試算では、災害関連死による死者数は津波に次いで多く、建物倒壊による死者数を上回るとの結果が出ています。災害関連死対策は、津波避難をどうするかという問題に次いで解決しなければならない課題であり、その中でも長期停電への備えは決して避けては通れない、社会全体として取り組まなければならない重要な課題だと考えています。
現在、温室効果ガスを実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現や、SDGs(持続可能な開発目標)の達成という話題の中で電気自動車(EV)が関心を集めています。一方、災害関連死対策という観点から捉えれば、EVにはいざというときの電源としての役割も期待できます。
政府は乗用車の国内新車販売について、令和17年までにEVなどの電動車を100%にする目標を掲げていますが、防災の観点からもその効果を検討する必要があります。自動車は、人を運ぶ道具から、安全・安心な暮らしを提供してくれる道具に変貌していく過渡期なのかもしれません。
(関西大学社会安全学部教授 奥村与志弘)(2022-02-21・大阪夕刊・国際・3社掲載)